とにかく厳しい塾講師

でらお

読切(脚本)

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〇おしゃれな教室
榊原先生「この方程式は、この値をyに代入する事によって、xが導き出せる」
榊原先生「次の問題も、この問題と同じようなやり方をすれば解けるはずだ」
榊原先生「田代、前に来て解いてくれ」
田代 恵「はい」
  榊原先生に指名され、私は席を立った。
  そして黒板へと向かう。
  榊原先生からチョークを受け取り、私は目の前の問題に取り組み始めた。
  落ち着いて解こう。
  榊原先生が示してくれた解き方を真似すればいいだけだ。
  ・・・
  1分経っても、私のチョークが動き始めることはなかった。
榊原先生「田代、難しそうか?」
田代 恵「・・・はい」
榊原先生「解き方を示したうえで分からないということは、なにか田代の勉強にやり方に問題があるのかもしれない」
榊原先生「今は違う生徒を指名する。田代は授業が終わった後に面談だ」
田代 恵「すいません」
榊原先生「謝ることはない。ただ危機感は持っていたほうがいい。もう高校二年生の冬だ。覚悟をもって日々の勉強に取り組むように」
田代 恵「・・・はい」
  榊原先生は大学生のアルバイト講師だ。
  ただ非常に厳しい先生である。歯に衣着せずに、ズバズバと厳しいことを言ってくる。
  それは一部の生徒からは鬼講師、と呼ばれるほどのものだった。
田代 恵「・・・はあ」
  席に戻って、私は小さくため息をついた。
  私は勉強が苦手だ。
  特に数学には強い苦手意識を持っていた。
  それでも私が目指している大学は試験科目に数学が含まれていて、その苦手意識をなんとか克服しなければならなかった。

〇警察署の食堂
  授業が終わり、私は榊原先生に面談室へと呼び出された。
「田代です」
榊原先生「どうぞ、そこの席に座って」
  生徒は授業が終わって皆帰り、面談室には私と榊原先生だけしかいなかった。
  榊原先生はふと、きょろきょろと辺りを見回し、そして周りに誰もいないことを確認すると、おもむろに眼鏡を外した。
  瞬間、榊原先生の雰囲気が一変した。
榊原先生「今日の授業も終わったあ〜〜〜」
田代 恵「ちょっと! まだ私との面談が終わっていないので、プライベートモードに切り替えないでください!」
榊原先生「えぇ・・・。恵は僕が一生養ってあげるから、勉強なんて辛いことしなくていいよ〜」
田代 恵「塾講師がそんなこと言っちゃいけないでしょう! 私には行きたい大学があるんです!」
田代 恵「さっき授業でやった方程式の解き方、もう一度私に教えてください!」
榊原先生「あんなつまらない方程式解いていないで、僕と恋の方程式を解かない?」
田代 恵「今は結構です!」
榊原先生「そんなあ・・・」
  榊原先生と私は恋人だった。
  塾講師とその生徒という関係がある以上、それは秘密の関係ではあったが、その関係は半年ほど続いていた。
  二人きりになると榊原先生の人格は急変する。榊原先生はプライベートモードになると途端に、私に甘くなるのだ。
  授業ではあんな厳しいことを私に言っていたのに、今ではこの有様だ。
田代 恵「もう頼れるのは榊原先生しかいないんです! お願いします!」
  私は数学のあまりの出来の悪さに、学校の先生には見捨てられていた。
  だから榊原先生は私の最後の頼みの綱でもあった。
榊原先生「週末のデートどこへいこうか?」
田代 恵「この人、全然私の話を聞いてくれない!?」
榊原先生「恵と一緒に行きたいなって思った喫茶店があったんだ。 そこへ行ってみないか?」
田代 恵「すごく魅力的です! 正直行きたいです!」
田代 恵「でも私がそんな遊んでいられる状況じゃないってこと、榊原先生もよく知っているでしょう?」
榊原先生「・・・うぅ」
田代 恵「私、知ってるんですよ。授業中に榊原先生が私のことをよく指名するのは、本当は榊原先生が私に期待しているからだってこと」
榊原先生「いや、違うよ」
田代 恵「え?」
榊原先生「恵のことが好き過ぎて、授業中もつい恵のことを目で追ってしまうから、それを誤魔化すために指名してただけだよ」
田代 恵「なっ!? そんな理由なら指名するのやめてほしいんですけど!?」
榊原先生「あはは!」
田代 恵「笑い事じゃない!」
  まったく、プライベートモードの榊原先生には振り回されてばかりだ。
  でも私はどちらの榊原先生も大好きだった。
  だからこそ、榊原先生の隣に相応しいような立派な大学生になりたいのだ。
  そんな私の熱意を汲み取ってくれたのか、坂柳先生はもう一度、眼鏡を手に取った。
榊原先生「田代」
田代 恵「は、はい!」
榊原先生「今の田代の成績では、田代が目指している大学の合格は難しいだろう」
田代 恵「・・・そう、ですよね」
榊原先生「ただこれから一生懸命に努力をすれば、それは叶わないものではない」
田代 恵「・・・本当ですか?」
榊原先生「ああ、田代の努力次第だがな」
榊原先生「・・・ただ」
田代 恵「・・・ただ?」
榊原先生「一つだけ言えるのは、今の田代には田代を甘やかしてしまう恋人の僕は必要ないということだ」
田代 恵「それは・・・」
  薄々気づいていたことだった。
  私は恋愛にうつつを抜かしている場合ではなく、本気で勉強に取り組まなければいけなかった。
  そんな私に恋人の榊原先生は必要ないのだ。
榊原先生「だから・・・」
  私は榊原先生の次の言葉に、息を呑んだ。
  これは仕方のないことなのだ。
  なにかを得ようと思うのなら、なにかを犠牲にしなくてはならないものだから。
榊原先生「週末、デートをしよう」
田代 恵「数学の方程式は完璧に解けるのに、恋愛が絡むと一気に論理性がなくなるのは何故!?」
  一年後、私は志望校に合格した。
  榊原先生がデートという名の数学の勉強会を、何度も開いてくれたおかげだろう。

コメント

  • 表では厳しい彼が、彼女の前だと甘々論理性0になってしまうギャップが可愛かったです!あと彼女が、無事に志望校合格出来て、良かったとも思いました!素敵な物語ありがとうございました!

  • 眼鏡でオンオフが代わるのが面白かったのですが、ラストは変わらないんかいっ!っておもわずツッコんでしまいました(笑)
    こんなに想ってくれて甘やかしてくれる彼氏は最高なのですが、ちゃんと面談してあげて~っ!

  • 彼の「結婚しよう」の台詞はよかった。彼が彼女にベタ惚れしていているのがとてもわかります。でも、彼女は意外と冷静でしたね。

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