第14話 【大会への出場】(脚本)
〇けもの道
小鳥遊ことり「伏せてっ!」
希美都ココロ「うぇ? ひゃっ!」
銃声がなり響き、ことりに力づくで
押し倒されたココロの頭上を、
弾丸がかすめ飛んだ。
紺野正樹「岩の向こうに三人いる!」
小鳥遊ことり「見えた! オラアァー!!」
ことりがアサルトライフルを構えて
木陰から身を乗り出し、発砲する。
小鳥遊ことり「一人やった! けど、残りはスモーク炊いて 逃げやがったな・・・」
正樹たち三人がいるのは、
ゲーム『Vertex』の世界、
その戦場マップのひとつだった。
『Vertex』とは──
三人一組のチームを組んで他チームとの
銃撃戦を勝ち抜き、最後の一チームと
なるまで生き残りを目指すゲームだ。
〇雲の上
蒔苗「蒔苗と、勝負してください」
〇けもの道
蒔苗から提示されたのは、
今度開催される、バーチャルiTuber限定の
大規模な『Vertex』大会。
既に出演が決まっていた蒔苗の推薦で、
ココロもまたチームを組み、
出場することが決まっていた。
大会に向けての特訓週間と称し、
ココロは毎日、
こまめに実況動画をアップしていた。
希美都ココロ「よし、追いかけよう!」
息巻くココロに、
ことりが片手で待ったをかける。
小鳥遊ことり「深追いは危ない。幸い、あたしたちが いる地点は、しばらくは安全。 ここで態勢を立て直そう」
希美都ココロ「うっ・・・了解」
はやる気持ちを抑えきれないのか、ウズウズとココロは敵が逃げた方角を見ている。
そんなココロを横目で見つつ、ことりが、
そっと正樹に近づいてきた。
小鳥遊ことり「なんか、すごい気迫だね、あの子」
紺野正樹「そりゃまあ、 またとないチャンスですからね」
紺野正樹「有名なバーチャルiTuberも出場する 大会で、かなり注目されてますから」
小鳥遊ことり「確かに、このビッグな大会で優勝でも できれば、一気にチャンネル登録者数を 増やすことも可能だろうな」
小鳥遊ことり「実際、あたしのチャンネルでも、 大会に参加するってだけで、 かなりの数の登録者が増えたよ」
紺野正樹「ココロちゃんも、大手バーチャルiTuber 情報サイトの人気急上昇ランキング 上位に掲載されました」
一日に五千人ほどのペースで登録者が
伸びたときには、本当に驚いた。
大手サイトのランキングに乗ったことで、
そこから見にくる人たちもいるのだろう。
ここでココロの魅力を存分にプッシュすることができれば、もっともっと・・・。
紺野正樹「『Vertex』の仕組み上、生き残れば 生き残るほど、大会の公式配信に 映っている時間は長くなりますし」
紺野正樹「それに、全20チームが参戦する中で、 見せ場が多いチームは、それだけ カメラを向けてもらいやすくなります」
何より、大会の運営から優勝チームへの
特典として、今後の企画に参加する権利
など、活動のサポートも与えられるのだ。
小鳥遊ことり「それにしたって、少し焦りすぎに 感じるのは、あたしだけ? まるで、後がないような雰囲気だけど」
紺野正樹「・・・・・・」
紺野正樹(そう、なんだよな・・・)
ココロのこの大会にかける意気込みは、
尋常ではなかった。
確かに、降って湧いたチャンスではある。
だが、それにしたって・・・
蒔苗との勝負であるから、だろうか。
そこに、正樹には分からないほどの
意味があるのだろうか。
そのように考えてはみるものの、
いまいち、しっくりこない。
紺野正樹「今回、チームを組んでくれて ありがとうございました」
紺野正樹「経験者のことりさんがいると、心強いです」
小鳥遊ことり「いやいや、こちらこそ。こんな でっかい企画に誘ってもらえて嬉しいよ」
小鳥遊ことり「けど、ごめんね。あたし、経験と腕前が 比例してない下手っぴだから、 あんまり引っ張ってあげられないけど」
紺野正樹「それを言うなら、僕だって・・・」
そのとき、何かに気づいたのか、
素早い動きでことりが銃を持ち上げた。
直後、一発の銃声が鳴り響く。
小鳥遊ことり「あっ・・・」
隣で、ことりの身体がゆらりと倒れた。
小鳥遊ことり「畜生、狙撃され・・・」
言いかけた彼女のHPゲージは既にゼロ。
その身体が光に包まれ、消えてしまった。
急いで銃声を頼りに索敵しようとした
正樹の脳天を、銃弾が貫く。
敵の姿が、遠くに見える。
あんな距離から狙撃するなんて・・・。
勝負がつくのは、本当に、
あっという間だ。
希美都ココロ「もっと、上手くならなきゃ・・・」
そう呟きつつ応戦しているココロの姿を
見つめながら、正樹は命を落とした。
〇可愛い部屋
希美都ココロ「うぅー、今日も一回も勝てなかった! 主に私が足を引っ張ってた!」
ゲームからログアウトしてきて早々、
ココロが地団太を踏む。
紺野正樹「まあまあ。仕方ないよ。 ココロちゃん、もともとこういうゲームの 経験が多いわけじゃないし・・・」
希美都ココロ「それはそうなんだけど・・・ んむぁーっ! キィー! 悔しいー!!」
ソファに倒れ込み、
バタバタと全身で悔しさを表現している。
紺野正樹「そんなに焦ることないよ。 この大会に負けたら何もかも 失うってわけじゃないし・・・」
紺野正樹「出るからには勝ちたいし、確かに優勝すれば、通常ならあり得ないくらいの視聴者を一気に獲得できると思うけど・・・」
紺野正樹「今回は少しでも爪痕を残して、今後の数字を伸ばしていくキッカケにできれば・・・」
希美都ココロ「・・・待てない」
紺野正樹「ココロちゃん?」
希美都ココロ「急がないと、私・・・決心が・・・」
紺野正樹「決心って? ココロちゃん、何の話をしてるの?」
希美都ココロ「あ・・・ごめん! なんでもないんだ」
わたわたと立ち上がるココロ。
希美都ココロ「私、射撃場にログインして、 エイムの練習してくるね!」
希美都ココロ「へへへ、 狙ったところに弾が飛ばなくて・・・」
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