人体寄生植物

青谷圭

第五話 『型破りな解決策と決死の覚悟』(脚本)

人体寄生植物

青谷圭

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〇病院の廊下
  橘は無線を奪った沙羅を睨みつけ、苛立った口調で告げる。
橘省吾「返してください。我々も、助けるために寄生している植物を取り除こうとしているんです。邪魔をされては困ります」
黒木沙羅(そうよね。放っておいたら一日で衰弱死してしまうし、そのとき蔓が暴れて種を撒くんだから、取り除くしかないわよね)
黒木沙羅「・・・すみません。ただ、寄生された人を安全に救い出してほしくて」
橘省吾「我々も最善の手段を模索しています。他に方法があるなら、ぜひ教えていただきたいですね」
  現場の苦労も知らず、思いつきだけで勝手なことを言うなと憤りが伝わってくる。
黒木沙羅(当然ね。いくらなんでも、出しゃばりすぎよ)
  それでも、このまま任せては祖父と同じ結果になってしまうと、頭の中で警鐘が鳴る。
黒木沙羅(情報を整理しましょう)
黒木沙羅(ヨルガオの香りがあれば、寄生されずに近づける。問題は、育った蔓を引き剥がすには切る必要があること)
黒木沙羅(蔓を切れば出血死のリスクが高くなる・・・赤坂さんはあのとき、なんて言ってた?)

〇おしゃれなリビングダイニング
赤坂隆二「そしたら、吸血されて死なんように、血を補給するんはどうや?」
赤坂隆二「栄養も一緒に点滴したら、衰弱せえへんやろ」

〇病院の廊下
黒木沙羅(効果はありそうだと思った)
黒木沙羅(木に近づけないから無理だと答えたけど、ヨルガオの香りで近づけるのなら──)
黒木沙羅「輸血しましょう。血と栄養を点滴すれば、衰弱死も失血死も免れるはずです」
橘省吾「あれだけ蔓に覆われている状態で、中の人に点滴するのは難しいですよ。その間に木に襲われる危険も高い」
黒木沙羅「それなら、木に点滴をするのはどうでしょう。必要な栄養をくれるとわかれば、襲わなくなるはずです」
橘省吾「木に点滴・・・!? そんな馬鹿な話が」
黒木沙羅「樹木の病気を治療する際に、温水点滴をすることはあります。輸血はさすがに、前例がないと思いますが──」
橘省吾「私の一存で決めることはできません」
  必死の説明に首を振られ、ショックを受ける。
黒木沙羅「そんな・・・っ、どうか、お願いします!」
橘省吾「ですが──処理班が到着するまでにあなたが勝手に試すとしても、止めはしません」
  ため息まじりの譲歩を得られ、沙羅はうなずいて見せた。
  全血の製剤と輸血用の器具を受け取り、使い方 を確認してから、集中治療室に入っていく。

〇手術室
黒木沙羅(あとは、本当にヨルガオの香りが効くかどうかね)
  自分が種に寄生されなかったのは運がよかっただけで、仮説自体は間違っているかもしれないと、不安がこみ上げてくる。
黒木沙羅(香水は全身にふってみたけど・・・もし効果がなければ、私も寄生されてジ・エンドね)
黒木沙羅(だけど、迷っている暇はないわ)
黒木沙羅(時間が経てば衰弱してしまうし、蔓が暴れ出し、種を飛ばすようになれば手がつけられなくなる)
  じりじりと距離を詰めると、蔓が反応し、伸びてくる。ひやりとしつつも、更に一歩、足を踏み出す。
  蔓は沙羅の腕に巻きつくが、すぐには寄生せず、迷うようにゆらめいていた。
黒木沙羅(大丈夫。一度は寄生される覚悟を決めたんだもの。怖くなんかないわ)
  もう寄生されようとは思わないが、自分自身にそう言い聞かせる。
  輸血用の針を太い蔓に突き刺そうとしたところで、ギュウッと手首に巻きついた蔓が締め上げてくる。
黒木沙羅「・・・っ!?」
黒木沙羅(何かされると理解しているんだわ。 敵と判断されたら、攻撃される・・・!)
  香水が意味をなさなくなり、沙羅も木に取り込まれて死ぬかもしれない。
黒木沙羅(このまま逃げれば、私は死なずにすむ。 だけど、赤坂さんは──)
赤坂「・・・うぅ」
  考え込んでいると、小さな呻きが漏れ聞こえ、ハッとする。
黒木沙羅(何をためらっているの。 赤坂さんは何度も私を助けてくれたじゃない)
黒木沙羅(これでまた何もできなかったら、一生後悔するわよ・・・!)
  沙羅は自分を奮い立たせ、手早く蔓に輸血用の針を突き刺した。
  テープで固定したところで、バシッと蔓に叩きつけられる。
  沙羅は跳ね飛ばされ、尻餅をついて倒れ込んだ。
黒木沙羅「いた・・・っ」
  手をついたときに右手首をひねったのか、痛みを覚える。
  それでも、すぐに別の蔓が伸びてきたので、慌てて立ち上がり、逃げ出した。
黒木沙羅「橘さん。輸血セットの装着、完了しました! 中の人を傷つけないよう、蔓を切って救出してください!」
  廊下に向かって声を張り上げると、扉近くに待機していた処理班がなだれ込んでくる。
  防護服をまとい、小型の電動ノコギリを携えた隊員に、沙羅はヨルガオの香水を渡す。
黒木沙羅「この香水をつければ、寄生されるリスクが減るはずです」
黒木沙羅「ただ、攻撃すれば襲ってくるので、気をつけてください」
  沙羅の説明に、隊員は質問も反論もなく、うなずいてみせる。
黒木沙羅(話が早いわ。橘さんが、すでに説明しておいてくれたみたいね)
隊員「そっちを押さえてくれ。いいか、切るぞ」
隊員「盾班、蔓からの攻撃に備えろ!」
  モンキーレンチで抑えつけ、切ろうとすると、蔓は大暴れする。
  盾を持つ人たちが攻撃を防ぎ、火炎放射器を手にした人たちが威嚇をこめて火を放つ。
黒木沙羅(すでに多くの事例を対処してきたのか、それとも日頃の訓練のたまものなのか・・・)
  見事な連携に感心しつつも、血飛沫と微かな呻き声があがる度に、肝を冷やした。
隊員「今だ、引きずりだせ!」
  絡みついた蔓が切られ、内部からぐったりした赤坂が救出される。
  植物は取り返そうと暴れるが、盾で食い止めている隙に、他の隊員たちが赤坂を部屋から運び出していく。
隊員「すぐに蔓を引き剥がして、焼却を──」
黒木沙羅「待ってください。準備が整うまでは、蔓をそのままにしておけませんか」

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