春はもうそこにあるのに(脚本)
〇オフィスのフロア
「あと少し」
「いつも大変だね」
涼矢がそう言って、ばいばいと手を振る。
ひなの「じゃあまたね。 (涼矢帰っちゃった)」
涼矢「遅くなる前に帰りな」
〇オフィスのフロア
今日も20時を回ってしまった。
ひなのは席を立ち、フロアを出た。
〇オフィスのフロア
ひなのは今日も残業。19時を、時計が指した。
「今日もお疲れだね」
涼矢はひなのの同僚、時々顔を合わせる。
〇川沿いの公園
寒いなあと、ひなのはため息を吐く。
会社を出るころには9時前だった。
帰り道の橋で立ち止まる。
ひなの「寒い。・・・涼矢、まだ会社かな。 どうしてるんだろ。 コーヒー差し入れればよかったかな」
〇川沿いの公園
ひなの!!
まだ帰ってなかったのか。
ひなのが驚いて少し離れたところにいる涼矢を見つめた。
夜の風が冷たい、肩を震わせた。
〇川沿いの公園
ひなのが、涼矢を見つめた。
冬の夜は冷たい。
ひなのの首元がふるっと揺れた。
ひなの「涼矢。遅いんだし、帰ればよかったのに。 早く帰りなよ、疲れてるでしょ。 あした早いんでしょ」
涼矢「いや、でも・・・。 まあ、ひなのだって大変だっただろ。 部長うるさいしな、すぐせかすし。 書類、終わった?」
〇川沿いの公園
涼矢「俺、忘れ物しちゃってとりにかえってきたところ、さっき出会わなかったな。 ひなの、寒いだろ、お疲れ様」
涼矢が、マフラーを手に持っていた。
〇川沿いの公園
そうだね、と
ひなのが笑った。
ひなの「そうだね、部長わがままなんだよね。 涼矢も、怒られたことある? もう、いやになっちゃうよ。 ・・・寒いね」
涼矢「そんな恰好で寒くない?? 朝はこんなに冷えるって言ってなかったよな。 遅くなったの部長のせいだよな。 風邪ひくなよ」
〇川沿いの公園
あはは、と
ひなのが笑う。
その時、笑った
ひなのが
くしゃみをした。
ひなの「あはは、奥さんと仲良しなんだね。 どこで出会ったんだろうね。 優しい彼氏だったのかな。部長」
〇川沿いの公園
涼矢が、ふふっと笑った。
涼矢「そういえばさ、俺こないだ部長が奥さんと一緒に帰ってるの見たんだよ。 迎えにきてたみたいでさ。 びっくりしたー」
ひなの「ええー!! 部長が!!?あのかわいらしい奥さんでしょ。 社内誌で見たよ!!」
〇川沿いの公園
涼矢「本当だよな。 そういえば みなとみらい で若いころデートしたんだってよ。 いいとこだよな みなとみらい」
〇田舎の公園
歩いていたら、公園にたどり着いた。
涼矢が、
ひなのを見た。
「プロジェクト大変だな、ちょっとしゃべっていかない?」
〇田舎の公園
あと少しかな。
これ終わったら、あたらしい映画見にいくんだ。
涼矢「映画?いいね。 ・・・あ、それ俺も一緒に行きたい、 何みるの? あ、それ俺も見たかった」
〇田舎の公園
ひなの「う、うん・・・。 (涼矢の横顔・・・やっぱりきれい) ふたりで・・・?」
涼矢「ふたりだよ!! ふたりがいいんだ。 ひなのと行きたい。 それに、さ・・・」
涼矢が、寒いのに頬を赤らめて
ひなのを見た。
すこしだけ俯いて顔を逸らす。
〇田舎の公園
ひなの「・・・そんな言い方したら、勘違いしちゃうよ・・・」
涼矢「・・・そりゃ・・・」
涼矢が、
ひなのの手を見つめた。
寒さで
ひなのの手が少し震えている。
〇田舎の公園
ひなのは
涼矢の瞳を見た。
涼矢が、優しくひなのを見た。
涼矢「・・・あの、さ。 ふたりで・・・行きたいんだ。 ふたりじゃなきゃ嫌だ」
〇空
涼矢「これ・・・・・・ 今日・・・つけて帰って。 ひなのが 風邪をひかないように。 ・・・本当は俺があっためたいけど」
〇空
ひなのが、えっと、息を呑んだ。
マフラーを、涼矢が差し出す。
ぎゅっと握って。
えっ・・・。
〇空
涼矢「だからっ・・・。 俺、ひなののこと。・・・。 これ、使って帰れよ。 ・・・ふたりじゃなきゃ嫌だからな!!」
〇空
涼矢が、ひなのに
マフラーを押し付けて
走って去って行った。
「ひなのと行きたいんだ!」
もう一度、言って。
涼・・・矢・・・
ふわふわと、ひなのの胸に暖かい痛みが広がった。
マフラーを巻いているように、暖かくなれるような作品でした!二人の思いが通じ合って良かったです!素敵な物語ありがとうございました!
相手の仕草や一言で、自分への愛情表現だとわかった瞬間って、心躍るしはにかんでしまいますよね。春近いこの時期、寒の戻りが二人の距離をぐっと縮めてくれて、素敵な季節の予感です。
二人の思いが交差して、ひとつに繋がったみたいですね。
マフラー温かそうです。
彼のマフラーならよりいっそう温かいですよね。
キュンってしました。