裸足の未来は夕焼けの色

暁 潮目

裸足の未来は夕焼けの色(脚本)

裸足の未来は夕焼けの色

暁 潮目

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〇住宅街の公園
優弥「・・・明日やんな」
美衣「うん。荷物のトラックは今日やけど、」
美衣「私らは明日お昼の飛行機に乗るから朝出発やって」
優弥「カナダまでって、どれくらいかかんの?」
美衣「飛行機に乗るんは十時間くらい、ってお母さんは言っとったかな」
美衣「・・・せっかくもう少しで卒業やのに、こんな時に引っ越し嫌やなあ」
優弥「でも、美衣のおじさん、海外転勤なんて凄いやん」
優弥「お前も英語ペラペラになるんちゃう?」
美衣「そんなんいらんわ」
美衣「言葉が違うのもそうやけどさ、向こう行ったとしても友達もおらんし、」
美衣「お父さんやお母さんやって自分の事で大変やろし・・・」
優弥「・・・うん」
美衣「夜寝る前とかにそういう事考えたらな、なんか、」
美衣「裸足で砂漠に放り出される、みたいな気持ちになって目の前が真っ暗になる」
美衣「足が痛くて苦しくて『助けて!』って叫んでも誰にも届かへんような、」
美衣「ひとりぼっちの場所に連れてかれるみたいな気分」
優弥「・・・そっか」
美衣「・・・行きたくないなあ」
優弥「俺、何も気の利いた事言えん、ごめん」
美衣「いや、こっちこそ困らしてごめん」
美衣「それより優弥もさ! 私がカナダ行ったら大丈夫なん?」
美衣「これからは寝坊してもピンポンして起こせへんし、」
美衣「宿題分からんくても教えてくれる隣の親切な幼馴染はおらんねんで!」
優弥「いや、そんなん・・・」
優弥「・・・平気な訳ないやろ」
美衣「えっ!?」
優弥「俺やって、美衣が居なくなるって聞いてから、どうって事ない時に何回も泣きそうになってる」
美衣「・・・」
優弥「子供の頃よく遊んどった公園とか、」
優弥「ゲーセンで二人で取ったヌイグルミとか、」
優弥「そういうの見る度にお前が居なくなる事実を思い知る」
優弥「あん時しょーもない事で爆笑したなとか、」
優弥「あの時の喧嘩は正直俺が悪かったよな、とか」
美衣「・・・うちら、基本しょーもない事しかしてこんかったよな」
優弥「時間を戻せたらこうするのにって思う事いっぱいある」
優弥「たぶんこれからも『ここに美衣が居たらな』って何回も言うと思う」
優弥「やけど、やっぱさ」
優弥「俺らは裸足で砂漠を進むしかないんやな」
優弥「痛くても、苦しくても」
美衣「・・・SOSが誰にも届かんくても?」
優弥「お前の叫びなら俺が受け止めるよ」
優弥「そんで、カナダまで飛んで言って・・・ってそれはちょっと遠いか」
美衣「・・・遠すぎやわ」
美衣「でも、ありがとう。気持ちだけで充分嬉しい」
優弥「日本とカナダの距離は遠いかも知れんけどさ、」
優弥「俺も、お前と同じ砂漠を進むから」
優弥「同じ方向目指せるように頑張るから」
美衣「・・・優弥」
優弥「これからは直接会えんくなっても、『美衣も向こうで頑張ってる』って、」
優弥「『今も美衣と過ごした大切な時間の続きや』って、そう思って頑張る」
優弥「それくらい、これまでの毎日は心の真ん中の大切な思い出やから・・・」
美衣「なんなん・・・いよいよ『さよなら』って時にそんな彼氏みたいなセリフ」
美衣「ずるいわ」
優弥「それくらい言わしてや」
優弥「だって俺はずっと前からお前の事見てたんやから」
「・・・・・・」
優弥「ちょっと待って!!」
優弥「俺、なんか今めっちゃクサい事言った気がする!!」
優弥「一旦忘れて!!」
美衣「あはは! 無理無理!」
美衣「・・・でもありがとう」
美衣「私、今日の事きっと一生忘れへんわ」
優弥「一生って・・・大袈裟やな」
美衣「大袈裟ちゃうよ、絶対覚えとく」
美衣「・・・だから優弥も、私の事忘れんとってな」
優弥「忘れるわけないって。絶対」
美衣「約束な」
優弥「分かった。約束する」
美衣「大人になったら、約束守ってるか証明して貰いに行くわ」
優弥「何それ怖っ」
優弥「受けて立つ」
美衣「じゃあね・・・寂しくて泣きそうになったら手紙書いていいよ」
優弥「なんで許可制やねん。なら毎日書くわ」
美衣「・・・ほなね」
優弥「うん、じゃあ、また」
優弥「・・・またいつか」

〇テレビスタジオ
インタビュアー「はい! 今ご覧いただいたのは、」
インタビュアー「鹿島優弥さんが主演を務めて話題沸騰中『裸足の未来』のワンシーンでした!」
優弥「はい」
インタビュアー「こちらの映画、大ヒット青春小説が原作ということですが、」
インタビュアー「作者が完全非公開の、謎の人気覆面作家であるところも話題の一つですよね」
優弥「謎の覆面作家か・・・そうですね」
インタビュアー「今のシーンは、故郷の幼馴染との別れの場面で、」
インタビュアー「優弥さんの方言が新鮮だとファンからも評判です!」
インタビュアー「撮影で苦労された点はありますか?」
優弥「僕も元々は地方出身なんですが、言葉を結構忘れちゃってて、」
優弥「思い出すまではちょっと大変でした」
インタビュアー「じゃあ優弥さんも、上京されるときはこんな感動の別れがあったり?」
優弥「あー、上京の時ではないですが・・・そうですね、」
優弥「実際に、こんな風に仲の良かった幼馴染はいました」
インタビュアー「わあ! じゃあその方も、優弥さんがこんなスターになって喜んでらっしゃるでしょうね!」
優弥「いえ、そいつとはしばらく連絡も取ってないんで、俺が俳優やってんのも知らないかも」
インタビュアー「いやいや、この国で優弥さんの顔を見ない日はないってくらい活躍されてるじゃないですか!」
優弥「あはは」
優弥「まあ、連絡取ってなくても、向こうが元気にしてるってのは何となくわかります」
インタビュアー「・・・? そうなんですか?」
優弥「このシーンね、俺の記憶にあるそいつとの会話そのまんまだったんで」
優弥「彼女、素敵な作品を書く作家になったんだなって」
優弥「・・・だから俺も、約束の証明しないとね」

コメント

  • フィクションだったのか、と思わせておいて、真実だったというオチで、私の心は盛り上がりました!彼が自分の言葉で、覆面作家さんに証明する日が待ち遠しいですね!素敵な物語ありがとうございました!

  • ぐわー!
    めちゃめちゃ好みのお話でした。
    関西弁の軽やかでテンポの良いやり取りだからこそ、時折混ざる切なさにきゅっとしました。
    この二人だからこそなり得る余韻のあるラストが、とても印象的なお話でした!

  • こういう展開、すごくすごく好きなので、楽しく読めました!
    思いが通じ合っている関係性、素敵でした...!

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