たそかれの刻

藤崎羽琉

読切(脚本)

たそかれの刻

藤崎羽琉

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〇通学路
  黄昏時。
  それは、夕闇迫る「誰そ、彼」とたずねる刻。
男の人「今晩は、お嬢さん」
  誰・・・?
男の人「こんな時分に、何方へお出掛けですか?」
  ・・・この人は誰、なんだろう?
  知らない男の人だ。
男の人「迷子になってしまったんですか?」
男の人「それとも、何か探しモノでも?」
  ・・・・・・。
男の人「どちらにしても、この先は危ないですよ?」
  この辺に、危ない場所などあっただろうか・・・
  この道をまっすぐに歩いていけば、私の家があるはずなのに。
  どれだけ歩いても、辿りつけない。
男の人「宜しければ、僕のウチに寄っていって下さい」
男の人「きっと、貴方の望むモノが見つかるハズです」
  ・・・・・・。
男の人「ほら、早く来てください」
  ・・・私には、探さないといけないモノがある
  かえらないと、いけない場所がある
  だから、彼についていくコトなんて──
男の人「ほぉら、早く一緒にいきましょう?」
男の人「ソコにぼぅっと突っ立っていると、喰われてしまいますよ?」
  ・・・ナニに?
  行ってしまった・・・。
  ・・・・・・。
  ・・・とりあえず、彼についていこう。

〇古めかしい和室
男の人「どうぞ、好きな場所に座って下さい」
  ここ、は・・・?
  ・・・あれ?
  どうやって、ココまで来たんだっけ・・・?
男の人「お腹、空いていませんか?」
男の人「どうぞ、温かいうちに食べて下さい」
  この料理・・・・・・
  昔、よくあの人が作ってくれた・・・
男の人「どうか、されましたか?」
  むか、し・・・?
  私は今も、あの人と暮らしているハズなのに・・・
  ・・・・・・。
男の人「もう、お食事はいらないようですね」
  この人は、いったい誰なんだろう・・・?
  その優しい微笑みが、少し怖くなる
男の人「そんなに、怖がらないで下さい」
男の人「僕は、貴方を助けたいだけなんです」
  ・・・助け、る?
  男の人が、一歩近いてくる
  私は同じだけ、後ずさる
  コツン、と
  その時、足にナニかが当たった
  コレ、は・・・
  あの人が、私にくれた指輪だ・・・
男の人「お返しします」
男の人「ソレは、貴方のものです」
男の人「貴方が探していた、貴方の大切なモノです」
  ・・・・・・ああ、そうだ。
  私は、ずっとコレを探していた・・・

〇通学路
「何でそんなコト言うの? アナタなんて、大嫌い・・・ッ!」
「待ってくれ! ――ッ!」
  あの、雨の日
  あの人とケンカをして、家を飛び出した
  ケンカの原因は、もう覚えていない
  覚えているのは、ただ──
  わたし、めがけて、はしってくる──

〇通学路
  おおきな、くるまの、すがた、だけ──

〇通学路
  ・・・ああ、そうか。
  どうりで、私は家に辿りつけないハズだ。
  私はもう、このセカイの人間ではなかったんだ・・・
男の人「貴方の還るべき場所は、見つかりましたか?」
  ・・・・・・。
  ・・・・・・わから、ない。
  わたし、のかえる、ばしょは、もう、どこにも・・・・・・
男の人「どうか、思い出してください」
男の人「貴方は既に、道しるべを手にしています」
男の人「そのヒカリをどうか、見失わないで下さい」
  ・・・・・・。
  ヒカリ、が。

〇通学路
  左の薬指から、ヒカリが溢れ出してきた。
  指輪から、温かい気持ちが流れ込んでくる
  ソレは、私を優しく包み込む
  ・・・うん、そうだよね。
  もう、大丈夫だよ。
男の人「──ココロは、決まったようですね」
  私は、頷く
  私が還る場所は、いつだってあの人のところだ
男の人「では、お手伝いします」
  ・・・この人は、いったい誰だったのだろう
男の人「目を閉じてください」
  なぜ、私を助けて、くれたのだろう・・・?
男の人「どうか、安らかに」
  ・・・貴方も。
男の人「──さようなら」
  ──本当に、ありがとう。

〇住宅街の道
  黄昏時。
  それは、夕闇迫る「誰そ、彼」とたずねる刻。
男の人「今晩は、お嬢さん」
男の人「こんな時分に、何方へお出掛けですか?」
  オシマイ。

コメント

  • 黄昏時に出会った彼と、その後自分がかえる場所。
    なんだか文学の雰囲気があって好きです。
    いきなりの死って、たしかに自分でも理解できてないことがありそうだと思いました。

  • これからも、彼は黄昏時に現れ、手を差し伸べて行くんでしょうね。切なさと不思議さがある、素敵な作品でした!とても良いありがとうございます!

  • 生前に忘れた何かを取り戻させてくれる。
    特に人間は精神の生き物ですから、思い出がとても大切ですよね。そんな忘れ物と、黄昏時の神秘的な背景がとてもマッチしていました!

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