魔王の息子とマッチングしてしまったのですが?

大河内 りさ

魔王の息子とマッチングしてしまったのですが?(脚本)

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〇駅前広場
美琴(ちょっと早く着いちゃったかな)
美琴(マッチングアプリでマッチした人と会うの初めて)
美琴(ちょっと緊張するなぁ)
  『駅前広場にいるぞ』
美琴(えっ!)
美琴(”タクト”さん、もう来てるんだ!?)
  『目印は帽子だ』
美琴(帽子・・・?)
美琴(あっ、あの人かな?)
美琴(──って)
美琴「なぜ着物!?」
  『早く来い』
美琴「早く来いって・・・」
美琴「いやいやいや・・・・・・」
美琴(普通、はじめましての顔合わせに着物で来る!?)
美琴(しかも『早く来い』とか、俺様気取ってんの!?)
美琴(これはハズレだ)
美琴(よし、見つからないうちに帰ろう)
タクト「お嬢さん」
美琴「ぎゃっ!?」
タクト「あなたが”ミィ”さんかな?」
美琴「うっ・・・」
美琴「・・・・・・」
美琴「そ、そうです・・・」
タクト「会えてよかった」
タクト「人間界では、はじめましてだな」
タクト「俺が、タクティゲール・レアバージ・ ヴァンダドラルだ!」
美琴「ど、どうも・・・」
美琴「・・・・・・」
美琴「森瀬美琴です・・・」
美琴(誰か・・・)
美琴(この出会いを──)
美琴(嘘だと言って!!)
  魔王の息子と
  マッチングしてしまったのですが?

〇川沿いの公園

〇公園のベンチ
美琴「・・・・・・・・・」
タクト「・・・・・・・・・」
美琴(とりあえず移動しようってことになったけど・・・)
美琴(どうしよう──)
美琴(帰りたい!!!!)
美琴(何度かメッセージのやり取りをして、相性がよさそうだったから会ってみようってことになったけど・・・)
美琴(こんなに奇抜な人だとは思わなかった!!)
美琴(適当に会話して、さっさと帰ろう)
タクト「おい」
美琴「はいっ!?」
タクト「こうして会ったのだから、 何か話そうではないか」
美琴「・・・とりあえず、自己紹介でもします?」
タクト「おお、そうだな!」
タクト「先程も名乗ったが、 俺の名はタクティゲール・レアバージ・ ヴァンダドラルという」
タクト「これまで通り、タクトと呼んでくれ」
美琴「・・・外国の方ですか?」
タクト「国名が知りたいのか? ヴァンダドラルだ」
美琴「ヴァ・・・?」
タクト「聞いたことがないという顔だな」
美琴「ええと・・・」
美琴(待って)
美琴(名前に国名が入ってるのって・・・)
美琴「タクトさんってもしかして、 王族とかそういう感じの・・・?」
タクト「ん? ああ・・・」
タクト「俺の父は魔界〈ヴァンダドダル〉の王でな」
美琴「まかいのおう・・・」
タクト「つまり俺は、魔王の息子で・・・」
美琴「まおうのむすこ・・・」
タクト「魔族なんだ」
美琴「まぞく・・・」
美琴「・・・・・・・・・・・・」
美琴(そういう設定かーっ!!!!)
美琴(どうしよう。 この人、重篤な厨二病だ)
美琴「ア、アハハ・・・ 魔族なのに日本語お上手ですね〜」
タクト「魔力で自動翻訳しているのだ。 きちんと伝わっているようでよかった」
美琴(こいつ、めげない・・・!)
美琴(はぁ、さっさと帰ろ・・・)
タクト「ミィの真名は”美琴”だったな」
タクト「良い響きだ」
美琴「ど、どうも・・・」
美琴(この人、厨二病にさえ罹患してなければ カッコいいのに。もったいない・・・)
タクト「道が分かれているな」
タクト「右に行くと動物園で、 左に行くと緑地公園だそうだ」
タクト「美琴はどちらに行きたい?」
美琴(帰りたいです)
美琴(・・・とは、言いづらい雰囲気)
美琴「とりあえず、緑地公園の散歩でもします?」
タクト「ああ、そうだな!」

〇大樹の下
タクト「──それにしても」
タクト「美琴は俺が魔族だと知っても驚かないのだな」
美琴「ハハ・・・」
美琴「・・・・・・」
美琴「それ、いつまで続けるんですか?」
タクト「続けるとは?」
美琴「だから、その厨二設定・・・」
美琴「・・・っ」
美琴「メッセージでは普通だったのに、どうして きちんと向き合ってくれないんですか?」
タクト「美琴?」
美琴「魔族だかなんだか知らないけど、 その設定いま必要!?」
タクト「設定?」
タクト「すまない。 何か気に障っただろうか・・・?」
美琴「もういいですっ!」
タクト「待て、美琴っ!」
美琴「わぁっ!?」
タクト「こちらへ!」

〇大樹の下
魔物「グルォオオオオッ!!」
美琴「えっ・・・」
美琴「なにあれ!?」
タクト「こんなところまで追ってくるとはな」
美琴「・・・お知り合いですか?」
タクト「・・・・・・」
タクト「知り合いって」
タクト「──ははっ!」
タクト「驚いているかと思いきや、 結構余裕があるではないか」
美琴「充分驚いてますよ!」
美琴「なんですかあれは!?」
タクト「俺の王位継承権剥奪を狙う者が差し向けた 魔物──」
美琴「まさか、本当に・・・」
  ──魔王の息子──
タクト「美琴」
タクト「すまないが少し待っていてくれ」
タクト「──すぐに片付ける」
魔物「ガアッ」
魔物「ギギギ・・・」
タクト「チッ」
タクト「なかなかしぶといじゃないか」
魔物「ガァァアアアッ!!」
美琴「えっ・・・」
美琴(こっちに来る!?)
タクト「美琴っ!!」
タクト「──ッ」
美琴「タクトさんっ!?」
タクト「大丈夫だ」
美琴「でもっ」
美琴(私をかばって、腕に怪我を・・・)
美琴「〜〜っ」
美琴「もうっ!!」
タクト「美琴?」
美琴「これでもくらえっ!!」
魔物「グアッ?」
美琴「タクトさん、今のうちに逃げよう!」
タクト「いや、その必要はない」
美琴「えっ?」
タクト「よくやってくれた、美琴」
タクト「自らの鞄を投げて、 ヤツの気をそらせてくれたのだな」
タクト「その勇敢さは尊敬と敬意に値する」
タクト「あとは俺に任せてくれ」
タクト「貴様」
タクト「俺たちの記念すべき初デートを 邪魔するとはいい度胸だ──」
タクト「──散れッ!!」
魔物「ギャァァアアアッ」

〇大樹の下
美琴「消えた・・・?」
タクト「大丈夫か?」
タクト「怖い思いをさせたな。 ・・・すまない」
美琴「タクトさん・・・」
タクト「どうした?」
美琴「本当に、魔族だったんだ・・・」
タクト「はじめからそう言っている」
タクト「もしかして、信じていなかったのか?」
美琴「あはは」
美琴「ごめんなさい」
美琴「だって、着物なんて着てくるし」
タクト「これがフォーマルウェアと聞いたが?」
美琴「時代考証がおかしい」
タクト「帰ったら執事の首を──」
美琴「だめだめだめ!」
タクト「・・・ふん。まぁいい」
タクト「美琴」
タクト「お前のその度胸、気に入った」
タクト「俺と付き合え!」
タクト「そして、ゆくゆくは夫婦となり、 共に魔界を統べようぞ!」
美琴「・・・・・・」
美琴「えーっと・・・」
美琴「お友達からお願いします」
タクト「なっ・・・」
タクト「何故だーっ!?」
  二人の関係は、
  まだ始まったばかり──

コメント

  • 魔王が、マッチングアプリを使っているという設定がとてもシュールだなと思いました。また、ラストのヒロインさんのある種冷静な所も好きです!素敵な物語ありがとうございました!

  • テンポ良く楽しく読ませていただきました!
    魔王...マッチングアプリ使えるんか...そこだけでめっちゃ面白いです。

  • マッチングアプリから始まったコメディがとても新鮮でした。彼が彼女を魔物から守るためため怪我をしたことで株を上げたけど、結局お友達からスタートとは。

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