偏狂そうだん室

なし

1.WHYTODAY(脚本)

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〇寂れた一室
席口 菊世「律儀すぎるよ〜〜〜〜!!!!」

〇寂れた一室
席口 菊世「席口菊世の偏狂そうだん室!! WHYTODAY!!」
柊木 ふぶき「・・・」
席口 菊世「すみません。玄関にいらっしゃってからここに来るまで随分長かったので」
席口 菊世「相談内容は、今からでも間に合うホワイトデーのお返しでしたっけ」
柊木 ふぶき「はい、何をあげたらいいのか、わからなくて」
席口 菊世「バレンタインには何をもらったんですか?」
柊木 ふぶき「チューイングガムを」
席口 菊世「ガム」
柊木 ふぶき「手づくりでした」
席口 菊世「チューイング?」
柊木 ふぶき「風船ガムです、よく膨らみました」
席口 菊世「手づくりできるのか・・・」
柊木 ふぶき「こびりついて、うちの鍋がだめになりましたがよく膨らみました」
席口 菊世「柊木さんの家で作ったんですか? 柊木さんへのバレンタインプレゼントを?」
柊木 ふぶき「えっと、マークはアメリカからホームステイに来ていて」
柊木 ふぶき「バレンタインの日、私に告白を・・・」
席口 菊世「な、なるほど、あっちでは男性が女性にプレゼントしますからね」
席口 菊世「ということは、超重大なプレゼントですね」
柊木 ふぶき「はい。今日、マークのお別れパーティで」

〇寂れた一室
席口 菊世「とりあえず、マークさんの好きなものはどうですか?」
柊木 ふぶき「クリスマスや誕生日にひととおりプレゼントしてしまっていて、手づくりのお菓子かなあって」
席口 菊世「うーん、バレンタインにこちらから渡していないなら、チョコレートはどうですか?」
柊木 ふぶき「渡しました」
席口 菊世「クッキーとかは」
柊木 ふぶき「渡しました」
席口 菊世「うーん困った。パーティーならケーキもだめですよね」
柊木 ふぶき「わた──渡してません!」
席口 菊世「意外ですね それで行きましょう」

〇L字キッチン
柊木 ふぶき「あと0.2g減らさなきゃ・・・」
席口 菊世「え、え、俺のうちで料理始めてませんか?」
柊木 ふぶき「話しかけないで。まだ材料を用意する段階です」
席口 菊世(人が変わったみたいだ)
柊木 ふぶき「卵はMを3個。この微妙なサイズの卵はなに?ブツブツ・・・」
席口 菊世「あの、何か手伝いましょうか?」
柊木 ふぶき「小数点以下をあと2桁量れるはかり、用意してもらえますか? できないなら何もしないで大丈夫です」
席口 菊世「リビングにいますね・・・」

〇L字キッチン
席口 菊世「そろそろ焼けましたか? ──えっ」
柊木 ふぶき「あと5粒、いや、6粒? わからない・・・」
席口 菊世「まだ材料用意してる!!」
席口 菊世「い、一緒に作りましょう! 日が暮れてしまう」
柊木 ふぶき「愛情を込めないと。マークへの愛情を込めるためにはあと何mg減らせばいいでしょうか」
席口 菊世「壊れてきている・・・そ、その過程で十分愛情はこま──篭りましたよ。帰ってほし──かえっておいしくなっているといいますか」
席口 菊世「もうパーティー始まるんじゃないですか?」
柊木 ふぶき「ハッ!!」
柊木 ふぶき「ごめんなさい、またやってしまいました・・・」
席口 菊世「一体何が」
柊木 ふぶき「私、几帳面なところがあって、特にお菓子の分量なんかを量り始めると止まらなくなるんです」
席口 菊世「集中力があるのはいいことだと思いますけどね」
柊木 ふぶき「ガムも、直径7.0cmの球を作ろうとして7日間噛み続けた私を見かねてプレゼントしてくれたんです」
席口 菊世「なぜそこに拘るのか」
柊木 ふぶき「アメリカに行った時に舐められないよう7.0cmは必要だと思って・・・ マークに安息日を守らなきゃって叱られました」
席口 菊世(そういう問題?)
席口 菊世「とにかく俺が混ぜるので、焼いてしまいましょう」

〇L字キッチン
柊木 ふぶき「・・・」
席口 菊世「焼けましたね、すぐに冷やして── って、うわ」
席口 菊世「あの! 熱いですよ! その定規とコンパス、何して──」
柊木 ふぶき「正六万五百三十七角形」
席口 菊世「は!?」
柊木 ふぶき「これは定規とコンパスによる作図が可能な、限りなく真円に近い多角形である」
席口 菊世「まさかコイツ── 焼き立てのスポンジ上で、65537個の頂点を導きだし限りなく丸い生地を切り出そうとしていやがる──!!」
柊木 ふぶき「愛情を、込めないと」
席口 菊世「律儀すぎるよ〜〜〜〜!!!!」

〇寂れた一室
柊木 ふぶき「おかげで、いいケーキができました!」
席口 菊世「ぁ。寝てました 日付変わってますけど、どうしてそんなにまで──」
柊木 ふぶき「マークがホームステイに来たのは、2019年でした。それからずっと帰れなくて、もう3年に──」
席口 菊世「そんなに長い時を一緒に・・・なるほど、応援しま──ッ!?」
柊木 ふぶき「マークが家の玄関に上がったのは2019年10月2日16時27分37秒、門を通過したのは16時25分2秒。しかし空港に到着」
柊木 ふぶき「した瞬間をホームステイの始まりとすれば、14時6分57秒。いや、愛情を込めなくちゃ。ホストファミリー即ち私達と合流したの」
柊木 ふぶき「は14時18分36秒。ただしマークの心情に従えば彼のホームステイは出発した瞬間からスタートしている。飛行機の発進時刻は」
柊木 ふぶき「ああ時差が憎い。そして出発時刻にもまた、愛情を込めないと。彼が家族と別れた瞬間、あるいはホームを出発した瞬間、その時こそ」
柊木 ふぶき「ホームステイの開始時刻。であれば日本時間で2019年10月1日2時38分何秒? わからないわからないわからない」
席口 菊世「・・・」
  玄関に脱ぎ捨てられた柊木さんの靴はすごく綺麗に揃っていた。その角度を夢に見て、俺は靴箱の中をぐちゃぐちゃにしたくなる

次のエピソード:2.サイバーサバイバー

コメント

  • 彼女は病気でしょう。几帳面病ですね。私はハカリの重さなんか気にしません。全て目分量です。こんな相談者が来たら即お帰り願います。

  • はかりで計るのさえ面倒になって適当に作って失敗しがちなので、彼女みたいにきっちりしてるのはうらやましくもあります。ズボラな自分でも、きっちり答えというか数字がわかってると落ち着くっていう安心感はなんとなく共感できます。

  • 石橋を叩き割ってしまうタイプなんですね。私とは全く逆の性質の彼女が、なんだか気の毒な気もしました。なかなか人間の本質ってかわらないけど、相手を想う気持ちは同じってことですよね。

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