読切(脚本)
〇古本屋
ここは、駅近くの裏通りにある古本屋さん
昔のマンガを読みたくて、学校が休みの日には自転車でよく来るんだ
〇本屋
店の中はけっこう広くて、いろんな種類の昔の本がいっぱいある
でも他のお客さんはあまり見かけない。いつも薄暗くてガランとしてる
友達にここを教えても、気味悪がって来ようとしないんだ
ぼくは、このシーンとした雰囲気とカビ臭いような匂いがすごく好きなんだけど
それにどんなに長いことマンガを立ち読みしてても、店の人は何も言わないしね
でも今日たまたま見つけたのは、マンガじゃない
革の表紙に不思議な星形みたいなマークが描かれてる、ずっしり重い本だった
〇古代文字
もしかしたらと思って開いてみると、ぜんぶ変な外国の文字だ
五年生になってから英語の授業がはじまったけど、これはぜんぜん読めない
すごく本物みたいな雰囲気だってわかるけど、でも読めないんじゃしかたない
あれ? ところどころ、日本語に訳した鉛筆書きのメモ用紙が張りつけてある
たぶん、前の持ち主の人がやったんだろう
そしてそこには、〈透視の術〉とか〈恋人を得る呪文〉とかの魔法名と、それをじっさいにおこなう方法が書いてあった
「やっぱり本物の魔法書だ!」
ぼくはすっかり興奮して、どんどんページをめくっていく
〈蘇りの魔法〉というのを見つけたとき、ぼくはハッとして手をとめた
骨さえ残っていれば、死んだ動物を生き返らせることができる魔法の薬らしい
もちろんぼくはまっさきに、あの子たちのことが頭に浮かんだ
「すごい! これさえあれば・・・!」
〇本屋
ぼくはどうしてもこの本がほしくなったけど、最後のページに書いてある値段はなんと三万円!
お年玉でも買えない値段だ
でもさ、この日本語訳のメモ用紙は、本の値段にはふくまれないんじゃない?
・・・・・・
ぼくは店の人の視線を気にしながら、〈蘇りの魔法〉のメモ用紙をページからはがし──
こっそりとポケットに入れてサッと店を出た
〇綺麗な一戸建て
ただいまー
ママ「おかえり。 もうすぐ晩御飯だから、お菓子食べちゃダメよ」
はーい
〇家の階段
〇簡素な一人部屋
ぼくは自分の部屋に入ると、すぐに本棚の上をジッと見つめる
ズラッとかざってある、五つの写真立て。ぼくが飼ってたペットたちの写真だ
みんな、かわいくて面白い子たちだった
だけどそんなかれらを、ぼくは寿命がくるまえに死なせてしまったんだ
①犬のケン太は、ボールを取りに行かせる遊びをしてたら川で流されてしまって・・・
➁ハムスターのハム次郎は、試しにいろんなお菓子を食べさせてたら喉を詰まらせて・・・
③インコのセキは、掃除機で〝吸い込み脱出〟ゲームをしてたら全身骨折になってしまって・・・
④コイの鯉助は、地面で踊らせてたらニャー子に食べられてしまって・・・
➄そのニャー子は、鯉助を食べたお仕置きをしてたら首が締まってしまって・・・
運だって少しは悪かったと思うけど、やっぱり飼い主であるぼくのうっかりが原因だ
悔やんでも悔やみきれない
「だけどこれさえあれば、みんなを生き返らせることができるんだ!」
ぼくは〈蘇りの魔法〉のメモ用紙をポケットからとりだす
そこには、材料集めから混ぜ合わせる順番まで、魔法薬の作り方がくわしく書かれていた
「ようし、やるぞ!」
〇黒
一か月後──
〇川のある裏庭
ついに〈蘇りの魔法〉の薬が完成した!
ぼくは魔法薬を手に、意気ようようと家の庭に出る
いちおう、ママが美容室に行ってて、家に誰もいないときを見計らって
庭のかたすみには、ぼくが作ったペットたちの墓がある
〝みんなの墓〟と書いた木の札(割り箸とカマボコ板製)を地面にさしたものだ
この下の土の中に、みんなの死体を埋めたから、骨も残ってるだろう
ぼくはドキドキしながらビンのフタをあけ、魔法薬を墓下の地面にドボドボとかけていく
それにしても材料を集めるのは大変だった
お小遣いをいっぱい使ったり、一人で電車で遠くまで行ったり・・・
でも〝千年ドラゴンの鱗〟だけは、どうしても手に入らなかったから──
代わりに山で取ったヘビを材料に使ったけど、似てるからたぶん大丈夫だよね
しばらく待ってると、そのうち墓下の地面がもぞもぞと盛りあがってくる
「やった! 成功だ!」
ペッツ「ブヴォーーッ!!」
でも地中から飛び出してきたのは、得体のしれない不気味な化け物だった!!
「わーっ!!!!」
あ、ちがう! 一瞬びっくりしたけど、落ちついてよく見てみるとすごくなつかしい
耳とか、尻尾とか、背中の羽とか、表面のヌルヌルとか・・・
どうしてかわからないけど、ぼくの5匹のペットがみんなくっついて、大きな一匹になってるんだ・・・!
ペッツ「ニャニャピヨ! チュワワン!」
ケン太! ニャー子!
ハム次郎! セキ!
鯉助!
姿は少し変わってしまったけど、まちがいなく、ぼくのかわいいペットたちだ
ひさしぶりに会えて、うれしくて涙が出そうになる
「またみんなと遊べるね!」
「おまえたちも、うれしいかい?」
そのこたえは、体の色の変化ですぐにわかった
「そうか! みんなもうれしいんだね!」
ペッツ「ブヴヴォーッ!!!!」
おどろいた。こんなにも口って大きく開くもんなんだ
〇紫(ダーク)
ちょうど、ぼくの身長とおなじくらいかな?
「わわ!? これって食べられてるの?」
〇川のある裏庭
〇川のある裏庭
ペッツ「ピギャーーーッッ!!!!」
ぼくはとっさに、ペットボトルに詰めていた灯油をかけてライターで火を点け、ペットたちを燃やす
あ~驚いた。食べられるかと思っちゃった
こんなこともあろうかと、用意しておいて良かった
動物ってバカだから、お腹がへってたら、御主人様でも食べようとすることもあるって、なにかで読んだことがある
きっとそういうことなんだろう。
みんな食いしん坊だったし(笑)
あ、だんだん体が熱で解けてきたみたいだ
ちょっとかわいそうな気もするけど、ぼくを食べようとした罰だから、いい気味だよね
〇川のある裏庭
そのうち火が消えると、ペットたちもキレイに溶けてなくなってしまう
ふつうの動物みたいに灯油で焼いてもコゲコゲの死体が残らないのは、魔法でよみがえった生き物だからだろう
〇川のある裏庭
あ~あ、ちょっとがっかりだ
あの子たちと、またいろいろと遊べると思ったのに
でも、もうすぐぼくの誕生日だから、新しいペットをママに買ってもらおう!
何がいいかな?
カメとかウサギとかミニブタとか
ゲームやラジコンで遊ぶより、ずっと面白いよね
「だからぼく、動物って大好きなんだ♪」
少年はペットたちと遊びたいのではなく、支配したいのだと感じました。私が彼の母親なら、またペットを飼いたいと言ってきた時点で一度はストップをかけると思います。まさに、ホラーですね。
少年の純粋さが怖さを引き立てていました。
純粋ゆえに、悪気がないんですよね。
ペットを死なせて、反省もないところもすごく怖かったです。
ゾクっとしました。
いや〜恐ろしい…。子どもの無邪気な言葉で表現されると、いちだんと怖いですね。共犯者になってしまったような独特の後味がありました。