待ち合わせのじかん

走水のりか

待ち合わせのじかん(脚本)

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〇大きい病院の廊下
「先生、おはようございます!」
愛宕恵(あたごめぐみ)「おはようございます。もう、痛みはないですか?」
「先生! 手術、全然平気だったよ!」
愛宕恵(あたごめぐみ)「よかったです。安静にしてくださいね」
愛宕恵(あたごめぐみ)(朝の回診は、患者さんの容態をしっかりチェックする・・・・・・)
愛宕恵(あたごめぐみ)(みんな、順調そうで安心)
愛宕恵(あたごめぐみ)(あとは・・・・・・)

〇病室(椅子無し)
「おはようございます!」
愛宕恵(あたごめぐみ)「あ、まだ寝てたんですね?」
薬師寺治(やくしじおさむ)「・・・・・・」
愛宕恵(あたごめぐみ)「夜更かしは、体に毒ですよ」
薬師寺治(やくしじおさむ)「・・・・・・」
愛宕恵(あたごめぐみ)「朝ごはんも、ちゃんと食べてくださいね」
愛宕恵(あたごめぐみ)「今日は大好きな、オニオンスープですよ」
薬師寺治(やくしじおさむ)「・・・・・・オニオンスープ?」
薬師寺治(やくしじおさむ)「なんですか、それ・・・・・・」
愛宕恵(あたごめぐみ)「あっ・・・・・・」
愛宕恵(あたごめぐみ)「そ、そうですよね! 初めて食べますよね!」
愛宕恵(あたごめぐみ)「いま、用意しますからね」
薬師寺治(やくしじおさむ)「・・・・・・」

〇散らかった研究室
愛宕恵(あたごめぐみ)「・・・・・・」
「入るぞ」
愛宕恵(あたごめぐみ)「あ、はい!」
大森邦夫(おおもりくにお)「この間の神経回路形成術、見事だった」
愛宕恵(あたごめぐみ)「あ、ありがとうございます」
大森邦夫(おおもりくにお)「そろそろ、受けてもらえないか?」
愛宕恵(あたごめぐみ)「それは例の・・・・・・」
大森邦夫(おおもりくにお)「ああ」
大森邦夫(おおもりくにお)「アメリカの最先端医療を学び、脳神経外科の発展に尽くしてもらいたい」
大森邦夫(おおもりくにお)「悪い条件はひとつも無いだろう」
愛宕恵(あたごめぐみ)「・・・・・・」
愛宕恵(あたごめぐみ)「・・・・・・私は、この病院で働きたいんです」
愛宕恵(あたごめぐみ)「そのために、医者になったので」
大森邦夫(おおもりくにお)「・・・・・・」

〇クリスマスツリーのある広場
  12年前────
愛宕恵(あたごめぐみ)「見て! クリスマスツリー!」
薬師寺治(やくしじおさむ)「ははっ」
愛宕恵(あたごめぐみ)「え? なんで笑うのぉ?」
薬師寺治(やくしじおさむ)「ごめんごめん」
薬師寺治(やくしじおさむ)「つい・・・・・・子供みたいだなって思っちゃってさ」
愛宕恵(あたごめぐみ)「ど、どういうこと? 私たち、同い年じゃない!」
薬師寺治(やくしじおさむ)「ごめんごめん」
薬師寺治(やくしじおさむ)「そういうところが、可愛いなって」
愛宕恵(あたごめぐみ)「!」
愛宕恵(あたごめぐみ)「ふん、そんな言葉には騙されませんよ」
薬師寺治(やくしじおさむ)「ご、ごめんって」
愛宕恵(あたごめぐみ)「なーんて」
愛宕恵(あたごめぐみ)「あ! あっちにスープ屋さんがあるよ」
薬師寺治(やくしじおさむ)「ホントだ」
薬師寺治(やくしじおさむ)「俺、オニオンスープにしよっかな」
愛宕恵(あたごめぐみ)「あ、私も好き!」

〇池袋西口公園
愛宕恵(あたごめぐみ)「大学、もう決めた?」
薬師寺治(やくしじおさむ)「うん」
薬師寺治(やくしじおさむ)「俺は映像学科に行くよ」
薬師寺治(やくしじおさむ)「世界をアッと言わせる、映画監督になるためにね」
愛宕恵(あたごめぐみ)「すごい!」
愛宕恵(あたごめぐみ)「私は・・・・・・」
愛宕恵(あたごめぐみ)「そんな夢とか無いや・・・・・・」
薬師寺治(やくしじおさむ)「そっか」
薬師寺治(やくしじおさむ)「その人にふさわしい夢は、いつかきっと見つかると思うよ」
薬師寺治(やくしじおさむ)「その・・・・・・良かったらさ」
薬師寺治(やくしじおさむ)「これから二人で、一緒に探していこう」
愛宕恵(あたごめぐみ)「・・・・・・」
愛宕恵(あたごめぐみ)「うん!」
「危ない!!」
愛宕恵(あたごめぐみ)「!!」
愛宕恵(あたごめぐみ)「きゃあ!」

〇病室(椅子無し)
愛宕恵(あたごめぐみ)「ねえ・・・・・・」
愛宕恵(あたごめぐみ)「起きてよ・・・・・・」
愛宕恵(あたごめぐみ)「お願い・・・・・・」
  奇跡的に一命を取り留めたものの────
  現在の医療技術では、彼の意識が戻る保証は無い────
  そう告げられた────

〇病院の診察室
大森邦夫(おおもりくにお)「そんな術式、前代未聞だ!」
愛宕恵(あたごめぐみ)「彼の意識を取り戻すためには、この技術を応用するしかありません」
愛宕恵(あたごめぐみ)「先生、どうか私に執刀させて下さい」
大森邦夫(おおもりくにお)「・・・・・・」
大森邦夫(おおもりくにお)「わかった」
大森邦夫(おおもりくにお)「ただし、たとえ意識が回復したとしても」
大森邦夫(おおもりくにお)「彼の記憶が戻ることは無いだろう」
大森邦夫(おおもりくにお)「それでも、やるのか?」
愛宕恵(あたごめぐみ)「・・・・・・」
愛宕恵(あたごめぐみ)「はい!」
愛宕恵(あたごめぐみ)「これが私の・・・・・・」
愛宕恵(あたごめぐみ)「やるべきことなんです」

〇黒背景
  手術は成功した
  しかし
  彼の記憶は、ほとんど戻らなかった

〇病室(椅子無し)
薬師寺治(やくしじおさむ)「・・・・・・」
薬師寺治(やくしじおさむ)「俺は・・・・・・」
薬師寺治(やくしじおさむ)「何者なんだ・・・・・・」
薬師寺治(やくしじおさむ)「くそっ!」
薬師寺治(やくしじおさむ)「オニオンスープ・・・・・・」
薬師寺治(やくしじおさむ)「・・・・・・ズッ」
薬師寺治(やくしじおさむ)「・・・・・・」
薬師寺治(やくしじおさむ)「不思議な味・・・・・・」
薬師寺治(やくしじおさむ)「なんで・・・・・・」
薬師寺治(やくしじおさむ)「なんで泣いてるんだ俺・・・・・・」
薬師寺治(やくしじおさむ)「!!!!」

〇クリスマスツリーのある広場
「じゃあ、二人で水族館に行ったのは?」
「・・・・・・ごめん」
愛宕恵(あたごめぐみ)「もう! 全然覚えてないんだから!」
薬師寺治(やくしじおさむ)「ご、ごめん・・・・・・」
愛宕恵(あたごめぐみ)「・・・・・・ふふっ」
薬師寺治(やくしじおさむ)「な、なんで笑うの?」
愛宕恵(あたごめぐみ)「ううん」
愛宕恵(あたごめぐみ)「よかった」
愛宕恵(あたごめぐみ)「戻ってきてくれて」
薬師寺治(やくしじおさむ)「・・・・・・」
薬師寺治(やくしじおさむ)「ありがとう」
薬師寺治(やくしじおさむ)「俺のこと、待っててくれて」
薬師寺治(やくしじおさむ)「その・・・・・・良かったらさ」
薬師寺治(やくしじおさむ)「俺の記憶、これからも二人で、一緒に探してくれないか?」
愛宕恵(あたごめぐみ)「!!」
愛宕恵(あたごめぐみ)「うん!」

コメント

  • これから二人でリスタートする……少し寂しさもあるけれども、前向きな気持ちが残る作品でした!
    素敵な物語ありがとうございました!

  • この手のお話、耐性無さすぎて、どうしてもヒロインに感情移入してしまいます...
    いいお話、ありがとうございました...!

  • 純真な愛情を描いた素敵な物語ですね。
    味覚や嗅覚は、五感のなかで最も残りやすい記憶だと言います。オニオンスープと恵の存在が、治にとってプラスになることを心底願いたくなりますね。

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