百年のCODE Q

もりのてるは

百年のCODE Q(脚本)

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〇白
安藤ロイ「こちら、ジュリエット・ジュリエット・ゼロ・ケベック・ヤンキー・ブラボー、365室。アンドウ・ロイ。ハスミ、聞こえるか?」
ハスミ「うん、聞こえるよ!こちら、ロミオ・ロミオ・ゼロ・ケベック・オスカー・ホテル。735室。ササザキ・ハスミ。今日も元気」
安藤ロイ「良かった。今日も通信に異常はないみたいだ」
  真っ白な部屋。最低限の食事だけが与えられる空間。
  物心ついた時から、俺はここで育った。
  俺が生まれる前、世界中で未知のウイルスが何億人もの命を奪ったらしい。
  世界各国は、他者との交流がウイルス培養の根本原因と決め、人々を無菌室に隔離した。
  ウイルス蔓延防止のため、人はその一生でたった一人としか会うことができない。
  身の回りの世話は、全てロボットが行う。
  他者との交流は無線通信のみ。
  それで、俺はハスミと知り合った。
  他愛もない話を延々と、永遠とさえ思えるほど続けてきた気がする。
ハスミ「この前、ロイの声のノイズが凄くて、聞き取れなくて寂しかった」
安藤ロイ「俺も。ハスミの声が聞こえなくて・・・」
ハスミ「寂しかった?」
安藤ロイ「寂しい、なのかな?胸が苦しいっていうか、なんか、息苦しくてさ」
ハスミ「それを寂しいと言うのだよ、ロイ君」
安藤ロイ「これが寂しいということかぁ」
ハスミ「寂しいが積み重なるとね、会いたい!になるらしいよ」
安藤ロイ「だとしたら、俺はハスミに会いたい」
ハスミ「ありがとう。嬉しい」
安藤ロイ「なんか、今日、ハスミの声、少し元気ないな」
ハスミ「あ、わかっちゃった?そう、今日は大事な話があるのです」
安藤ロイ「大事な話?なんだ、恋人でも出来たのか?」
ハスミ「うん、出来ました!」
安藤ロイ「へぇ」
  胸が苦しい。きっと、寂しいってやつだ。
ハスミ「どんな人だと思う?」
安藤ロイ「さあね、話が面白いやつなんじゃねーの」
ハスミ「あれあれ、なんか機嫌悪くなってない?」
安藤ロイ「なってねーよ」
ハスミ「そっか。ならいいや。あのね、その人はね」
安藤ロイ「いや、やっぱいいわ。聞きたくねぇ」
ハスミ「え、どうして?」
安藤ロイ「どうしてとか聞くか?普通」
ハスミ「気になるじゃん」
安藤ロイ「お前のことが好きだからだよ」
ハスミ「うっそ、もしかして告白?」
安藤ロイ「そう、告白。太文字の告白」
ハスミ「わお、どうしよ。心臓がドキドキしてる」
安藤ロイ「そんで?そいつはどんなやつなの?」
ハスミ「急に告白してくる人。私に会いたいって言ってくれた人」
安藤ロイ「え?俺の他に、そんなやつがいたの?」
ハスミ「いないよ」
安藤ロイ「・・・ってことは」
ハスミ「うん。私ね。ロイが好き。だから、勝手に恋人にしました」
安藤ロイ「勝手だなぁ。でも、いいわ。俺も勝手にお前のこと恋人にしてたし」
ハスミ「ああ!ずるい。いつから恋人にしてたの?」
安藤ロイ「百年前から」
ハスミ「ながっ!」

〇白
安藤ロイ「なあ、ハスミ。俺たち、会わないか?」
ハスミ「え、ロイ。それ、本気で言ってる?」
安藤ロイ「もちろん本気です。太文字の本気です」
ハスミ「でもさ、ロイ。私たちって、一生で一人としか会えないんだよ?」
安藤ロイ「俺はハスミと会いたい。ハスミはどうなの?」
ハスミ「あれれ、ノイズが・・・」
安藤ロイ「嘘つけ。クリアに聞こえてるだろ」
ハスミ「お願い。もう一回言って」
安藤ロイ「ったく。良く聞けよ。俺はハスミと会いたい。一生で一度、ハスミとだけ会えればそれでいいんだ。それで、ハスミはどうなの?」
  返事はない。
安藤ロイ「おい!ハスミ。どうした?」
  通信が急に途絶えた。
  同時に、白い部屋の壁に正方形の筋が入り、ゆっくりと下に下がった。ロボットがこちらを見ている。
ロボット「アンドウ・ロイ様。一期一会権が行使されました。お相手とご面会いただけますが、いかがなさいますか?」
  ロボットの言うお相手とは、ハスミのことだ。
  俺の答えは当然、
安藤ロイ「会います」

〇殺風景な部屋
  ロボットに案内されるまま、無菌室に入った俺が最初に目にしたのは、ベッドに横たわり目を閉じる女性の姿だった。
  体には無数の透明な管。口元には呼吸器。体は瘦せ衰え、生気は僅か。
安藤ロイ「ハスミ・・・なのか?」
ササザキ・ハスミ「見せたくなかったなぁ。ロイ、私のこんな姿見たら、嫌いになるでしょう?」
  ハスミの声は、機械から発せられている。
  ロボットいわく、「脳波を言語化している」らしい。
ササザキ・ハスミ「私ね。生まれたときから、体が弱くてさ」
安藤ロイ「ハスミ・・・」
  俺は、ベッドに横たわるハスミを抱きしめた。
  溶けてなくなってしまうかのような、脆くて細い体。
ササザキ・ハスミ「私、もうね、この世界から消えちゃうらしい」
安藤ロイ「嘘だろ。会ったばかりじゃねぇかよ」
ササザキ・ハスミ「せっかく会えたのに、こんな私でごめんね」
安藤ロイ「謝るな。大丈夫だ。俺がずっと傍にいるから」
ササザキ・ハスミ「嘘つき。私、死んじゃうんだよ?ロイは元気じゃん」
安藤ロイ「俺も死ぬ。一緒に天国についていく」
ササザキ・ハスミ「馬鹿。地獄かもよ?」
安藤ロイ「地獄だっていいさ。ハスミとなら、死ぬまで楽しい」
ササザキ・ハスミ「死ぬから地獄に行くんじゃん。もう死んでるから、それ」
安藤ロイ「死んでも楽しい」
ササザキ・ハスミ「なんじゃそりゃ。本当に、ロイは馬鹿だなぁ」
安藤ロイ「馬鹿で結構」
ササザキ・ハスミ「ねえ、ロイ。一生に一度、会える人が私で良かった?」
安藤ロイ「もちろん。良かったよ」
ササザキ・ハスミ「どうして?」
安藤ロイ「二度と戻れないだろ。ハスミに会う前の俺に」
ササザキ・ハスミ「私も戻れなくなっちゃった。ロイに会う前の私に」
安藤ロイ「良かったろ?」
ササザキ・ハスミ「うん。良かった。こんなにカッコイイ人だったのかぁ、ロイは」
安藤ロイ「照れるな」
ササザキ・ハスミ「照れろ照れろ。達者で暮らせよ。イケメン」
安藤ロイ「すぐに行くから、待ってろよ」
ササザキ・ハスミ「すぐには来ないで。女は化粧に時間がかかるの」
安藤ロイ「わかった。待つよ」
ササザキ・ハスミ「ねえ、ロイ」
安藤ロイ「なんだ?」
ササザキ・ハスミ「愛してる」
安藤ロイ「俺も愛してる」
  目を閉じたハスミの傍の画面に記号が映し出された。
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コメント

  • 今の世から続くような世界観、一生で一人しか会えないという設定が良いなと思いました!非常に大きな愛を見せつけられた気がします……。素敵な作品ありがとうございました!

  • 顔の見えない恋愛ってブラインドデートみたいだけど、一生に一度しか実際に会えないとなると、重みが全然違うなぁと感じました。ずっと通信する中で愛を育んできたんですね。もう少しふたりに時間があったらとちょっと切なくもなりました。

  • とっても素敵なラブストーリーで設定も素敵で、読後に充実感いっぱいです!
    ロイの胸中を想像すると、私自身の胸では受け止められない様々な感情が流れ込んできていっぱいいっぱいになります。

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