読切(脚本)
〇学校のプール
イツキ「はい、どーぞ」
イツキ「僕の手を取って下さいっ お姫様!」
そう言って
幼なじみのイツキは手を差し伸べてくれる
ミキ「はぁー?なにそれっ」
ミキ「あの陰キャのイツキが 東京に行って3ヶ月で陽キャパリピ勢になっちゃうなんてーっ! 信じられなーいっ!」
イツキの手を取って壊れかけたフェンスを乗り越える
母校の屋外プールに来ている
田舎のうらぶれた中学校は、卒業生なら誰でも忍び込める秘密の抜け穴だらけだ
ミキ「めっちゃ久しぶりーっ! 雨降らなくてよかったーっ!」
高校卒業以来
お互い新しい環境に慣れるのに必死で
全然会っていなかった
ミキ「それで?何で中学のプールなのー? 嫌がらせか!?」
〇学校のプール
ミキ「うわぁーーーんっっっ!! ほんと最悪ーっ!」
ミキ「なんで雨まで降って来んのよぉーっ!!! バカヤローっ!!!」
ザアァーーーー
雨がどんどん降ってくる
プールサイドに座り込む私に
イツキが傘をさしてくれている
たぶん
イツキは
びしょ濡れだ
大学受験に失敗した
不合格が分かったその日に
彼氏にフラれた
しかも親友も失った
人生最悪の日
イツキ「好きなだけ泣いたら良いよ 僕が泣き止むまで付き合うから」
少し前までは部活終わりに
親友のユキと中学のプールに忍び込んで
バカな話で盛り上がっていた
その名残で
今や最も憎いユキとの思い出がたくさんある中学に来てしまった
〇教室
親友のユキは
私の彼氏のカズヤとデキてた
高校入って直ぐに告白されて付き合った
人生で初めての彼氏
何もかもが初めてで
私の人生の全てだった
受験生になっても
私達はラブラブだった
少なくとも私はそう思ってた
カズヤは
スポーツ推薦で内定が決まっていた
東京の有名大学
私の学力じゃ無理そうだった
でも
カズヤと同じ大学に行きたくて
めちゃくちゃ頑張って勉強した
今思えば
大学に内定していたカズヤとは
受験が佳境になるに従って
会う時間が減っていた
〇学校のプール
ミキ「ほんと、なんで気づかなかったんだろ」
イツキは頭が良かった
イツキも本当は大変だっただろうに
嫌な顔せず
たくさん勉強を教えてくれた
イツキといる時間が増えた
ユキとは少しずつ距離ができた
私は目の前の受験に必死だった
周りの変化に気づかなかった
ミキ「なんで、、、」
〇教室
合格発表の日
合格に喜ぶユキとカズヤを見ながら
私は独り取り残されて辛かった
でも
それよりも
カズヤ「『遠距離恋愛なんて無理だわ ごめん 別れて』」
ミキ「え?」
お昼ご飯を食べながら
何の前触れもなくフラれた
愕然とした
ユキに話を聞いてもらいたくて
『一緒に帰ろう』と連絡した
ユキ「『あ、、、 今日は予定があってさ、、、 一緒に帰れない ごめんね、、、』」
そんなものか、、、
寂しくて
辛くて
独りじゃ居たくなくて
イツキに連絡したら
教室まで迎えにきてくれた
イツキ「帰ろ!」
少し救われた気がした
その瞬間は
〇学校の廊下
ミキ「あっ! 部室にユニフォーム取りに行かなきゃ!」
イツキ「あー じゃぁ下で待ってるよ」
ミキ「ありがとっ」
〇更衣室
ガチャ
中で物音はしていたけど
後輩がいるのかと思った
でも
目の前に居たのは
抱き合ってキスをする
ユキとカズヤだった
〇渡り廊下
逃げるように走り出した
走って
走って走って
〇学校のプール
ハァッ!
ハァッ!
誰もいない中学のプールサイドで
私は大声で泣いた
〇学校のプール
ミキ「なぁーんか 私、若かったなぁーーー」
ミキ「ここに来ると思い出しちゃうなぁー なーんであんな男好きだったんだろー」
ミキ「こんな感じで座り込んでたなぁ」
イツキ「僕はこんな感じで後ろにしゃがんでた」
あの土砂降りの雨の日
初めてイツキに後ろから抱きしめられた
ミキ「何か色々思い出して恥ずかしいっ」
イツキ「僕は恥ずかしくないし」
イツキ「ずっと忘れてないから」
イツキ「思い出すことはない」
ミキ「は?何それ? なぞかけ?」
ガシッ
あの日と同じ様に
後ろから抱きしめられた
あの日
私は不細工な顔してわんわん泣いてた
今思うと
背中に感じるイツキの体温が暖かくて
安心して心が決壊したんだと思う
ミキ「ちょっ?」
イツキ「ダメ! こっち見ないで!」
ミキ「えぇー?」
イツキ「絶対見ないで! 前向いてて!」
ミキ「あ、、、はい、、、」
ドッ
ドッ
ドッ
あの日は気づかなかった
イツキの鼓動
めちゃくちゃ早い
イツキ「あのね ミキ、、、」
イツキ「僕 カッコ良くなったと思う?」
ミキ「えーっと」
ミキ「それは思う! すっごくイケメンになったよ!」
イツキ「ありがとっ」
緊張した
掠れた声でイツキが言う
耳元でごくりと喉が鳴った
イツキ「あっ」
イツキ「あのさっ」
ミキ「うん?」
イツキ「ぼっ」
イツキ「僕の」
イツキ「かっ」
ミキ「か?」
うわずった声
自然と私を抱きしめる手に力がこもる
イツキ「彼女になってくれませんか!!!」
ミキ「へ?」
思わず変な声が出た
イツキ「ずっと好きだったん」
イツキ「だけど」
イツキ「自信なくて」
イツキ「ここに来たら やっぱり確信したんだ」
イツキ「あの日 僕はミキを守りたいって 心から思ったんだ」
イツキ「東京行ったらいっぱい勉強して ミキを護れる男になって いつか迎えに行こうって、、、」
イツキ「でも大学でいろいろあって あの日の気持ちを確かめたくて」
ミキ「だからココ、、、」
イツキ「来てみたら胸が熱くなって」
ミキ「思わず告白、、、?」
イツキ「う」
イツキ「ん」
ミキ「もー」
ミキ「締まらないなぁ」
ミキ「私の王子様になるには 力不足よ!」
ミキ「とりあえず そのチャラい服はナシ!」
イツキ「ぇ」
ミキ「モテちゃ困るのよ!」
大嫌いだった中学のプールサイド
今は雨が降ってもイヤじゃないかも
嫌な記憶しかなかった場所が、彼の手によっていい方向に変わったのを見て、変化が分かる物語だなと感じました。素敵な物語をありがとうございます!!
辛かった思い出が新しい幸せな思い出に変わってよかったですね。親友に彼氏を取られるって、ほんとに悲しいですよね。近くにいるとタイプが似てくるのかなー。
イツキくんの気持ちはずっと変わらなかったんですね。
変わらない思いと、変わった外見ですが「モテちゃだめ」って言われてるので、これからどんな外見になるんでしょうか笑
初々しくてかわいくて、読んでてドキドキしました。