エピソード(脚本)
〇黒背景
〇部屋の扉
私のママは昔
目には見えないものに怯えていた
〇殺人現場
そして自分を傷付けて死んだ
私もその性質を受け継いでしまったのか
最近頻繁に幻を見るようになった
〇学校の校舎
〇教室
男子学生「お前いつも何描いてんの」
女子学生「ねぇ 見してよオタクちゃん」
女子学生「別に口がきけないわけじゃないんでしょ」
女子学生「答えてくれたっていいじゃん」
男子学生「あのさ これじゃまるで」
男子学生「俺らが虐めてるみたいだろ」
〇教室
花太郎「てめえら!」
花太郎「夢を困らせてんじゃねえ!」
花太郎「彼女を傷つける奴は絶対に許さねえぞ」
花太郎「おい!無視すんな!」
花太郎「クソ〜っ!」
夢「もう! 勝手に出てこないでよ花太郎!」
〇教室
女子学生「びっくりした」
男子学生「急に叫ぶなよ気味が悪い」
女子学生「な、泣いちゃった?」
男子学生「んだよ、お寒いやつ」
女子学生「あたしら冗談でからかってるだけなのにね」
男子学生「悪かったよ うそうそ」
男子学生「別にお前の漫画なんて興味ねーし 好きにやってろ」
〇教室
???「壁に向かってなんか叫んでたな」
???「死んだ母親もやばい人だったって聞いたことあるかも」
???「そういえば、最近この街でも不審者が出てるらしいけど」
???「あいつなんじゃないの」
〇一戸建て
〇部屋のベッド
花太郎「俺の気持ちは本物だぜ」
夢「うるさい 勝手に喋るな!」
夢「私の妄想の産物の癖して」
花太郎「分かってるよ 夢は俺のお母さんで、神様だもんな」
花太郎「大好きだぜ」
夢「もう嫌だ」
夢「私はやっぱり異常なんだ」
夢「自分で描いた漫画のキャラが話しかけてくるなんて」
夢「ママと同じで頭がおかしくなったんだ」
〇モヤモヤ
それでも漫画を描かずにはいられなかった
苦しい時、悲しい時、寂しい時
私は自分を慰めるように漫画を描いた
〇豪華なリビングダイニング
夢?「ごめんね花太郎 八つ当たりしちゃって」
夢?「私、最低の屑だよね」
夢?「いつも優しいあなたにひどいことを」
夢?「こんな私、消えちゃった方がいいよね」
花太郎「分かってるじゃん」
花太郎「なんなら俺が楽にしてやるよ」
花太郎は私の首に手を伸ばし
渾身の力をこめた
〇モヤモヤ
私は、漫画の中で花太郎に自分を何度も殺させた
どうしてか分からないけど、そうすることでなんだか救われた気持ちになったから
なのに
いつしか花太郎の幻覚まで見るようになり
しかもそいつは、漫画の中の性格と違い
いつも阿呆みたいに明るく笑っていたんだ
〇黒背景
〇豪華なリビングダイニング
父「ただいま」
〇部屋のベッド
父「寝てるのか」
父「またこんなもの描いて」
父「病院には行かせてるんだが」
父「一体どうしたら」
父「絵なんて習わせなければよかった」
〇黒背景
〇豪華なリビングダイニング
夢「ママ ただいまぁ」
母「夢ちゃん早かったわね」
先生「僕がお送りしたんです」
母「わざわざありがとうございます」
夢「ママ! センセーすっごい褒めてくれたよ!」
母「そうなの」
先生「彼女は才能がありますよ」
先生「将来が楽しみです」
〇黒背景
???「ゆめ〜」
???「お目覚めの時間だぜ?」
???「学校遅刻しちゃうぞ」
???「なんなら俺がキスで起こしてやろうか?」
〇部屋のベッド
夢「・・・センセ?」
花太郎「センセ?誰それ」
夢「なんだ花太郎か」
花太郎「おはよう 夢見てたのかい」
夢「もう朝なの?」
夢「朝イチであんたの声聞くと現実感なくなるわ」
夢「まだふわふわする」
花太郎「ね センセって誰?」
花太郎「俺に似てるの」
夢「センセは私の初恋の人」
夢「私にお絵描きを教えてくれた」
夢「あんたのモデル」
夢「当時は美大生だったけど 今はどこでなにをしてるんだろう」
花太郎「む〜っ! 嫉妬爆発!」
花太郎「芸術は爆発!嫉妬は芸術だ〜!」
夢「何言ってんだか」
センセにもし会えたら
偽物である花太郎は消えてくれるんだろうか
〇学校の校舎
ある日の放課後
〇一戸建て
先生「やあ夢ちゃんかい? 久しぶりだね」
夢「・・・花太郎でしょ?」
先生「花?」
先生「僕の顔忘れちゃったのかな」
夢「もしかして本当にセンセ?」
〇豪華なリビングダイニング
〇一階の廊下
花太郎「ガチで俺そっくりじゃん」
花太郎「てかなんで家にいれたんだよ 浮気か?」
夢「バカじゃないの」
夢「本物が来たんだから あんたは消えてよ」
夢「センセならきっと私を助けてくれる」
花太郎「なんかあいつ怪しくない?」
花太郎「今更何しに来たんだよ」
夢「うるさいなぁ とにかくもう出てこないで!」
〇豪華なリビングダイニング
夢「お待たせしました」
先生「成長したね」
先生「綺麗になった」
先生「お母さんに似てきたんじゃないかな」
夢「そ、そうですか?」
先生「優しかったなぁ」
先生「学生である僕を心配して、よくご馳走してくれた」
〇豪華なリビングダイニング
センセはそれからしばらくママの事ばかり語った
確かに当時、ママとセンセはよくお話していたけど
〇豪華なリビングダイニング
夢(どうしてそんな慈しむような目をするの)
夢「そ、そうだ」
夢「最近絵は描いてますか」
先生「忘れてたよ」
先生「今日はその話をしに来たんだった」
先生「これを見てほしい」
〇手
先生「どうだい 美しいだろう」
先生「救いを求める人々の腕だ」
先生「「欲望」と名付けようと思ってた時期もあったけどね」
先生「そんな御立派なモノじゃないことが分かってきた」
先生「苦しくて、悲しくて、寂しくて、どうしようもなくなった時」
先生「「アレ」が欲しいと、みんな僕に懇願した」
先生「君のお母さんも例外ではなかった」
先生「意外なことじゃない」
先生「ただの専業主婦だって関係ないんだ」
先生「最初は戸惑う様子も見せたけどね」
先生「すぐ夢中になったよ」
〇豪華なリビングダイニング
先生「ただね」
先生「この傑作に目をつけて僕の事を追い回してくる組織がいる」
先生「もうずっとだ」
先生「だから僕はこの5年間ヤツらから逃げ回りながらこの絵を描き続けた」
夢「センセーはさっきからなにを言ってるの」
先生「君もすぐに分かる」
先生「僕の作品の一部になればね」
夢「そ、それは!」
〇豪華なリビングダイニング
〇手
夢(なんで気が付かなかったんだろう)
夢(ママはただ心を病んで死んでしまったんじゃない)
夢(この人が!)
先生「奴らに奪われる前に」
先生「作品を完成させなければならない」
先生「時間はもうあまり残されていないだろう」
先生「協力してくれるね」
先生「大丈夫」
先生「すぐに何もかもから解放される」
先生「本物の幸せを味あわせてあげるよ」
夢(本当にそれで楽になれるのなら・・・)
〇黒背景
???「夢から手を離せッ!」
〇豪華なリビングダイニング
花太郎「このサイコ野郎!」
花太郎「そんなモノにすがらなくても!」
花太郎「夢は自分の力で幸せになるんだよ!」
花太郎「絵が超上手いし!」
花太郎「頭だってメチャ良いんだ!」
花太郎「お前なんかお呼びじゃねえ!」
花太郎「分かったら消えろッ!」
花太郎「ちくしょう!」
花太郎「なんで俺は何にもしてやれねーんだよっ!?」
〇豪華なリビングダイニング
夢(花太郎が泣いてる)
夢(私なんかのために)
夢「触らないでッ!」
先生「ぐ・・・!」
夢「た、助けて・・・!」
〇一階の廊下
先生「無駄だよ」
先生「君はどこにも逃げられない」
夢「やだ・・・」
夢「来ないで・・・!」
ピンポン
〇黒背景
???「〇〇署の者です」
???「少しお尋ねしたいことがあるのですが」
〇一階の廊下
先生「組織の奴らだ・・・!」
先生「こんなに早く見つかるなんて」
先生「ここで捕まる訳にはいかない!」
夢「に・・・」
夢「逃げてった・・・」
〇黒背景
〇学校の校舎
数日後
〇教室
???「学校に警察来てたな」
???「例の不審者が捕まったらしい」
???「それでなんでうちの学校に?」
???「そういえば隣の組のやつが見たんだって」
???「なにを?」
〇教室
男子学生「警察がお前に会いに何度も来てるらしいな」
女子学生「一体何があったわけ」
夢「みんながヒソヒソ話してるやつだよ」
夢「この間捕まった不審者について、もっと詳しく知りたいらしいんだ」
女子学生「どうして君が聞かれてるの?」
男子学生「お前の事も疑われてんじゃねーか」
夢「だったらどうする?」
女子学生「・・・なんか君キャラ変わった?」
〇警察署の入口
結局センセは、あの後捕まったらしい
本人は、自分の作品を狙う悪の秘密結社の陰謀だと思い込み続けていると
警察から聞いた
彼は、5年前からずっと密売人であり中毒者だったのだ
警察は元々、逃亡の果てこの街に帰ってきた彼の足取りを掴みかけていて
最近ウチの周辺を不審者がうろついているという近所の通報を聞いて
あの日に聞き込みにやってきたらしかった
〇豪華なリビングダイニング
パパには改めて謝られた
当時単身赴任中で、ママの変化に気が付いてあげられなかったこと
ママの死にショックを受けて記憶が曖昧な私に
彼女がセンセに依存してしまったのを黙っていたことを
〇部屋の扉
ママが亡くなっているのを見つけたのは、私だったし
センセの事をすごく慕っていたから
これ以上傷つけたくなかった、と言っていた
〇部屋のベッド
夢「ママの幻覚が、中毒のせいだったんだとしたら」
夢「遺伝とかじゃなかったんだ」
夢「それなら、私にとっての花太郎って」
夢「一体なんなんだろう」
夢「ねぇ、花太郎」
夢「なんであれから1度も出てこないの」
〇部屋のベッド
私は、花太郎の姿を見ることができなくなっていた
ずっと鬱陶しいと思っていたから清々したし
病院の先生にも、心が立ち直りはじめている証拠なのだと言ってもらえたけど
最後に見た彼が泣き顔だったのが、なんだか悲しかったんだ
〇黒背景
だから
〇教室
花太郎「最近は学校でもいろんな人と話してるね」
花太郎「俺が庇ってやらなくても平気みたいでちょっと複雑」
夢「元々あんたが話しかけてくるせいで、変な目で見られてたんでしょ」
花太郎「ねえ、夢」
花太郎「元気になりはじめてるんなら」
花太郎「漫画の中とはいえ、その姿やめない?」
花太郎「俺、お化けみたいで、正直その姿キモイと思ってたんだ」
夢?「あんたこそお化けみたいみたいな存在じゃん」
夢?「結局、正体が分かんないまま消えちゃったしさ」
花太郎「寂しがってくれるんだ?」
夢?「そんなんじゃないよ!」
花太郎「大丈夫」
花太郎「声が聞こえなくても、姿が見えなくても」
花太郎「俺はいつもそばにいるから」
花太郎「苦しい時も、悲しい時も、寂しい時も」
花太郎「ずっとずっと、君の味方だよ」
〇黒背景
私は漫画を描き続けることにした
そこでなら
笑ってる花太郎に会えるから
〇部屋のベッド
おわり
不穏なタイミングでセンセイ出てきたな〜と思ってたら…注射器登場に「うへぇ」とリアルで声が出てしまいました。
警察のことを「組織だ!」と言うあたり、キマッてますね…(確かに組織ではありますが笑)
花太郎はセンセイの面影をモチーフにしたヒロインの心の支えだったのか、あるいは…?
面白かったです☺︎
展開に驚かされました😆
母と初恋を酷い形で奪われてもなお立ち直っていく夢さんは強いですね🥲花太郎が見えなくなったことは悲しいけれど、夢さんの中に花太郎としての人格が統合されたと考えれば、今までより近いところでずっと一緒なのかもしれないですね🥲
緊張感の演出が上手でずっとワクワクしながら読み進めることができました!
夢ちゃんの頭の中の花太郎はポジティブな感情を鼓舞してくれる存在なのはもちろん、漫画内では自分を殺してくれることによって頭の中で受け取り過ぎた幸福を正当化してくれる、最高のパートナーだなぁと感じました。
あとがきを見て、「花太郎、スタンド説」も捨てきれなくなりました。