最終話 『秘密』(脚本)
〇地球
〇東京全景
《燕》(スワロー)「《蛇神の日》──」
《燕》(スワロー)「世界が白蛇に覆われたあの日は、わずか3日でそう呼ばれるようになった」
《燕》(スワロー)「あの日、突如として出現し自らに噛みついた白蛇を人々は目撃している」
《燕》(スワロー)「世界各地の人々は大いなる『神』の存在を実感し、一時は大混乱に見舞われた」
《燕》(スワロー)「しかし、そこはワレらが組織の情報操作もあり──」
《燕》(スワロー)「現在、人々の中では集団幻覚を見たということでおおむね落ち着いた」
《燕》(スワロー)「まあ無理筋ではあるがの」
《燕》(スワロー)「人々は不安を残しながらも、あっさり元の生活に戻っていった」
《燕》(スワロー)「常に地震や嵐に怯えていては生活は立ちゆかぬ、というわけじゃ」
《燕》(スワロー)「それに──」
《燕》(スワロー)「なにより、あの出来事は混乱ばかりを生み出したわけではない、とワレは思う」
《燕》(スワロー)「あの日、実際の被害はなく、むしろ健康になったものが多かった」
《燕》(スワロー)「『神はいる』」
《燕》(スワロー)「『そしてそれはきっと優しい神様だ』」
《燕》(スワロー)「これからは、みんなどこかでそれを感じて、この世界を生きていくことじゃろう」
《燕》(スワロー)「きっと前より、少しだけ誰かに優しくなっての──」
《燕》(スワロー)「なーんての! なーんての! ワレって詩人じゃなー!」
〇ブリーフィングルーム
~《B.I.R.D》基地~
~司令室~
《鷹》(イーグル)「色々バタバタしていて申し訳ありません。 エージェント《鴉》」
九郎(くろう)「しかたないよ。 世界各国への情報操作は最優先事項だ」
九郎(くろう)「下手な情報が出回れば、世界中が深白の存在を利用しようとしてくるかもしれなかった」
九郎(くろう)「指令には感謝してるよ」
《鷹》(イーグル)「そう言っていただけると助かります。 では報告をお願いします」
〇ブリーフィングルーム
《鷹》(イーグル)「──それでは、もう淵上深白(ふちがみ みしろ)に危険はないと?」
九郎(くろう)「完全にない、とは言わないけど」
九郎(くろう)「たとえば、車で人は殺せるけど、普通は誰も殺そうとはしないよね」
《鷹》(イーグル)「ですが、彼女は未だ比類(ひるい)なき神の力を持っています」
《鷹》(イーグル)「暴走する危険は常にある」
《鷹》(イーグル)「エージェント《鴉》」
《鷹》(イーグル)「貴方はそのときには自分が止めると言いますが」
《鷹》(イーグル)「貴方に、もし万が一のことでもあれば、我々は彼女への対抗策を失うことに──」
九郎(くろう)「万が一?」
九郎(くろう)「指令」
九郎(くろう)「僕は誰?」
《鷹》(イーグル)「──そうですね。エージェント《鴉》」
《鷹》(イーグル)「杞憂(きゆう)でした」
《鷹》(イーグル)「『心配性の方々』にも、そう言って安心していただきますよ」
九郎(くろう)「よろしくね。 僕は出かけるから、なにかあれば《燕》に」
《鷹》(イーグル)「おや? ご予定が?」
九郎(くろう)「うん。──ちょっと山に、墓参りにね」
〇森の中
~山中~
九郎(くろう)「事故で死んでしまった深白の家族は、深白の力で一度だけ生き返った」
九郎(くろう)「そのときに家族の間でどんなやり取りがあったかはわからない」
九郎(くろう)「ただ──結果として、深白は家族を消すことになった」
九郎(くろう)「消えた家族はこの世界にいなかったことになり、墓石も立てられることはなかった」
九郎(くろう)「深白は名前のない墓石を、この山に立てた」
九郎(くろう)「彼女が迷い込み、神になったという、この場所に──」
九郎(くろう)「直接、聞けてはないけれど・・・」
九郎(くろう)「墓石に名前を刻まなかったのは、自分のしたことをけして忘れないという、決意のあらわれだろう」
九郎(くろう)「家族の記憶は深白の中にしかない。 だから・・・」
九郎(くろう)「──深白はもう3時間以上、墓石の前で手を合わせている」
深白(みしろ)「・・・・・・」
深白(みしろ)「・・・・・・」
深白(みしろ)「・・・・・・」
深白(みしろ)「・・・お父さん。お母さん。お兄ちゃん。 ツバタロー・・・」
深白(みしろ)「わたしね、大事な人が、できたんだ」
深白(みしろ)「ししし・・・」
深白(みしろ)「また、来るね」
〇山並み
~下山~
深白(みしろ)「ありがとね、クロくん。 付き合ってもらっちゃって」
深白(みしろ)「おかげでようやく、ちゃんと報告ができたよ」
深白(みしろ)「ずっとわたしは向き合えなかったから・・・」
九郎(くろう)「いつかでいい。 聞かせてね、深白の家族のこと」
深白(みしろ)「・・・うん」
九郎(くろう)「それと、僕からも報告かな」
深白(みしろ)「クロくんから? なんだろ?」
九郎(くろう)「実は最近、片手での立ち回りを練習し始めてね」
深白(みしろ)「?」
九郎(くろう)「つまり片手が塞がってても大丈夫になったんだ」
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最後まですごくおもしろかったです!