エピソード1(脚本)
〇学校の駐輪場
放課後の駐輪場。柾は今、十六年間の人生の最高潮を迎えていた。
若葉(わかば)「私と、つき合ってほしいの」
柾(まさき)「ええっ! わ、若葉って俺のことが好きなの?!」
春高美人ランキング堂々一位の若葉に対して、柾は特に取り柄の無い、漫画オタクだった。
この奇跡は、春高イチのトップニュースとなって一週間は賑わったが
次の週には自然消滅した。
〇公園のベンチ
柾(まさき)「オレ、何でフラれたんだろ・・・」
たま「しつこくするからよ。嬉しかったのは分かるけど、」
たま「毎日毎日、「俺のどこが好きになったの?」 って聞かれたたら、若葉じゃなくてもたまらんわ」
隣に座っている幼馴染みのたまが、毒づいた。
たま「世の中にはもっと良い女が沢山居るんだから、未練は捨てて、次に行ったら?」
柾(まさき)「うーん。もうちょい頑張りたいんだよね、俺的には」
柾(まさき)「昨日のデートでやらかしたから、無視されるようになったっぽいんだよね」
柾(まさき)「それが悔しいんだ」
たま「覚えていないの?」
たまが大きな目をすうっと細めた。
たま「デートしている最中に、頭でも打ったのかしらね」
柾(まさき)「映画に行ったのは覚えてる。アニメじゃなかったから寝落ちしたまでは、分かってます!」
たま「そりゃフラれるわ」
呆れて帰ろうとするたまを、柾は追いすがった。
柾(まさき)「頼む、たましか居ないんだ。アドバイスしてくれよ」
たま「そうねえ。キミのことだから、話しかける勇気もないだろうし」
たま「とりあえず、若葉の様子を見守ってみて、何がダメだったか考えてみたら?」
柾(まさき)「サンキュー!若葉とは全然違うけど、オマエも一応オンナだもんな」
たま「もう一回フラれればイイのに」
〇教室
柾(まさき)「はあ、可愛い。すげえ可愛い。何でオレ、あんな可愛い娘とつき合えたんだろ」
若葉は、複数の取り巻きの女の子たちと行動していて、柾を気にする素振りさえなかった。
ただ・・・
柾(まさき)「なんか、元気ないような・・・」
柾(まさき)「若葉、全然勉強にも集中してないぞ。 少しは俺をフッたことを、後悔しているのかな?」
大河「若葉、昼休みに泣いていたらしいぜ」
親友の大河が、柾の机の前で不意に呟いた。
柾(まさき)「泣いていたって。なんで・・・?」
大河「柾、オマエのこと、忘れられないんじゃないかな」
移動教室で取り残された柾は1人、ある決心をした。
〇綺麗な一戸建て
たま「で、どう考えたら若葉の家に忍び込んで想いを伝えるって考えになるのよ」
若葉の家の前でたまは、頭を抱えた。
柾(まさき)「だって、普通に会っても無視されるからだよ。強引な男に惹かれるんでしょ、女って」
たま「1回死んだとしても、その変態オタク回路は消えなさそうね。まあ、協力はしてあげる」
たま「私、若葉のお母さんと仲良いから、庭に惹き付けてあげるよ。 その間に、キミの未練を全てぶちまけてきてね」
柾(まさき)「ありがとう、ココロの友よ!恩に着る!!」
たま「まあ、これで、貸し借りナシってことで」
ニヤっと笑うとたまは、あっという間に若葉のお母さんを庭に連れ出した。
柾(まさき)「うわ〜。なんか、イイ匂いする」
柾は何故か、若葉が2階にいるような気がして、迷うことなく部屋の前まで来た。
部屋のドアは少し開いていた。
若葉(わかば)「もう、最悪だよ!!」
若葉(わかば)「なんで、こんなことになっちゃったんだろう。 柾くん・・・。私、忘れられないよ」
「やっぱり、若葉も俺のことで悩んでいたのか。何があったか思い出せないけれど、きちんと話し合えば戻れるかもしれない」
自分の気の弱さを恥じながら、柾は思い切ってドアを開けようとした。
柾(まさき)「え」
柾(まさき)「何で」
柾はドアの取手を掴むことはできなかった。
何度もするりと抜け落ちる自分の手を、柾は呆然と見つめた。
〇女の子の二人部屋
若葉(わかば)「ママ!その白猫を、かばって柾くんは車に轢かれたんだよッ!?」
若葉(わかば)「しばらく家に入れないで!!」
庭を見た若葉が、窓から大声で叫んだ。
その瞬間、頭に落雷が落ちたような衝撃とともに、柾は全てを思い出した。
柾(まさき)「あの日、帰りに車道に飛び出す白猫を見て、若葉も飛び出す寸前だった」
柾(まさき)「思わず、オレが白猫を抱き抱えて・・・」
柾(まさき)「オレ、死んだってこと?」
白猫「正確には生死を彷徨っている状態だよ」
たまの声の白猫が、いつの間にか柾の足元に居た。
柾(まさき)「たま、オマエ、猫だったのかよ? あれ!? 幼馴染みだったんじゃ・・」
白猫「キミの頭の中で、勝手に作られた妄想でしょ。現実逃避ってヤツ?」
柾(まさき)「オレ、死にたくないよ。若葉に何も伝えていない」
白猫「それは神様次第。キミが今できることは、若葉の魂に話しかけることくらいかな」
白猫「若葉がキミのことを考えている今なら、無視されないよ」
若葉は泣き声を押し殺して枕に顔を埋めている。
柾はベッド際に座ると、若葉の頭を優しく撫でた。
柾(まさき)「若葉。 オレ、たった一週間だったけど、若葉の彼氏になって、君を守れて、幸せだったよ」
柾(まさき)「でも、何でオレなんかを、好きになってくれたのかは、聞きたかったな」
若葉(わかば)「もう、ホントにしつこいなあ。恥ずかしいよ!」
若葉(わかば)「でも、そんな柾くんが大好きだよ」
若葉は、驚いて跳ね起きた。
「今、柾くんの声がした?」
その時、お母さんが若葉を呼んだ。
若葉!
今、柾くんのお母さんから連絡が来て、病院で柾くんが目を醒ましたんだって!!
若葉は、泣いた顔をクシャクシャにして、笑顔になった。
携帯を置いたお母さんは、悠々と庭から塀に飛び乗る白猫を見た。
白猫は家と家の間に入って、すぐに見えなくなった。
Fin
一見ダメなオタク男子に見えて、実は猫を助ける優しい彼であるという主人公の真実が見えるのが良いですね。特に短編はそういうのが効果的なのでしょうね。タマが出てくる理由もわかるし・・・成程!!
BGMも抑えて最後に掛けるのも効果的でした。
『キスからはじまる~』の泰斗くんとは、また正反対のキャラクターですね、柾くんは!こちらも魅力的なキャラですね!
作中の違和感が、終盤で一気にほどけていくようでスッとしました。とっても素敵な物語ですね!
この不器用で上手くいかない2人の恋模様は見ていてキュンキュンしますね。
(上手くいかない理由はさておきw)
不器用だけど真っ直ぐなオタク男子っていいですよね!