近くて遠いお隣さん

伊崎夢玖

最後の夜(脚本)

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〇綺麗な部屋
  (はぁ・・・。寝付けない・・・)
  明日、家を出る。
  都会の大学に進学するためだ。
  出発が早いから、もう寝ないといけない。
  それなのに、なかなか寝付けず、ついスマホをいじっていた。
  ──ピコン
  (こんな時間に誰・・・?)
  政親
  『部屋のベランダに出てこれるか?』
  隣に住む幼馴染の政親からのメッセージだった。
「・・・ったく・・・。 仕方ないな・・・」

〇団地のベランダ
政親「よっ」
「どうしたの?」
政親「何か話したくて・・・」
「変なの。 でも、そうだよね。 こうやって話せるの、今日が最後だもんね」
政親「だな・・・。 明日何時に出るんだ?」
「9時前かな」
政親「そんなに早く?」
「昼過ぎには荷物が来ちゃうから」
政親「そっか・・・」
政親「飛行機、一人で乗れるか?」
「馬鹿にしないでよ。 それくらいできるし!!」
政親「飛行機に乗る時は靴脱げよ。 機内は土足厳禁だから」
「嘘!? 知らなかった・・・」
政親「くっくっくっ・・・!!」
「あっ! 今の嘘!? 信じられない・・・。 最後の最後まで人を馬鹿にするなんて・・・」
政親「馬鹿にしてねぇよ。 お前が引っかかりやすいだけの話じゃん」
「だとしても、言っていい嘘と悪い嘘があるじゃん!!」
政親「いいじゃん。 お前のこと、からかるのも今日が最後なんだし・・・」
  最後──
  この言葉が重くのしかかる。
  明日からは政親の隣にいられない。
  もう私の居場所じゃなくなる。
  そう自覚すると猛烈に寂しくなった。

〇学校の校舎
  ──私は政親が好きだった。
  生まれた時からずっと一緒にいた政親。
  小学校に上がったくらいで自分の気持ちに違和感を感じた。
  政親が自分以外の女の子と話したり、楽しそうに笑ってるのを見るだけで胸がモヤモヤする。
  幼かった私はその気持ちが何なのか、まだ分からなかった。
  ただ分かったのは、ひとつだけ。
  (あの声も笑顔も私に向けられてたはずなのに・・・)
  小さな嫉妬──
  数年後、その気持ちが恋と分かると、政親への思いは急加速していった。

〇団地のベランダ
  (この気持ちは伝えちゃいけない・・・)
「じゃぁ、明日早いからもう寝るね」
  その場を逃げるように部屋に戻ろうとすると、政親が防火扉をベランダの柵の外から乗り越え、私の方にやってきた。
「バカっ!! 落ちたら危ないじゃん!!」
政親「そんなこと、どうでもいい」
  そこにいたのは、さっきまでのおちゃらけた政親ではなく、いつになく真剣な政親だった。
政親「お前に言わなきゃいけないことがある」
「嫌!! 聞きたくない!!」
政親「ちゃんと俺の話を聞け!!」
「ヤダってば!!」
  私は全力で抵抗した。
  ──が、それを簡単に制する政親。
  自分の知らない間に大人の男の人に代わっていた政親に驚いた。
  最近、政親には彼女ができた。
  それを政親本人からは聞いてない。
  女の子と一緒にいるところを何度も目撃したから間違いではないはず。
  一緒にいられる最後の日に、そんな話は聞きたくなかった。
政親「俺・・・ ずっと前からお前が好きだった」
政親「何度も言おうとしたんだけど、今の関係が壊れるのが嫌で言えなかった・・・」
「彼女は? いるんでしょ?」
政親「彼女!? 誰のこと?」
「少し前からよく一緒にいる子がいるじゃない。 あの子、彼女でしょ?」
政親「違うっ!! あの子はただの後輩。 好きとかそんな感情ないし」
「マジで?」
政親「マジで」
「なんで今更・・・?」
政親「明日からお前のそばにいられないだろ? 知らない間に誰かに取られて後悔するくらいなら、今全部ぶちまけようと思って・・・」
「いつから好きだったの・・・? 私のこと」
政親「分かんねえ。 気づいたら好きだった・・・」
「気づいたのは、いつ・・・?」
政親「中学上がる前」
「・・・じゃぁ、私の勝ち」
政親「は?」
「私は小学校上がる時にはチカのことが好きだったよ」
政親「そんな頃から?」
「うん・・・ バレないようにずっと隠してたからね」
政親「遠回りしまくってたんだな。 俺ら・・・」
「・・・だね」
政親「で、付き合ってくれんの? くれないの? ・・・どっち?」
「「どっち」って言われても・・・・・・ 付き合うとしても遠距離だよ?」
政親「毎日電話すりゃいいじゃん」
「ほんとに、私でいいの?」
政親「お前じゃなきゃダメなんだ。 彼女にするなら、お前がいい」
「浮気したら許さないから」
政親「するわけないだろ!!」
政親「何年もお前一筋だったんだから・・・」
「・・・うん。 そうだよね。 私も彼氏にするならチカがいい」
政親「じゃぁ、彼女ってことでいいんだな?」
「うん・・・」
政親「はぁ・・・ 緊張した・・・」
「チカも緊張とかするんだ」
政親「なんか今の言い方ムカつく・・・」
  私たちはいつの間にかいつも通りになっていることに気付き、顔を見合わせて笑っていた。
政親「なぁ・・・ 久しぶりに一緒に寝よう」
「まさか、エッチぃことしようってんじゃ・・・」
政親「バカ言うな!!」
政親「ただ一緒に寝たい。 それだけ・・・」
政親「お前が出発する──その時まで隣にいたい・・・」
「お父さんたち、来たりしないよね・・・?」
政親「大人は大人の時間を過ごしてるんだ。 俺たちは俺たちの時間を過ごそう」
  私の部屋に政親と入り、2人でベッドに横たわる。
  (子供の頃は2人で寝ても余裕だったのにな・・・)
  子供から大人に一歩近づいたことを感じながら、政親の腕の中で眠りについた・・・

コメント

  • 離れ離れになる前日に話すというシチュエーションが好きなので、とってもきゅんと来ました。私の方が~のセリフも胸きゅんでした!素敵な物語、ありがとうございました。

  • 彼が彼女に好きだと告白するタイミングが気持ちがとってもわかります。いつも隣にいる存在は安心感があるけど、彼女が遠くに行くとなると不安がありますね。

  • 一番近くにいるからこそ、伝えられない気持ち。
    最後だからと伝えた彼の勇気にあっぱれです❤
    とてもほんわかした気持ちになりました。
    二人が離れてもずっと仲良くお付き合いができますように😊

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