きみが二人いたらいいのに(脚本)
〇教室
このクラスで大人っぽいやつといえば、僕と雲間さんのことになる
赤詰(あかつめ)「雲間は外で遊ばねーの?」
雲間(くもま)「うん。本が読みたいから」
僕は外で遊び、雲間さんは教室で本を読む
彼女はいつも一人でいて、誰かと話していることは少ない
僕は外見がポイだけで、彼女こそが大人だと思っていた
〇学校の廊下
そんな彼女の笑みは、意外にも大人っぽいものではなかった
それを見てしまってから、目で追うようになり、話しかけるようになり──
〇教室の外
今では休みの日にも関わらず、二人で学校の花壇の雑草を抜いている
雲間(くもま)「――雑草なんて草はない」
雲間(くもま)「さっきのはハルジオン、今抜いたのはウラジロチチコグサだ」
赤詰(あかつめ)「へー・・・」
雲間(くもま)「私たちは好きな花のために他の植物を抜いているんだ。それを忘れるなよ」
赤詰(あかつめ)「ご、ごめん」
雲間(くもま)「――虫がうっとうしいな」
赤詰(あかつめ)「今の虫はなんて名前なの?」
雲間(くもま)「虫は虫だろ。名前なんて知らんよ」
赤詰(あかつめ)「ええ・・・」
学校での雲間さんと、目の前にいる彼女はまるで別人のようだ
もう慣れてはしまったが、初めて彼女の地を知った時から思っていることがある
赤詰(あかつめ)「ずっと思ってたけど、雲間さんって二人いるの?」
雲間(くもま)「・・・いたら便利だな。花壇の手入れも早く済むし」
雲間(くもま)「まあそんなわけないけど・・・ なんでそう思うんだ?」
赤詰(あかつめ)「学校にいるときと全然違うから」
〇教室
雲間(くもま)「ごめんね 私、外で遊ぶの苦手だから・・・」
雲間(くもま)「この本、面白いんだよ。読んでみてほしいな」
〇教室の外
赤詰(あかつめ)「本当に、全然違うよね」
雲間(くもま)「それは赤詰もだろ。もし二人いるとしたら、お前のほうだよ」
〇教室
赤詰(あかつめ)「おはよう、みんな! 今日も良い天気だな!」
赤詰(あかつめ)「今日の休み時間、外でなにする? 俺、サッカーしたいんだよなー」
〇教室の外
雲間(くもま)「違い過ぎるだろ」
赤詰(あかつめ)「ああいう風にしないと、なんか遠慮されるから・・・」
雲間(くもま)「まあ、お前は見た目が大人っぽいからな」
赤詰(あかつめ)「雲間さんもでしょ。一人でいること多いし、そういうの気にならないの?」
雲間(くもま)「別に? 本読んでるほうが楽しいのは本当だしな」
雲間(くもま)「お前は気にしてるのか?」
赤詰(あかつめ)「・・・僕は、みんなと遊びたいし混ざりたいよ」
雲間(くもま)「やれてるじゃん」
赤詰(あかつめ)「──前に、母さんから言われたんだ」
〇おしゃれなリビングダイニング
赤詰「無理しなくていい」
赤詰「自然にして、それでも付き合ってくれる人と遊べばいいって」
〇教室の外
赤詰(あかつめ)「──雲間さんもそう思う?」
雲間(くもま)「思わないな」
赤詰(あかつめ)「・・・な、なんで?」
雲間(くもま)「クラスの奴らと遊びたくて、お前なりに頑張ってるんだろ」
雲間(くもま)「なら続ければいい。やめたくなったらやめればいいしな」
赤詰(あかつめ)「・・・そうだね」
赤詰(あかつめ)「雲間さん、ありがとう」
雲間(くもま)「なんだよ、こそばゆいな・・・」
やっぱり今の雲間さんは、学校での彼女とは別人のように思う
「――お、二人ともだいぶ抜いてくれたな。ご苦労様!」
雲間(くもま)「あ、先生・・・! 私もですけど、赤詰くんも頑張ってたんですよ」
〇学校の廊下
〇教室の外
──けれども雲間さんの笑顔は、学校で初めて見た時と同じで
それはどうしようもなく、彼女が別人ではないことを示している
先生「おお、そうか。赤詰もありがとな」
赤詰(あかつめ)「・・・俺にかかれば、これくらい楽勝だよ!」
先生「うんうん、頼もしいな。それじゃあ、これは二人にお礼だ」
先生「草は先生が捨てておくから。赤詰も雲間も、また学校でな」
〇通学路
赤詰(あかつめ)「雲間さんは、先生と話してると楽しそうだね」
雲間(くもま)「まあな」
赤詰(あかつめ)「もしかして、学校でああいう風なのって・・・」
雲間(くもま)「真面目な方が先生と話せるし、好かれるからな」
赤詰(あかつめ)「僕は・・・今の雲間さんも好かれると思うよ」
雲間(くもま)「・・・なんだ、無理してるように見えるか?」
雲間(くもま)「したくてしてるんだよ。お前と同じ」
僕と同じように、雲間さんも頑張っている
みんなに好かれたいからではなく、ただ一人に好かれたくて
その一人は、僕じゃない
雲間(くもま)「――けど、こうして話すのは赤詰くらいだからな」
雲間(くもま)「ちょっと助かってるかもな」
〇教室
学校での雲間さん
〇通学路
今、僕といる雲間さん
別人のようで、そうじゃない。彼女は一人しかいない
だからこそ、思う
赤詰(あかつめ)「僕も雲間さんと話せて楽しいよ」
雲間(くもま)「バカ、そんなこと言ってないだろ」
──きみが、二人いたらいいのに
〇黒背景
学校の彼女は真面目で、一人で本を読んで、先生のことが好きなんだ
もう一人の彼女はぶっきらぼうで、僕と花壇の手入れをして、もしかしたら
――僕を好きになってくれる、かもしれない
〇住宅街
雲間(くもま)「じゃあ、私はこっちだから」
赤詰(あかつめ)「うん。また学校でね」
雲間(くもま)「おう、またなー」
結局、雲間さんは一人しかいない
雲間「──赤詰!」
赤詰(あかつめ)「え?」
雲間(くもま)「今の私でも好かれるってやつ、やっぱり嬉しかったよ!」
雲間(くもま)「私も、今のお前だって好かれると思うよ!」
雲間「──それだけ! またな!」
赤詰(あかつめ)「・・・ありがと! また明日!」
雲間さんは僕を好きにはなってくれないかもしれない
それでも、僕は彼女を好きなままでいたいと思う
いつかやめたくなる時まで
たった一人の彼女を、好きなままでいる
素敵な人ですね。自分を作らないと言うかなんと言うか…。
私も社会人になり、いつしか本当の自分は家でしか出さなくなっています。毎日疲れます…。
キャラの笑顔が素敵で雲間という名前がぴったりだと思いました。赤詰くんの気持ちを考えるとちょっと切ないですが、雲間さんの両面を知っているのは彼だけだなのだと思うとキュンとします。
彼の気持ちを思うとちょっと切ないですね。
でも、彼女の気持ちもわかるんです。
好きな人に好かれたいって思うのは当然のことですよね。
いつか彼に振り向いてくれるといいなぁと思いました。