あの日のストーカー

遠来根夢

読切(脚本)

あの日のストーカー

遠来根夢

今すぐ読む

あの日のストーカー
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇電車の座席
  なんかさっき胸の辺りにぶつかってきたと思ったら
  こいつ、なにごそごそしてんだ?
  あ──っ!!
  俺の服にべったり口紅つけやがっ
  なに逃げてんだよっ
  どうすんだよ
  このあと、サークルの飲み会あるのに
  もう最悪

〇電車の座席
  飲み会は散々だった。服の汚れが気になって、憧れの先輩に話しかけることもできなかった。
  あれから、先輩と近付ける機会もなくて。ほんとにあの女のせいで
  あの時の!!
砂川啓太「・・・」
朴木紗也「・・・」
砂川啓太「なに」
砂川啓太「これ、なに?」
砂川啓太「また逃げるのかよっ」

〇整頓された部屋
砂川啓太(なんだ、あの女。 なんで俺が乗ってることわかったんだろう。 もしかしてストーカーとか?)
  つい受け取っちゃったけど、何が入ってるかわからないし気持ち悪いから捨て・・・
砂川啓太(あれ?この店名って、なんか見たことあるな)
  このクッキー、子どもの時に好きだったやつだ!!
  確か、前に住んでた家の近所にあったケーキ屋の・・・
  ん?なんだろう・・・
  え、なんだこれ・・・メモ?・・・クリーニング・・・代
砂川啓太「こんなの貰っても、困る」
砂川啓太(クッキーは・・・もらおうかな)
砂川啓太「ん、覚えてた味よりおいしい!!」

〇華やかな裏庭
砂川啓太(クリーニング代、どうしよう)
砂川啓太(もらったところで、先輩と仲良くなれるわけでも、な、)
  先輩!!
砂川啓太(こんなところで会えるなんて いや、これこそチャンス!!)
砂川啓太「あ、あの、せ、先輩・・・」
砂川啓太(誰だ、このひと?)
砂川啓太(なんか、すごく親しげだな まさか、先輩の彼氏)
砂川啓太「あ、・・・」
  行ってしまった
  いくら憧れても・・・おれなんかが先輩と仲良くなれるはず・・・ないよな。

〇ケーキ屋
  なんか覚えてる雰囲気とは違うような・・・
  お店、変わっちゃったのかな。
「いらっしゃい」
砂川啓太「って、え、あれ?」
  まさか、こんなとこまでストーカー・・・
朴木紗也「来てくれたんだ」
砂川啓太「え?ストーカー・・・もしかして・・・朴木?」
朴木紗也「ストーカー?・・・って え!砂川くんっ!?」
「どういうことっ!?」

〇カウンター席
砂川啓太「あの時のストーカー・・・女性が朴木とは」
砂川啓太「ほおのき洋菓子店、朴木の家がやってたんだ」
朴木紗也「そう。砂川くん、お母さんと一緒によく来てくれてたよね」
砂川啓太「うん、大好きなお店だった。 クッキー見た時、驚いたよ」
砂川啓太「なんでストーカーがこの店知ってんだっ!って、あ、ごめん」
朴木紗也「あの時は本当ごめんなさい。 私も慌ててて、つい電車降りちゃって」
砂川啓太「ほんと、なんだコイツ!?って、わけわからなかったよ」
朴木紗也「申し訳ないことしたってずっと気になってて」
朴木紗也「会えたら渡そうと思って、毎日あの時と同じ時間帯の電車に乗ってたんだ」
砂川啓太「え!? 確かに、バイト行くのにあの辺の電車乗ること多いけど」
朴木紗也「なんかね、会えそうな気がしてた」
砂川啓太「それ、ほんとにストーカーじゃん」
朴木紗也「ねえ、砂川くん、なんかあった?」
砂川啓太「なにもないけど。なんで?」
朴木紗也「何十年も経って、いきなり来たから」
砂川啓太「それは、久しぶりに大好きだったクッキー食べて、ちょっと行ってみようかなって」
朴木紗也「・・・」
砂川啓太「・・・まあ、ちょっとね。 いろいろ、うまくいかないことも多くて」
朴木紗也「ふーん?」
  久しぶりに会った朴木に、おれは先輩のことを話したくなった。
  飲み会の時のこと、この前見かけた時のこと。
  それから、自分の近況とか、何にもやる気が出ないこととか。
  子どもの時はそんなに話したこともなかったのに。
  この先も関係ないって思えるから、気楽に話せるのかな。
朴木紗也「これは私、とんでもないことしちゃったね」
朴木紗也「もしあの時私が砂川くんの服を汚さずに、砂川くんが躊躇せずその先輩と話すことができてたら」
朴木紗也「もしかしたら、砂川くんと先輩は付き合えてたかも知れないのに」
砂川啓太「ええっ!? いやそこまでは・・・」
朴木紗也「ほんとごめん、なんてことしちゃったんだろう クッキーとかクリーニング代で済むことじゃないよね」
砂川啓太「いやいやいや、それほどのことでは」
砂川啓太「そうだ、クリーニング代!!」
砂川啓太「これは返すよ」
朴木紗也「だめだよ、益々もらってもらわないと」
砂川啓太「いやいや」
朴木紗也「いやい・・・ じゃあこうしよう、そのお金でうちの何か買ってって?」
砂川啓太「それじゃあまりにも」
朴木紗也「・・・」
砂川啓太「・・・ありがとう。 ありがたく使わせていただきます」
朴木紗也「よかった!! ・・・あ、ついでに先輩に告白したら?」
砂川啓太「はあっ!?」
朴木紗也「だって、まだその男性が彼氏だってはっきりしたわけじゃないんでしょ?」
砂川啓太「それはそうだけど・・・」
朴木紗也「悩んでても仕方ないし。 ダメならダメで、またそこから考えれば」
砂川啓太「他人事だからって」
朴木紗也「うちのお菓子渡せば大丈夫だから!」
砂川啓太「なんだその自信」

〇ケーキ屋
朴木紗也「どうだった?」
砂川啓太「いきなりだな・・・ふられたよ」
朴木紗也「えー、うちのお菓子なら大丈夫なはずなのに」
朴木紗也「気を落としちゃダメだよ、またチャンスはあるから」
砂川啓太「うん」
  本当は先輩に告白できなかった。
  先輩はおれの名前も知らなくて。
  買ったお菓子は自分で食べた。
砂川啓太「今度さ、朴木の映像撮らせて」
朴木紗也「は?突然何それ」
朴木紗也「今はまだダメ。もっと修行して父さんの味がちゃんと出せるようになったら、その時は撮って」
朴木紗也「・・・あと化粧がもう少し上手くなったら」
砂川啓太「あはは。そうだ、ね。 ・・・おれもたくさん勉強して、腕上げとくよ」
朴木紗也「うん、ちょっと待って」
朴木紗也「これ、」
朴木紗也「私が焼いたの」
砂川啓太「え、すごい」
朴木紗也「ううん、まだまだ。 もっと上手く焼けるようになるから、また来て」
砂川啓太「うん、ありがとう」

〇電車の座席
  朴木のクッキーは少しぼろぼろしたけどおいしかった。
  ・・・おれの腕もまだまだだけど、
  一緒に、がんばろうな。

コメント

  • 展開の面白さと彼女のポジティブさに引き込まれました。昔から親しんでいるお菓子って心のストレスや悩みを解きほぐしてくれますよね。街のお菓子屋さんを訪れたくなります。

  • 子どもの頃に好きだったものにふれると、どこどなく当時を思い出して癒やされるあの感覚を思い出しました。このクッキーのように、存在を忘れていても、当時の記憶って一気に蘇りますよね。ふたりのやりとりからも温かさ、無邪気さを感じ、優しい気持ちになれる作品でした。

  • たとえ物語の中に大きな展開がなくても、読み終えた後優しい気持ちになれたのは、主人公達がそれぞれ思いやりのある人だからでしょうね。幼馴染の偶然の再会から、なにか恋の予感もしますね。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ