TapNovelが紡ぐ、小さな物語(脚本)
〇勉強机のある部屋
俺は河西健。
TapNovelというゲーム小説サイトで、ライターをしている。
ペンネームはKenGo。
実は、恥ずかしくて隠してるけど。
純愛をテーマにした恋愛小説を書いている。
河西 健「なぜだっ!」
リリースしたものは30本を超えるが
ジャンル別ランキングに入ったものは一つもない。
河西 健「一体何が悪いんだっ?」
河西 健「はぁ、才能ないのかも」
人気の作品は10万Tapくらい読まれるのが普通だ。
それに比べて、俺のは500Tap行けばいい方。
河西 健「今回も感想はSudoさんからだけかぁ」
TapNovelは、読者から感想をもらうことができる機能がある。
数少ない俺の読者には、いつも必ず作品を読んで、感想をくれる方がいる。
それが彼女だ。
Sudo「キャラへの愛情がしっかり伝わってきます」
Sudo「素敵な出会いのお話ですね。私もこんな恋愛してみたい」
出来が悪い作品の時も・・・
Sudo「全体的に好きですが、結末がバッドエンドで寂しかったです」
批判もあるけど
しっかり読んでくれて、感想をくれるのは、この人くらいなものだ。
河西 健「そうか──」
河西 健「この人に、相談できないかな」
〇SNSの画面
いつもの投稿用のPCから、ダメもとでSudoさんを検索する。
河西 健「あっ この人だ」
アイコンと名前がSNSのものと同じで、すぐにわかった。
サイト内を見渡すと、自分の作品以外にも感想が述べられていて、少しだけ嫉妬した。
河西 健「DMで・・・っと」
『初めまして、KenGoです。いつも、小説読んで頂きありがとう』
『最近、自分の作品に自信が持てずにおります』
河西 健「なぜか緊張する──」
書きたいことは決まってるのに、なかなかタイプが進まない。
『『キュンとする話』というコンテスト用の作品について、良ければ一度お会いして、直接アドバイスをいただけませんか?』
河西 健「なんてなっ」
ここまで書いておいて、送信ボタンを押せずにいる。
河西 健「別に、DMでアドバイスもらってもいいよな」
小次郎「にゃーん!」
河西 健「小次郎っ!」
ロフトから、勢いよく跳躍する猫の重量をしっかり支え切ったのはいいものの・・・
河西 健「あー!?送信ボタン押しちゃった!」
書き直す予定のものが、送信されてしまったことに気がついたのは、「白の塊」を床に置いた後だった。
小次郎「にゃーん?」
河西 健「もう、引き返せない・・・」
河西 健「だけど小次郎。今日のおやつのカリカリはお預けかなっ!?それでいいかなっ!?」
小次郎「にゃー!」
小次郎の鳴き声が「手伝ったのに!?」と言っているように聞こえた。
〇SNSの画面
Sudo「いいですよ」
返事が来たのは土曜の夕方ごろ。
Sudo「KenGoさんの作品はとても素敵です。お会いできるのは今から楽しみです!」
河西 健「まさか、返信してもらえるとは」
待ち合わせは、某チェーン店のカフェに再来週の日曜日の午前11:00。
河西 健「作品を仕上げないと・・・」
〇勉強机のある部屋
睡眠時間を削ってTapNovelに新しくアップしたのは、コンテスト用の2作品。
Sudo「作品は随時見ます。感想は当日お話ししますから──」
という返信をもらったので、感想のコメントはしばらく来ない。
河西 健「Sudoさんから感想をもらえないと寂しいものなんだな・・・」
小次郎「にゃー!」
小次郎の鳴き声が今度は「元気出せよ」と言っている気がした。
河西 健「いよいよ明日かぁ」
〇電車の座席
Sudoさんには色々と助けてもらった。
彼女からは、DMで「励まし」と「今日あった出来事」を毎日のように送ってもらった。
Sudo「KenGoさんの作品は、人の心を動かします」
Sudo「少なくとも、私は動かされました」
Sudo「疲れていても、元気をくれます」
河西 健(元気をもらっているのは、こっちだよ)
Sudo「宝石のような純粋な作品ばかりで、きっとKenGoさんはすごい人なんだなぁ」
河西 健(そんなことは絶対ないよ!)
Sudo「今日は、街中でサンマを咥えた猫を見かけました!本当にそんな猫いるんですね!」
河西 健(うちの小次郎も、刺身を咥えて逃げたりするよ!)
目的地に向かう電車で、彼女からもらった言葉を一つずつ思い出す。
──不思議と、穏やかで、暖かな気持ちになる。
河西 健「そっか・・・」
河西 健「なぜ気付かなかったんだろう」
スマホを取出しTapNovelMakerを立ち上げる。
河西 健「きっと、そういうことなんだ・・・」
〇シックなカフェ
Sudo「髪型変じゃないよね?」
Sudo「メイク大丈夫かな?」
Sudo「あっ、時間!?大丈夫かな?」
腕時計の時刻は10:50。
Sudo「よかったぁ」
時間には間に合った!
Sudo「電話きてるかなぁ」
着信はない。
Sudo「時間もまだあるし、TapNovelでも見てようかな」
Sudo「あれ?KenGoさんのページに更新がある」
「須藤さんに、会った日」 新作の更新のお知らせ──
書き出しは
「俺は河西健。TapNovelというゲーム小説サイトでライターをしている・・・」
Sudo「これって・・・」
その物語には、SNSでSudoという人とのDMのやりとりに、勇気づけられ
次第に惹かれていく青年が描かれていた。
河西 健「その物語」
物語に没入しすぎて、目の前に彼がいることに気がつかなかった。
私は、”きっと”この人を知っている。
河西 健「完成してないんだ」
河西 健「だから、一緒に考えてほしい」
真っ直ぐな眼差し・・・
河西 健「その物語の ”幸せな結末” を」
迷いのない問いかけに、少し泣いちゃったけど、笑顔でこう答えようと思うんだ
須藤さん「はいっ」
メタな視点も入っていて、最後の展開には思わず唸ってしまいました!彼らの物語はこれから彼らの手によって作り出されて行くんでしょうね!素敵な作品ありがとうございます😊
遅れ馳せながら読ませて頂きました。
成程。主人公をライターにしてしまう。その手があったか…… 受け手をキュンとさせる旨い手だと思いました。参考になりますm(_ _)m
ライターだからこそ作れるとても素敵なお話ですね!!
私は河西くんに感情移入してしまい、須藤さんと会うシーンでは私までドキドキ、ワクワクしてしまいました!ネットから現実で繋がる展開が好きです!
ラストの須藤さんがシルエットから姿が変わるシーンの演出もとてと良いですね💕須藤さんと河西くんとのストーリーが今後どのように紡がれていくのか気になります☺️