エピソード1(脚本)
〇マンションの共用廊下
ふう
テレポート終了、っと
おっと
どうも
みなさん、こんにちは
私の名前は、透川明子
超能力者だ
いやいや
ウソみたいな話だが、ウソではない
まあ、自分が超能力者だということは他の人には隠しているけれど
超能力と名のつくものなら、大抵の力は使える
今も瞬間移動でここまで来たし
他にも例えば
今、私はマンションの自分の部屋の前に立っているのだけれど
試しに、ちょっとドアの向こうを透視してみると
〇高級マンションの一室
蓮「明子、遅いな」
蓮「まさか、何か事故にでも巻き込まれたとか」
蓮「あるいは、突然具合が悪くなって身動きがとれなくなったとか」
蓮「ど、どうしよう」
蓮「け、警察?」
蓮「い、いや」
蓮「病院に連絡すべきか?」
蓮「うううう」
蓮「も、もし」
蓮「明子になにかあったら・・・・・・」
蓮「そ、そんなことになったら」
蓮「もう・・・・・・俺は生きていけない」
・・・・・・・・・・・・
──と、まあ
このように
ちょっと、私の帰りが遅いだけで
この世の終わりみたいな顔をして待っている彼の顔も透視できたりする
はあ
この、ちょっと思い込みの激しい彼の名前は、大谷蓮
私の同居人というか同棲相手というか
腐れ縁というか
長い付き合いの幼馴染というか
まあ、早い話が一応私の彼氏である
蓮「ううううう」
蓮「・・・・・・明子」
蓮「明子明子明子明子明子明子明子明子明子明子明子明子明子明子明子明子明子明子明子明子」
蓮「早く!」
蓮「早く帰ってきてくれーー!!」
〇マンションの共用廊下
・・・・・・うん
あの調子だと本当にポリスとかを呼びかねないので
そろそろ帰宅しようと思います
ガチャ
〇高級マンションの一室
蓮「!」
蓮「ゴホン」
蓮「おや、明子」
蓮「おかえり」
蓮「久しぶりの同窓会は楽しかったかい?」
蓮「仲の良かった友達も大勢来ていたんだろう?」
蓮「滅多にない機会だし」
蓮「もっと、ゆっくりしてきても良かったのに」
・・・・・・・・・・・・・・・
みなさん
お分かりだろうか
これがさっきまで、全てに絶望していた男と同一人物である
無論、こんなのはただのポーカーフェイス
みっともない自分を見せないため取り繕っているに過ぎない
照れ屋の彼は、決して本心を話さない
それでは
今度はテレパシーで彼の心の中を覗いてみよう
蓮(あー!)
蓮(明子だ!)
蓮(明子が帰ってきた!)
蓮(神様)
蓮(明子を無事に帰してくれてありがとう!)
蓮(何ならこの世の全てのものにありがとう!)
蓮(ああ)
蓮(明子と8時間32分42秒も離れていたから)
蓮(明子が、もう女神様のように見える!)
蓮(俺の彼女は、なんて可愛いんだろう)
蓮(日本一!)
蓮(いや)
蓮(世界一!)
蓮(いや)
蓮(宇宙一だ!)
・・・・・・・・・・・・・・・
聴いているこっちの方が恥ずかしくなってくる
蓮「どうした明子」
蓮「疲れた顔をして」
疲労させてくる張本人は、今もなお平静を装う
蓮(はっ!)
蓮(こんな美人を男どもが放っておくわけがない)
蓮(今日の同窓会でも狼どもが群がってきたんじゃ!?)
蓮(そうに違いない!)
蓮(くうう!)
蓮(やはり俺が明子を、ちゃんと守らないと!)
蓮(こんなこと照れくさくて本人には絶対に言えないが)
蓮(君のことが)
蓮(誰よりも好きなのは俺だから)
・・・・・・・・・・・・・・・
困った
まるで超能力にでもかかったように胸が高鳴る
いつか
いつか彼が
その筒抜けの思いを伝えてくれる日を
私は今日も待ち続ける
途中から、超能力者という彼女はきっと妄想者なんじゃないかと思ってしまいました。お互いに口に出して伝えた方がいいこと、内に秘めていたほうがいいこと、腐れ縁の2人ならうまく使い分けているのかもしれませんね。
超能力者っていいな。瞬間移動、透視、その他エトセトラ。彼の心を見ることができるからキュンキュンしてしまって、何だかいいですね。
ポーカーフェイスの中の人がこんな感じだったら、むしろキュン死してしまいそうなほど愛おしいです。彼女に超能力があるからこそ、このふたりがうまくいってるような気もします。