エピソード1(脚本)
〇教室
『卒業おめでとう!』
黒板にそう大きく書かれた教室に、
ムカイと明日香が残っていた。
鷹宮 明日香「ねぇ話って何? 卒業式始まっちゃうよ」
ムカイ シンジ「あんなの出なくたっていいだろ どうせツマんねーし」
鷹宮 明日香「私は出たいの」
鷹宮 明日香「ムカイはその格好からして出たくないんだろうけど」
ムカイ シンジ「なんで制服着なきゃいけないんだよ」
鷹宮 明日香「こういう式典には制服着るって決まりでしょ」
鷹宮 明日香「じゃあ何で今日来たの?」
ムカイ シンジ「お前と写真撮るため」
鷹宮 明日香「・・・え?」
ムカイ シンジ「スマホ出して」
鷹宮 明日香「えっ、私ので撮るの?」
ムカイは明日香に近づき、ぴったりと寄り添った。
ムカイ シンジ「ほら撮って」
鷹宮 明日香「え・・・うん」
鷹宮 明日香「はい、チーーー」
突然、明日香がムカイのことを突き飛ばした。
ムカイ シンジ「痛ェ〜・・・」
鷹宮 明日香「今キスしようとしたでしょ?」
ムカイ シンジ「・・・はい」
鷹宮 明日香「サイテー」
ムカイ シンジ「キスくらいいいだろ」
鷹宮 明日香「私はムカイみたいな遊び人じゃないんで」
ムカイ シンジ「もしかして初めてだった?」
鷹宮 明日香「はあ!? 何バカなこと・・・」
ムカイ シンジ「え、違うの?」
ムカイ シンジ「誰? 誰とキスしたんだよ」
鷹宮 明日香「いいじゃんそんなこと」
鷹宮 明日香「もしかして最初からこれが目的だったの?」
ムカイ シンジ「違うよ オレは本気で鷹宮と写真撮りたくて」
鷹宮 明日香「全然説得力ない」
ムカイ シンジ「・・・悪かった」
鷹宮 明日香「・・・・・・」
〇大きな木のある校舎
〇教室
明日香は教室の掛時計に目をやった。
鷹宮 明日香「そろそろ行かなきゃ スマホ返して」
ムカイ シンジ「なぁ」
鷹宮 明日香「なによ」
ムカイ シンジ「オレだけこん中に入れてくれないのかよ」
鷹宮 明日香「え?」
ムカイ シンジ「お前、クラスのヤツ一人ひとりと写真撮ったんだろ?」
鷹宮 明日香「・・・うん」
ムカイ シンジ「そんなにキライだったのかよ、オレのこと」
鷹宮 明日香「え、違う、そうじゃなくて」
ムカイはため息まじりに近くの椅子に腰かけた。
ムカイ シンジ「どうせオレはバカで要領も悪くて何もかも中途半端な男ですよ」
鷹宮 明日香「出た、ムカイの自虐」
鷹宮 明日香「ホントそういうとこ子供だよね」
鷹宮 明日香「もうウチら18なんだからいい加減そういうの直したら?」
ムカイ シンジ「・・・はい」
鷹宮 明日香「・・・素直」
ムカイ シンジ「オレにそんなこと言ってくれるの鷹宮だけだ」
鷹宮 明日香「そ、それはあれだよ」
鷹宮 明日香「ムカイって話しかけづらいっていうか」
鷹宮 明日香「いつもオレに近寄るなオーラ出してるじゃん?」
ムカイ シンジ「そんなことないけど」
鷹宮 明日香「そんなことあるの!」
鷹宮 明日香「ムカイと話したいって子たくさんいたんだよ?」
ムカイ シンジ「へ〜そうなんだ」
ムカイ シンジ「ま、どうでもいいけど」
ムカイ シンジ「オレは鷹宮と話せたら」
鷹宮 明日香「・・・・・・」
〇まっすぐの廊下
〇教室
鷹宮 明日香「ねぇ、早くして」
ムカイ シンジ「え?」
鷹宮 明日香「撮るんでしょ、写真」
ムカイ シンジ「え、うん、撮る、撮る撮る」
明日香はムカイにスマホを渡した。
ムカイ シンジ「オレが撮るの?」
鷹宮 明日香「また変なことされたら困るから」
ムカイ シンジ「はいはい じゃあ撮るぞ」
ムカイ シンジ「はい、チーズ」
そう言った瞬間、ムカイは自分だけにカメラを向けシャッターを切った。
鷹宮 明日香「ちょっと!」
ムカイ シンジ「オレに渡すからだよバーカ」
ムカイは明日香のスマホをいじりだした。
鷹宮 明日香「ちょっとやめてよ! 勝手に触らないで!」
ムカイ シンジ「へ〜楽しそうに写ってんじゃん」
〇学校の昇降口
〇学校の屋上
〇教室の外
〇教室
鷹宮 明日香「楽しそうでしょお」
ムカイ シンジ「・・・・・・」
突然、ムカイは明日香の隣に立つとスマホを掲げた。
鷹宮 明日香「え、ちょっと待ってよ 髪型直す」
ムカイは明日香の肩を抱いた。
鷹宮 明日香「!?」
ムカイは明日香に突き飛ばされた。
ムカイ シンジ「そこまですることないだろ!」
鷹宮 明日香「ムカイがまた変なことするからじゃない!」
ムカイ シンジ「はあ? お前武田に肩抱かれて写ってんじゃねぇか」
ドキッとする明日香は慌ててムカイからスマホを取り上げた。
ムカイ シンジ「武田と付き合ってんのかよ」
鷹宮 明日香「違うよ」
ムカイ シンジ「じゃあなんで」
鷹宮 明日香「・・・・・・」
ムカイ シンジ「オレさ、式終わったらサッカー部の連中と打ち上げ行くんだよ」
鷹宮 明日香「それが何よ」
ムカイ シンジ「今しかないんだよ お前と二人っきりになれるの」
鷹宮 明日香「・・・・・・」
ムカイ シンジ「・・・・・・」
鷹宮 明日香「ムカイにはありさがいるじゃん」
ムカイ シンジ「え?」
鷹宮 明日香「キスでも何でも、ありさとすればいいじゃん」
ムカイ シンジ「・・・・・・」
鷹宮 明日香「・・・・・・」
ムカイ シンジ「別れたよ、アイツとは・・・三日前に」
鷹宮 明日香「そうなの?」
ムカイ シンジ「愛情はもっと前からなかった」
ムカイ シンジ「つーか、最初から好きだったかどうかもわかんない」
鷹宮 明日香「ありさ納得したの?」
鷹宮 明日香「めちゃくちゃ仲良さそうだったじゃん」
ムカイ シンジ「オレ気づいたんだよ」
ムカイ シンジ「アイツ以上に、一緒にいたいと思うやつがいるって」
鷹宮 明日香「・・・・・・」
『明日香どこにいるの?』
『もうすぐ式はじまっちゃうよ』
鷹宮 明日香「・・・・・・」
ムカイ シンジ「・・・もういいや」
ムカイ シンジ「もう忘れるよ、お前のこと」
鷹宮 明日香「!!」
ムカイは踵を返した。
すると──
鷹宮 明日香「私だって、そのつもりだったよ」
ムカイ シンジ「?」
鷹宮 明日香「写真撮りたかったよ・・・ムカイと・・・」
鷹宮 明日香「でもそんなことしたら・・・毎日見ちゃうから・・・」
明日香は握りしめたスマホをじっと見た。
鷹宮 明日香「ホントは一番ここに入れたかったよ・・・」
鷹宮 明日香「だけど・・・」
ムカイ シンジ「・・・・・・」
鷹宮 明日香「今日で、ムカイのことも卒業しようと思ってた」
ムカイ シンジ「・・・・・・」
〇学園内のベンチ
〇教室
突然、ムカイは黒板に書かれた『卒業』の文字を消しだした。
戸惑う明日香が見守る中、
彼は『卒業』の文字を『入学』に書き換えた。
『入学おめでとう!!』
ムカイ シンジ「オレさ、入学式のときからお前のこと知ってたんだ」
鷹宮 明日香「え・・・」
ムカイ シンジ「一年も二年もクラスは違ったけどさ、気がついたらお前のこと探してた」
ムカイ シンジ「・・・ずっと、片想いしてた」
鷹宮 明日香「・・・・・・」
ムカイ シンジ「いいじゃん、卒業式から始まったって」
鷹宮 明日香「・・・・・・」
ムカイは明日香の手からやさしくスマホを取り出すと、カメラモードにセットした。
ムカイ シンジ「そんな恋があっても、いいじゃん」
鷹宮 明日香「・・・うん」
春風でフワッと教室のカーテンが舞った。
ムカイは鷹宮にキスをした。
教室内に、カメラのシャッターが響き渡った。
FIN
シンジ君の素直になれない感じや、一途な部分が台詞のから伝わってきました!また、卒業という事で少しセンチメンタルな気持ちになりました(;;)
素敵な物語ありがとうございます!
好きだからこそ一緒に写真を撮れない、ヒロインの相手を思う一途な気持ちにキュンとしました。
遠回りをした二人が卒業式にスタートを切れて良かったです😊
卒業して離れても、二人が仲良い恋人同士でいられますように✨
卒業式ってなんかセンチメンタルになりますね。学校を卒業すればもう会えないかもしれない。告白も卒業してしまったら後悔が残る。