あたためますか

豊丸晃生

読切(脚本)

あたためますか

豊丸晃生

今すぐ読む

あたためますか
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇コンビニのレジ
星野香奈「いらっしゃいませ!」
黒崎和也「よっ ピー子」
  鳶職人らしい彼は常連客だ。
  いつも同じ弁当を買うのだが、あたためるときピーと鳴るからピー子というあだ名をつけられた。
黒崎和也「はいコレちょうだい」
星野香奈「お弁当あたためますか?」
黒崎和也「うん。それとボクのハートもあたためて、ほらハグ(両手を広げる)」
星野香奈「お断りします。 それよりこの募金箱に愛を入れるとハートがあったかくなりますよ」
黒崎和也「ほんとかよ。で、なんの募金なんだ」
星野香奈「カンボジアに井戸を寄贈するための募金箱なんですよ」
黒崎和也「ふーん。じゃ、お釣り入れとくわ」
星野香奈「ありがとうございます! 優しいんですね」
黒崎和也「ば、ばかやろ・・・ はやく弁当よこせピーピーなってんぞ」
星野香奈「あ、ごめんなさい。 お弁当お待たせしました」
黒崎和也「じゃあな、ピー子」
星野香奈「ありがとうございました〜」
  ときおり見せるあの笑顔にやられそうだ。
  恋心があたためられますよ、こっちは・・・

〇雑居ビル
  私はシンガーソングライターで成功したくて、バイトが終わると路上ライブをしている。

〇雑居ビル
黒崎和也「あれ? ピー子が歌ってる。 でも、誰も聴いてねーじゃないか」
黒崎和也「・・・いい歌だ。 けど、ギターがノってねぇ だから、誰にも響いてねーんだ」

〇女の子の部屋(グッズ無し)
星野香奈「おつかれさま 今日も・・・ 誰もふりむいてくれなかったね、 でも大丈夫、私がんばるから、 これからも、よろしくね」
  〈ギターを抱きしめる香奈〉
星野香奈「雨、ひどくなってきたな あした晴れるといいな・・・」

〇小さいコンビニ
黒崎和也「ひでぇ雨だなぁ ったく今日は仕事にならねーわ。 ピー子がんばってっかな」

〇コンビニのレジ
星野香奈「今日は歌えないわね 私、なにやってんだろ・・・ コンビニ店員になるために、 上京してきたみたい・・・ あの人、くるかなぁ」
黒崎和也「よっ ピー子、 ん?どした、元気ねーな」
星野香奈「あ、いらっしゃいませ! すみません。ちょっと考えごとしてて・・・」
黒崎和也「そんな顔してっから、 だれも振り向いてくれないんじゃねーか、 ギターが泣いてたぞ パートナー変えてくれってな」
星野香奈「えっ? 聴いてくれてたんですか・・・」
黒崎和也「いつも、あそこで路上ライブやってんのか、 もっと目立つ場所あんだろ」
星野香奈「まだ、自信がなくて・・・ でも私、本気でシンガーソングライターになりたいんです!」
黒崎和也「自信が持てないやつは何をやってもダメだ。 自分に誇りが持てないならやめちまえ」
星野香奈「そこまで言わなくても・・・ 私も必死なんです! コンビニでバイトなんかしたくないし・・・ 時間があれば、もっと・・・」
黒崎和也「あまったれんな!! 成功してるやつはそうやって這い上がって 結果だしてるんだろーが!!」
  何も言い返せなかった。
  彼の言葉が胸に突き刺さったまま
  私はコンビニ店員として立ち続けた。

〇女の子の部屋(グッズ無し)
星野香奈「なんか、くやしくなってきた。 アイツを見返してやるわ、 這い上がって二度とピー子なんて、 絶対に呼ばせないから!」
星野香奈「ごめんね、私変わるから、 これからもよろしくお願いします」

〇アーケード商店街
星野香奈「みなさーん、聴いてください!! 私、本気なんです!! シンガーソングライターになりたいんです!!」
  私は歌い続けた。
火野将弘(Mee社プロデューサー)「いいねぇ」

〇アーケード商店街
  一人、二人・・・
  立ち止まる人が私の歌を聴いてくれていた。
  気がつけばたくさんの歓声が私を包み込んでいた。
黒崎和也「あいつ、本気で向き合うようになったんだな・・・響いてるよ もうコンビニ店員なんかじゃねぇ、 立派なアーティストだ」
火野将弘(Mee社プロデューサー)「和也じゃねーか!? 探したよ。鳶職人やってんだって、」
黒崎和也「あっ・・・火野さん」
火野将弘(Mee社プロデューサー)「戻ってこいよ、いつでも待ってる」
黒崎和也「もう俺のことは忘れてください。 それより彼女、忘れられない存在になりますよ。この世界のね」
火野将弘(Mee社プロデューサー)「おまえが言うなら、間違いないな」
黒崎和也「じゃ、おれ仕事あるんで」

〇渋谷駅前
  一年後・・・

〇小さいコンビニ

〇コンビニのレジ
  彼は、しばらく姿を見せなかった。
  店頭の扉が開くたび彼の姿を探していた。
  会いたい・・・もうこの店を去るからだ。
星野香奈「いらっしゃいませ! あっ・・・・・・」
黒崎和也「よっ ピー子、久しぶりだな 元気でやってるか」
  彼は、幻のロックバンドZBANGの元ボーカル黒崎和也と知った。レコード会社Meeと契約していたらしい。
星野香奈「あの・・・ 私、レコード会社のMee社と契約が決まったんです!」
黒崎和也「聞いたよ。 よかったじゃねーか ま、がんばれよ。応援してっから 星野香奈さん」
星野香奈「ありがとうございます。 ZBANGのボーカル、黒崎和也さん」
黒崎和也「チッ・・・火野さんから聞いたのか」
星野香奈「黒崎さんが本気で叱ってくれなかったら、 私・・・あきらめようと思ってたの、 ずっと、お礼がいいたくて」
黒崎和也「そんなのいらねぇよ、 おまえの歌で、この世界をあっためてやれ。 それより、コレちょうだい」
星野香奈「あの・・・」
黒崎和也「ん?どした」
星野香奈「・・・あたためてもらえますか? ・・・私」
黒崎和也「・・・おいで、香奈」
  彼の胸に飛び込んだ。
  私は、5秒であたためられた・・・

コメント

  • いいお話。。。お弁当はレンジですぐに温められるけど、人の心ってそう簡単ではないですね。ピー子さんの素直さと頑張りが彼のハートをおもいっきりあたためたみたいですね。

  • 夢を持ってがんばってる人って、すごく輝いて見えますよね。
    彼もそんなところを彼女に見出したのでは?と思いました。
    ラストは甘くて、これもまたよかったです。笑

  • どうもピー子です。
    嘘です、ピーターです。
    夢も叶えて、彼氏も出来て、これは熱々ですわ。
    熱盛!

コメントをもっと見る(5件)

ページTOPへ