魔法はとけて(脚本)
〇渋谷駅前
(はあ・・・疲れた)
私は仕事でボロボロだった。
上司には嫌味ばかり言われ、
残業、残業・・・。
髪はボサボサ、メイクも適当。
(明日、会社、行きたくない・・・)
(消えちゃいたいな・・・)
???「お姉さん、俺と遊ばない?」
???「とっておきの魔法をかけてあげるよ」
(えっナンパ!?)
(私に?)
(怪しすぎる・・・!)
でも、その夜は
とても疲れていた。
魔がさして──
その笑顔に、うなづいてしまった。
ボロボロの私の前に、
とつぜん現れた魔法使い。
それが彼との出会いだった。
〇美容院
連れていかれたのは──
美容室だった。
(え? ただのカットモデルってこと・・・?)
???「はい、じゃあ座って」
「あ、あの・・・!?」
???「大丈夫。 全部俺にまかせて?」
(またその笑顔!)
反則だ。
私は黙ってイスに座る。
鏡ごしに、彼の顔をみる。
さっきまでとは違う真剣な表情に
ドキリとする。
???「強引だったらごめん。 でも、あなたを見たらつい・・・」
???「あなたが、とても疲れて、 傷ついているように見えたから・・・」
???「元気を出してほしくなったんだ」
???「ぜったいに、あなたを 最高にキレイにして、 最強に元気にしてみせるよ!」
そう言って笑うと、
彼は私の髪にそっと触れた。
そこからは、
本当に魔法のようだった。
???「ここは短くして、段をつけよう。 あなたの横顔がよく見えるように」
???「顔をあげて? うん・・・やっぱりこのほうが素敵だ」
???「せっかくだからメイクもしちゃおう!」
あっという間に、
私は変身させられた。
あんなにボロボロだったのに。
最高に綺麗で、
最強な私、がそこにはいた。
「・・・本当に魔法使いだったりする?」
彼は、目をみはってから──
今夜のなかで一番嬉しそうに笑った。
???「そう。 俺は魔法使いなんだ」
???「内緒だよ?」
〇事務所
次の日。
私は会社に行けた。
上司「なんだ? その浮わついた髪型は」
上司「化粧も濃いんじゃないか~? 男に媚びるにしても、 もっとうまく・・・」
「何がいけないんでしょうか?」
上司「な、何!?」
「キレイな髪型にして、 しっかりメイクすることの、 何がおかしいんですか?」
上司「そ・・・ それは・・・だな・・・」
上司は驚いていたが、
私も驚いていた。
こんなふうに言えるなんて。
まだ魔法がかかっているのだろうか?
ゆうべ出会った魔法使い。
彼のことを思い出すと、
なぜか勇気がわいてくるのだ。
(御礼、言いたいな)
彼の連絡先を聞いていなかった。
──きのうの美容室に行けば会えるだろうか?
〇美容院
日曜日。
少しだけオシャレして、あの美容室へ向かった。
大きなガラス窓があいていて、
そこからそっと中を覗き見た。
(あ・・・いた!)
(忙しそうだな・・・)
女性客「ねえユウヤく~ん」
ユウヤ「何ですか」
女性客「この前、女の子ひっかけて カットモデルさせたんだって?」
ユウヤ「誰にそんなこと・・・」
女性客「店長にきいたよ~」
女性客「閉店後に、無断でお店つかったから メチャ怒られたんでしょ?」
ユウヤ「まあ・・・はい。そうですね」
(え・・・そうだったの?)
女性客「なに?そんなに可愛い子だったの? やらし~な~ お店で何してたのよ~」
ユウヤ「違いますよ、 あのひとはそんなんじゃなくて・・・」
女性客「ユウヤくんて奥手なんだと思ってたからさ~ やることやってんだね」
女性客「その子もホイホイついてきてさ~ 舞い上がっちゃったんだろうね~ ユウヤくんに声かけられて」
女性客「今度はあたしが相手してあげよっか? カッ・ト・モ・デ・ル・・・ ふふ・・・」
私は顔が赤くなった。
恥ずかしさと・・・怒りで。
あの夜の、
あの魔法のような時間を
そんなふうに言わないで・・・!
ユウヤ「そんなふうに言わないでください」
女性客「えっ」
ユウヤ「俺のこと、馬鹿にするのはいいけど。 あのひとのことをおとしめるのだけは・・・」
ユウヤ「許せない」
女性客「な・・・なによ」
女性客「ちょっとからかっただけじゃないの」
店長「あーっすみませんお客様」
店長「ユウヤ、お前どうしたんだよ」
ユウヤ「・・・すみません」
ユウヤ「ちょっと・・・外に出てきます」
店長「おい!」
〇公園のベンチ
『ま・・・待って!』
ユウヤ「えっ!?どうしてここに・・・」
ユウヤ「もしかして、さっきの・・・ 聞こえてた?」
「は・・・はい」
ユウヤ「そっか・・・」
ユウヤ「いや・・・つい熱くなっちゃってさ・・・」
ユウヤ「お客さんにあんなこと言って、 美容師失格だよな」
ユウヤ「でも、我慢できなかったんだ」
ユウヤ「あなたを馬鹿にするような言葉が 許せなくて・・・」
ユウヤ「あなたの耳にはぜったいに聞かせたくない ・・・って思ったんだけど」
ユウヤ「もう聞いちゃったか・・・」
「ぜんぜん平気です」
「あなたがかばってくれたから」
「もしあなたが言い返さなかったとしても」
「私がお店に乗り込んで、あの女の人に 言ってやってたと思う」
「✕✕✕✕✕✕!(放送禁止用語) って」
ユウヤ「えっ」
「あ・・・今のは言い過ぎだけど」
しまった。
ユウヤ「あはははははは!」
ユウヤ「ひっでえ言葉・・・」
ユウヤ「俺が言うので正解だったわ」
ユウヤ「・・・ありがとう」
ユウヤ「こんな俺でがっかりした?」
ユウヤ「ぜんぜん魔法使いなんかじゃないよね」
「そんなことないです」
ユウヤ「どこにでもいるような、クビになりそうなただのアシスタント美容師でも?」
「本当のあなたを知れて、よかった」
まっすぐで心優しい、少し不器用な──ただのあなたを。
ユウヤ「・・・あのさ」
ユウヤ「名前・・・教えてくれる?」
ユウヤ「また・・・会えるかな」
魔法はとけて──恋がはじまる。
Fin.
自分の居ない場所で大事に想われてるとにキュンしますね!
互いが互いに魔法にかけられていたのだな、と物語を読んで思いました。そして、魔法が解けてからが彼らにとっての本当の恋の始まりであり、とても先が楽しみになるような話でした!
素敵なお話ありがとうございます!
イケメン君が素敵過ぎて、夢中になって前髪クルクル指で回してたら結び目できてました。
明日は美容院に行こうと思います。