甘さの錯覚(脚本)
〇広い改札
ユウ「今日はありがとう。 すごく、楽しかったよ」
ユウ「足、大丈夫? 随分と歩かせちゃったから心配だな」
ユウ「・・・・・・・・・・・・」
ユウ「"大丈夫"って、ウソでしょ。それ」
ユウ「私が和装を好いてるのは個人の勝手なんだから無理して合わせなくてもいいのに。 頑張り屋さんだなぁ」
ユウ「"なんで"って、顔してるね? キミの考えてる事なんてなんでもわかるよ」
ユウ「なんせ私は、キミの"トクベツ"・・・」
ユウ「そう。"カレシ"だからね」
ユウ「なんてね。 キミかなーり分かりやすいんだよ。すーぐ顔に出ちゃうんだから」
ユウ「あぁコラコラ逃げないの。 わかりやすくて頑張り屋さんで、おまけに恥ずかしがり屋さんだねキミは」
ユウ「ほゥら、捕まえた」
ユウ「後ろからこうして抱きしめると、本当に小さいねキミは。プチッといっちゃいそうで怖いよ」
ユウ「・・・・・・・・・・・・」
ユウ「あははァ。冗談冗談。そう辺りを見なくたってこんなに人が多いんだ。何を言っても周囲の人間の耳になんて入らないよ」
ユウ「まぁ、でも。君があんまりにも気になるってならこうしてあげようね」
ユウ「────聞こえるかい?」
ユウ「こうしてキミの耳元にだけ囁けば、キミ以外の人間に聞こえることなんてないだろう?」
ユウ「仕草表情に偽りがない素直な君も、私に合わせようと頑張ってくれた君も。こうして顔を赤らめている今の君も」
ユウ「・・・・・・」
ユウ「愛しているよ」
ユウ「・・・・・・」
ユウ「・・・・・・・・・・・・」
ユウ「あははァ」
ユウ「後ろからでもわかるよ。耳真っ赤」
ユウ「アレだね。アレに勝てるね。りんご飴」
ユウ「キミが食べてたあのカットりんご飴の方じゃなくて、縁日とかで売ってる真っ赤なアレね。アレより赤いよ」
ユウ「おっと!?」
ユウ「あはは。 いじめすぎちゃったかな。ごめんごめん」
ユウ「さぁ、今日はもうお帰り。暗くなっちゃうから」
ユウ「あぁコラコラ。なんでキミも改札行こうとしてるの」
ユウ「ほら、これ。 1万あれば足りるでしょ。タクシー」
ユウ「ダーメ。 私に合わせて履きなれてない草履なんて履いて足痛めてるのはどこの誰?」
ユウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ユウ「はい。よく言えました。えらいね」
ユウ「それじゃあ、気をつけて帰るんだよ。またね」
ユウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ユウ「・・・・・・・・・・・・はァ・・・・・・」
〇高級マンションの一室
ユウ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ユウ「はァ。疲れた。 キザを演じるってのもラクじゃないな」
〇高級マンションの一室
ユウ「はァ・・・・・・・・・・・・落ち着いた」
ユウ「別にキザなんて演じなくたっていいのだろうけど・・・・・・」
ユウ「・・・・・・俺もまだまだ、子供だな」
ユウ「テレビのアイドルにキャーキャー言うのは当たり前なのだろうけど、そりゃあ嫉妬くらいするさ俺だって」
ユウ「あ、今日奴らのライブだ・・・・・・」
ユウ「あの子が読んでる少女漫画の更新も、確かそろそろだし」
ユウ「タクシーの中で見てるのかなァ・・・・・ 俺じゃ、役不足ですか」
ユウ「・・・・・・」
ユウ「・・・・・・・・・・・・」
ユウ「──あぁ。もしもし?私だけれど・・・」
ユウ「今、ちょっといいかな」
ユウ「どうしても、君の声が聞きたくてさ」
ユウ「ねぇ、愛してるよ。それも、物凄く」
ユウ「いいじゃないかせっかくデートしたんだし」
ユウ「キミに甘えて欲しいし、私もキミに甘えたいんだよ」
ユウ「愛してる。誰よりもずぅっと、君の事だけを想っているよ」
ユウ「あははァ。また照れてる。かわいい」
ユウ「ホント、キミはわかりやすいね。 かわいいよ」
嘘だ。
何度キミとこうして会話をしても、キミの事は何一つわからない。
ペンは銃より強し____
そう思い込んでいた時が、俺にもあった。
ペンをとって甘い言葉を書いても書いてもどれだけ書こうとも、キミの視線を俺だけに向けさせることはできない。
いつか、なれるかな。
キミをキュンとさせられる存在に。
ユウ「どうしようもなく愛してるよ。 僕だけの、"トクベツ"な人」
ユウ「・・・・・・今の、ちょっと恥ずかしいな」
ユウ「忘れてくれないか?」
なかなか状況について行けてません。彼女は実在して…?
デートの練習中? 妄想族? 勝手に状況設定でワールドが広がっています。
読んでいて顔がずっとニヤケっぱなしでした。彼女に良くみられようと、慣れない下駄を履いているのは、ユウくんの方なんだなと思うと、微笑ましい気分になりました。
とても素敵な作品ありがとうございました!!
彼女の顔を赤らめた様子が浮かんできました。
彼女に合わせて頑張るところが可愛いなと思いました。真っ直ぐに想いが伝わるときが来ますように。