月と太陽(脚本)
〇黒
私は
私の名前が嫌いだ
蒼山美月(あおやま みづき)
名前だけなら女優とか
漫画のヒロインみたい
だけど実際の私は
どこにでもいる地味で目立たない女
〇大学
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「みんな忙しいところ 集まってくれてありがとう」
この人は
私が所属してるサークルの会長
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)さん
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「学祭まであと十日 作業が遅れ気味だから頑張っていこう」
佐藤「美月ちゃんはこっちで アーチの飾り付けを手伝ってくれる?」
はーい
〇大学
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「あれ?美月ちゃん 何か困ってる?」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「ああ アーチの色で迷ってるのか・・・」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「お その色いいねえ!」
青山秀子「朝日ー! ちょっとこの看板見てもらっていい?」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「わかった 今そっちに行く!」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「ごめんね また困ったら声をかけてね」
もう少しお話ししたかったな
〇大学
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「みんなー! そろそろ昼だから休憩にしよう」
青山秀子(あおやま ひでこ)「美月ちゃん さっきはごめんね」
この人は先輩の青山秀子さん
私が皆に下の名前で呼ばれるのは
この人との区別のためだ
青山秀子(あおやま ひでこ)「朝日と何か話してたのに 邪魔しちゃってさ」
いえ
作業の相談してただけですから
青山秀子(あおやま ひでこ)「ふぅ・・・・・・ん そうなんだ」
何か?
青山秀子(あおやま ひでこ)「いや、別に」
あの・・・
変なこと聞いてもいいですか?
青山秀子(あおやま ひでこ)「何?」
秀子さんて
朝日さんと付き合ってるんじゃないんですか?
青山秀子(あおやま ひでこ)「は? ないない!」
青山秀子(あおやま ひでこ)「私、高校の時からの彼氏いるから」
青山秀子(あおやま ひでこ)「大学は別だから会うのは週一くらいだけどね」
仲いいみたいなので
てっきりそうかと・・・
青山秀子(あおやま ひでこ)「三年間も同じサークルなら仲良くもなるし お互い呼び捨てにもなるよ」
青山秀子(あおやま ひでこ)「そんなことが気になるなんて さては美月ちゃん・・・?」
いえ
私そんな大それたこと・・・
朝日さんて
いつもみんなの中心で
親切で温かみがあって
名前のとおり
太陽みたいな人じゃないですか
それに引き換え私なんて
いつも端っこで目立たないし
名前に美しいって字が入ってるけど
全然美人じゃないし・・・
青山秀子(あおやま ひでこ)「名前にコンプレックスあるんだ?」
はい・・・
青山秀子(あおやま ひでこ)「私も自分の名前が嫌だったよ 昭和の名前って感じでさ」
だけど秀子さんは
綺麗じゃないですか
青山秀子(あおやま ひでこ)「美月ちゃんだって コンプレックス持つような外見じゃないよ」
青山秀子(あおやま ひでこ)「まあ 美月ちゃんの外見の話は置いとくとして」
青山秀子(あおやま ひでこ)「恋愛って見た目がどうとか そういうことだけが問題じゃないと思うよ」
青山秀子(あおやま ひでこ)「彼氏の前じゃ言えないけど アイツ、別にイケメンじゃないしね」
青山秀子(あおやま ひでこ)「ところでね 朝日のやつはさ・・・」
鈴木「おーい青山ー! ガムテープ足りないから準備しといて!」
青山秀子(あおやま ひでこ)「はーい!」
青山秀子(あおやま ひでこ)「じゃね 頑張りなよ!」
秀子さんは
何を言いかけたんだろう?
〇大学
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「鈴木、今日はバイトの日だろ? 先にあがってくれていいよ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「お疲れさん」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「山田さん、用事があるなら 気にせず帰ってくれていいよ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「遅くまでありがとね」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「さて、残ってるのは 僕と美月ちゃんだけか」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「そろそろ暗くなるし 作業も大分進んだから 今日は終わりにしようか」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「今日は食事の支度も面倒だし 外食しようと思うんだけど」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「美月ちゃんさえよければ 一緒にどうかな?」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「いいけど服が汚れたから着替えたい?」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「それじゃあ僕も用事があるから 一時間後に渋谷駅に集まろうよ」
〇モヤイ像
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「いや 待ってない待ってない」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「僕もさっき着いたばかりだよ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「僕は何をしてたかって?」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「実は今日 家に誰も居なくてね」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「猫に餌をやりに帰ってたんだ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「その子の写真?」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「にゃん吉って言うんだ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「名前が安直? アハハ それは名付けた姉に言って欲しいかな」
〇テーブル席
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「いい雰囲気のイタリアンレストランでしょ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「ここの特製ドリアがおすすめなんだ」
〇テーブル席
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「美月ちゃんて凄く幸せそうに食べるんだね」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「誘った甲斐があったよ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「ここのところ 学祭の準備が忙しかったけど」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「美月ちゃんは いつも最後まで残ってくれてるから」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「しっかりお礼がしたかったんだ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「そういうわけで 今日は僕におごらせてよ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「いや みんな頑張ってくれてるけど」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「その中でも美月ちゃんは 特に目立つ・・・というか」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「・・・・・・」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「もしよかったら・・・ この後付き合って欲しい場所があるんだ」
〇見晴らしのいい公園
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「どう?」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「ここは 月がとても綺麗に見えるから」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「どうしても 美月ちゃんに見せたくなったんだ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「何故って?」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「美月ちゃんて控えめだけど」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「周りへの気遣いだとか 優しさだとか」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「そういう素敵なところが」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「銀色に輝いて見えるんだ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「まるであの月みたいにね」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「この場所はね」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「美月ちゃん以外の知り合いには 教えたことがないんだよ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「美月ちゃんのことも 同じように僕が独り占めしたいんだ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「駄目かな?」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「えーと 今のは」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「愛の告白のつもり だったんだけど」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「どう・・・かな?」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「本当に? よかったあ〜」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「安心したら急に寒くなってきたよ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「10月でも高台は冷えるね 美月ちゃんは寒くない?」
〇見晴らしのいい公園
不思議だ
来た時と同じ道を歩いているのに
まるで違う景色に感じられる
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「明日から皆の前で どう振る舞ったらいいかって?」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「美月ちゃんの好きにしたらいいよ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「ごめんごめん そんな顔しないで」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「冗談だからさ」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「それとも」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「冗談を言いあえる間柄になれたって 思ったのは僕だけなのかな?」
私が言葉を発しようとしたその瞬間
彼の温かな指先が
私の言葉を遮るように
私の手に重なった
〇見晴らしのいい公園
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「そう 手を繋いで歩くのは初めてなんだね」
朝日昇太郎(あさひ しょうたろう)「これからはずっと一緒だよ 美月ちゃん」
私はずっと自分の名前が嫌いだった
だけど
これからは好きになれるかも
この人と一緒なら
END
朝日くんが、ヒロインちゃんの事を目立つと言ったのは、とっくに惚れていて、自然と目で追っていたからなんだろうな、と思うととてもきゅんと来ました!
タイトルもすごく素敵です!素晴らしい物語、ありがとうございました!
学生時、「一緒に遊ぶなら明るく楽しい子が良いけど、付き合うならおっとりとした優しい人が良い」と、男の子たちが言っていたのを思い出しました!
綺麗なお話で、とても素敵です!
キュンキュンしました!