渋谷に響く音 わたしの物語

57Toki

渋谷に響く音 わたしの物語(脚本)

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〇センター街
  渋谷には音があふれている。
  車の音、
  楽しそうな笑い声、
  店のBGM、
  大ボリュームのコマーシャル、
  いつまでも終わらない工事の音、
  にぎやかな呼び込みの声、
  ストリートミュージシャンの歌、
  どこから鳴り響いているのかわからない
  とびはねるようなゲームの音楽、
  外国語のアナウンス、
  海外からの観光客が
  会話するのを聞いていると
  異国にいる気分だ。
  互いに主張しあって、
  一歩も引かない音であふれている。
  私は背景の一部になったような気持ちで
  渋谷の雑踏を歩いた。
  そのとき、懐かしい声が聞こえた。
  私はこの声を絶対知ってるはず。
莉愛「奈緒ちゃん!」
  あわてて振り返ると
  一人の女の子が立っていた。
莉愛「クラス一緒だった莉愛だけど、 覚えてる?」
奈緒「覚えてるよ」
  忘れるはずなんかない。
  友達が多くて
  いつも目立ってた莉愛ちゃん。
  莉愛ちゃんが私を
  覚えていたなんて不思議だ。
  これだけたくさんの人がいる渋谷で、
  知り合いに会うなんて思わなかった。
  
  相変わらず美人で見とれてしまう。
莉愛「この辺よく来るの?」
  莉愛ちゃんが通りを指さした。
奈緒「あんまり。 今日は買い物に来たんだけど」
莉愛「そうなんだ。もう買い物終わり?」
奈緒「うん、そろそろ帰ろうかと 思ってたところ」
  わたしは肩から下げた
  大きな紙袋を見せた。
莉愛「じゃあ、ちょっとだけお茶しない?  ひさしぶりに奈緒ちゃんと話したいし」
  夢のような提案だった。
莉愛「なんか不思議だよね」
  そう言って莉愛ちゃんは笑った。
  すれ違う人を上手によける。
  制服姿しか知らなかったから、
  私服で渋谷を歩いている
  今の状況がくすぐったい感じだ。
奈緒「ほんとひさしぶりだもんね」
  いつも何人かで会ってたから、
  二人だけで話すのは新鮮だ。
  手に持った紙袋が
  人とぶつからないように気をつけながら、
  近くのカフェを目指した。
  莉愛ちゃんは中学のときより
  ずっと大人っぽくなった。
  よく手入れされたつやつやの髪。
  流行のスカートがよく似合ってる。
  中学のときの自分に教えてあげたい。
  高校生になったら
  渋谷で莉愛ちゃんとお茶してるよって。
  カフェで向かい側の席に座ると、
  きれいな顔立ちがよく見えた。
  私は、誰にも会わないと思って
  適当な格好で来たことを後悔した。
  急いでメイクしてこようかな。
  今から席を立つのも変だし。
  憧れの女の子との再会に浮かれて、
  どうしていいかわからない。
莉愛「高校あかりたちと一緒なんだよ。 クラスは離れたけど、 うちの中学から結構受験したから」
  地元の高校の話を
  次から次へと聞かせてくれる莉愛ちゃん。
  話に出てくる同級生の名前に
  あまりぴんと来なくて、
  相槌をうつのが精一杯だった。
  楽しそうな莉愛ちゃんの
  表情を見ていると、
  なぜかさみしくなった。
莉愛「そっちの学校はどんな感じ?」
  莉愛ちゃんがストローで
  ドリンクをかき混ぜる。
奈緒「宿題とか多くて、 勉強が大変なんだよね」
  私が進学したのはかなり離れた高校。
  うちの中学から進学した子が
  ほとんどいなくて、心細い気持ちだ。
  カフェでしばらく話したあと
  また街を歩いた。
  同じ学校という共通点がなくなった今、
  どんなことを話せばいいのかわからない。
  このまま駅まで歩けば
  10分もかからないはず。
  
  もう会う機会がないんだと思うと
  足取りが重くなった。
  今日こうしてお茶できたのが奇跡だ。
  
  莉愛ちゃんとの最後の思い出になるはずの
  今日をかみしめながら渋谷を歩いた。
  センター街にあるスピーカーの前を
  通りかかったとき、
  聞きなれた歌が聞こえた。
莉愛「わたし、この曲好きなんだ」
  その瞬間、
  なんだか嬉しくなった。
奈緒「いいよね、これ。私も好き」
  心からの言葉だった。
奈緒「莉愛ちゃんが こういうの聴くとは思わなかった」
  高校で、そのアーティストの
  ファンを見つけられなかったから、
  莉愛ちゃんの言葉を聞いてほっとした。
莉愛「そう? だっていい曲じゃん。 毎日聴いてるよ」
奈緒「歌詞がいいよね」
  もっと早く話せてたらよかった。
  同じアーティストを好きだったこと
  卒業してから知るなんて、
  もったいない気分だ。
莉愛「今日、会えてよかった」
  駅まで歩く途中、
  莉愛ちゃんが振り向いた。
奈緒「うん、すごく楽しかった。 誘ってくれてありがと」
  話しながら、私はずっと迷っていた。
  次は自分から誘ってみようか。
  こんな機会は二度とないかもしれない。
  きっかけを探して
  必死に考えていると、
莉愛「ねえ、今度この曲のイベント あるらしいんだけど、一緒に行かない?」
  莉愛ちゃんが携帯を
  私に見せてくれた。
  来月、渋谷で発売記念の
  イベントが行われるらしい。
奈緒「行きたい! 楽しみだね」
  大好きな曲を聴きながら、
  莉愛ちゃんと次に会う予定を決める。
  そのとき私は、
  自分が物語の主人公になれた気がした。

コメント

  • 共通の好きなものがあったりすると、一気に距離が縮まって仲良くなれますよね。私も中学の同級生とバッタリととあるアーティストのライブで再会、大人になったあとで好きなアーティストが一緒だったとしり、一気に親しくなりましたよ。

  • 好きだった同級生と再会して、このままわかれたくない…って時に提案が来て、すごくうきうきした楽しい感情が伝わってきました。
    このまままた友人関係になれればいいなと。

  • 昔の同級生と再開して、渋谷の街を歩きながら学校の話題や好きなアーティストの音楽の事とか話が盛り上がっていましたね。友達の好きな話題は仲良しになる秘訣だね。

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