読切(脚本)
〇渋谷の雑踏
5年前 渋谷 ハロウィン
お父さん「いつから渋谷はこうなっちまったんだろうな」
お母さん「時代は変わりますから」
ハチ「ワン!」
お母さん「そんなこと言っても仕方ありませんから、 ハチの散歩が終わったら早く帰りましょうよ」
お父さん「そうは言ってもな・・・ ここを通らないと家に帰れないし」
〇ハチ公前
お父さん「あ アイツ、ハチ公に乗って何かしようと してやがる」
お母さん「あなた いいから帰りましょうよ」
お父さん「いいや、いささか目に余る 行くぞ、ハチ!」
ハチ「ワン!」
お父さん「君、そこから降りなさい!」
智「なんだ、このオッサン 離せよ」
智が腕を振り払うと、男性はその場に
うずくまった
お父さん「痛ッ!」
ハチ「ワン!」
主人が怪我するのを見ると
ハチが若者に噛み付いた
智「痛ェ!なんだこいつ」
お母さん「ハチ! やめなさい!」
智「あ、すいません」
お母さん「アナタ、怪我はない?」
お父さん「あぁ」
お母さん「アナタは?」
智「あ、大丈夫ッス サーセン、調子のりました」
お母さん「主人の怪我も大したことないし 私たちにも完全に落ち度がないわけが ないから、いいわ その代わり」
智「その代わり?」
お母さん「もしアナタが少しでも悪いと思うなら 明日朝6時にここハチ公前に 来てくれる?」
智「え」
〇学生の一人部屋
智「あー まずったな 明日何すんだろ」
〇ハチ公前
お母さん「ちゃんと来てくれたのね」
智「ウス」
智「それで今日何するんすか」
お母さん「何って・・・ ゴミ拾いよ」
智「ゴミ拾い!?」
お母さん「そう 渋谷はね、ハロウィンを含め イベントが多いけど大変なのは その翌日なの アナタ渋谷見てどう思った?」
智「いや、確かに汚ぇなって思いましたけど・・・」
お母さん「でしょう? イベントが終わった後の渋谷は いつもこうなの だから今日アナタに手伝ってほしいのは ゴミ拾い」
智「なるほど」
〇渋谷駅前
〇モヤイ像
〇高架下
〇ハチ公前
智「大分周りましたね」
お母さん「えぇ、おつかれさま」
智「いや、ホントに」
お母さん「ハチ公っているでしょう 元々の歴史をご存知?」
智「いや」
お母さん「今や忠犬ハチ公として知られているけどね 主人を待っている間にいじめられたり したそうよ だから耳が曲がっているとも」
智「はぁ」
お母さん「あなたに噛み付いてしまった飼い犬の ハチは保護犬なんですよ やっぱり虐められていた犬で、 それを私たちが引き取ったんです」
智「はあ」
お母さん「今も渋谷は若者の街ですけどね 昔は学生の街だったんですよ 主人と会ったのも渋谷の大学で」
お母さん「だから思い出深い大切な街なの」
智「はあ」
お母さん「周りの環境次第で昨日悪かったものが 今日良くなることもあるのよ 逆もね」
お母さん「別に渋谷でイベントをやるのはいいの 人が集まるのは悪いことばかりじゃないわ」
お母さん「私はこの街が好きですよ 今も昔も変わらず だから楽しんだ分、この街を大切にして ほしいの」
智「・・・うす」
〇ハチ公前
渋谷 現在
お母さん「アナタ、 ずっとイベントの後 清掃してるんですってね」
智「うす マナーっすから」
お母さん「この街から人が減って お祭り騒ぎもなくなったけれど、 今やっている活動だって 人が集まるここだからできることよ」
お母さん「人が集まるのはやっぱりこの街なの」
智「どうにか呼びかけが成功するといっすね 集まって力になれるように」
お母さん「ほんとに」
素敵なお話ですね。
その後もちゃんとゴミ拾いをしている少年も、素直でいい人なんだなぁと。
ほんのり優しい気分になるお話でした。
お母さんの誘導の仕方もすごいけど、若者がそれをすんなり受け入れ実行した事に渋谷の明るい未来を見た様に思います。渋谷に限らず、観光地と呼ばれているような人が多く集まる場所に出向く際には、一人ひとりの心がけが大事だと改めて思いました。海外に住んでいると、それでもまだ日本人のマナーは上質な方だとは実感しますが。
人が集まるところは必ず汚れますから、そこを綺麗にする人が必要です。お母さんは凄いです。一人の青年をゴミ拾いに誘って、それが長く続くことは素晴らしい。