龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第壱佰弐話 赤黒激闘(脚本)

龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

今すぐ読む

龍使い〜無間流退魔録外伝〜
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇荒野
穂村瑠美「たあっ!!」
  間合いを詰めた瑠美が、真っすぐ斧槍を突き出す。
橘一哉「おわっ!!」
  速い。
  そして早い。
  一哉はそれを紙一重で避け、
橘一哉「熱っつ!!」
  思わず声を上げた。
橘一哉「何だ今の!?」
  避ける際に、斧槍の槍先に合わせて沿わせた右の前腕が、
橘一哉「めっちゃ熱い!」
  熱かった。
  倶利伽羅甲の宿す黒龍の龍気。
  黒龍の属性である『闇』の特性である『停止』の力。
  それを以てしても、直接伝わる熱気が肌を焼きそうな程に熱かった。
  その熱さの余りに一哉は大きく飛び退き、瑠美から大きく間合いを離していた。
  剣道において、一歩踏み込めば打ち込みが当たるのを『一足一刀の間合』という。
  今の素手の一哉が一歩踏み込めば拳の届く間合。
  それを仮に『一足一撃の間合』と呼ぶとするならば。
  一哉が瑠美との間に置いた距離は、彼に最適な『一足一撃の間合』ではない。
  それは一哉の戦士としての本能がなせるわざであろうか。
  その間合は、瑠美の斧槍の間合いよりも更に広かった。

〇荒野
穂村瑠美(さすがね、橘くん)
  刀を持たない一哉。
  その戦闘能力は、瑠美にとっては未知数だ。
  瑠美は、一哉の戦闘方法が刀から素手に切り替わった後、共闘したことが無い。
  龍使いと四神の会盟の時。
  その時に、朱雀の使い手の雀松司から受けていた素手の戦いの手解き。
  朱雀の闘技の伝授される風景を、チラリと横目に見た程度。
  それが実戦でどのように活用され、活用しているのかなど見たことが無い。
  晃大から、饕餮の三郎を退けた際の話を聞いた程度の知識しかない。
  それでも、
穂村瑠美(刀を持ってない分だけ、身軽かもしれない)
  一哉は剣道をやっているのは知っている。
  中学の頃から、彼の異名は有名だった。
  『平坂の不敗の引き分け名人』。
  その異名が示すのは、相手に有効打突を殆ど取られたことが無いということ。
  剣道は武道である。
  試合において、駆け引きは重要だ。
  互いの動向を読み合うという意味で使われることの多い『駆け引き』。
  だが、それだけではない。
  文字通りの『駆け』と『引き』。
  即ち、前進と後退。
  それを誤れば、即座に敗北する。
  身の振り方を即座に、且つ迅速に、そして適切に行わなければならない。
  一哉は、瑠美の一撃に対して、即座に、的確に、迅速に動いた。
  刹那の攻防、一瞬の判断力が要求される剣道。
  その剣道で培われた能力を遺憾無く発揮して、一哉は瑠美の攻撃に反応した。
穂村瑠美(あんなに速く、しかもあれだけの跳躍力)
  今の互いの立ち位置のままで斧槍を突き出しても、一哉には届かないだろう。
  そんな距離まで、一哉は一足飛びに飛び退っていた。

〇荒野
橘一哉(おいおいおい、何だよ、今のは)
  対する一哉も、構えを取り直す一方で驚愕を隠せない。
橘一哉(触ってもないのにめっちゃ熱かったぞ)
  一哉は、防御を兼ねつつカウンター狙いで右前腕を上げた。
  その前腕に、とんでもない熱量が伝わってきた。
  まるで溶鉱炉に直面しているかのような熱さだった。
  その熱さに、反射的に飛び退った。
  一哉の本能、無意識が判断した取るべき距離は、瑠美の間合いの外。
  眼前に突如として出現した未知の事象に対する、警戒と様子見。
  外見上は単なる斧槍。
  しかし、帯びているのは触れずとも伝わる尋常ならざる熱気。
黒龍「火天真言の力を纏っているな」
橘一哉「?」
  脳裏に黒龍の言葉が聞こえた。
黒龍「火天真言、その力を放出して終わりにしてはいない」
橘一哉「初手にぶっ放したので終わりではない、と?」
黒龍「そうだ」
  黒龍は一哉の言葉を肯定し、
黒龍「火天真言の呪力、未だ消えずに継続している」
  火天真言の力の発動は、今なお続いている。
橘一哉「そんな事が可能なのか?」
黒龍「原理的には可能だ」
黒龍「発動し続ければ、体力も精神力も消耗はするがな」
  力の発動している時間に比例して消耗も大きくなる。
橘一哉「つまり、」
  それだけ瑠美は本気だということだ。
  守るための戦いではない。
  力の温存など考えていない。
  出し惜しみ一切無しの、本気の勝負。
  それが、今の一撃に込められた彼女の意気込み。
橘一哉「なら、」
橘一哉「こっちも、応えるしか無いよなぁ」
  一哉の意気込みに応じるように、倶利伽羅甲から黒い龍気が再び噴き出した。

〇荒野
姫野晃大「え?!」
  触れてもいないのに、一哉が飛び退いた。
姫野晃大(今のは、)
  一哉ならばカウンターを仕掛けたはずだ。
姫野晃大(なんで?!?)
  一哉の戦い方は知っている。
  全てを、ではないが、ある程度、それなりに理解しているつもりだ。
  刀から素手へと変わったが、基本姿勢は変わっていない。
  どんなに相手が攻め立ててきても、攻撃の隙を逃さず狙っている。
  僅かな隙さえ見つければ、そこに刃を、一撃を滑り込ませ叩き込む。
  それが、一哉の戦い方だ。
  そのはずだ。
  しかし、今の動きは違った。
姫野晃大(逃げた・・・?)
  一哉の行う逃避や回避は、必ず次の攻めに繋がっている。
  しかし、今の一哉の動きは違う。
  『逃げるために逃げた』。
  そんな表現が似合う、回避のための回避。
  普段の一哉なら滅多に、いや、絶対に取らないはずの動きだった。
  しかも、
姫野晃大(あの瑠美に、そんな事が出来たなんて)
  その回避行動を取らせたのが、あの瑠美。
光龍「赤龍のやつ、本当に本気らしいな」
姫野晃大「え?」
光龍「赤龍め、火天真言で生じた火気を発散せずに纏わせ続けている」
姫野晃大「どういうことだ?」
光龍「一哉に向けて放った炎、あれが火天真言の全ての力ではない」
姫野晃大「え?」
光龍「火天真言の力は、今なお絶えることなく発動し続けている」
姫野晃大「つまり?」
  晃大とて馬鹿ではない。
  何となくの予想はついた。
  だが、それが本当に合っているのかという自信はない。
  だから、敢えて光龍に訊ねてみると、
光龍「炎という形は取らずとも、火天真言の熱気が瑠美を覆い続けている」
姫野晃大「火天真言は、発動しっぱなし、って事だな?」
光龍「その通りだ」
  問題は、続く消耗に瑠美がどれだけの時間を耐えられるか。
  光龍はそう付け加えた。
姫野晃大「だからカズは退いたのか」
  普段の一哉からすれば、異常にしか見えない回避行動。
  その奇妙さに納得した一方で、
姫野晃大「大丈夫かな、瑠美のやつ」
  晃大は幼馴染の身を案じていた。
  これほど攻撃的な瑠美は今まで見たことが無い。
  積極的な行動、しかも慣れない立ち回り。
  心身にかかる負荷は普段の戦い方よりも大きいはずだ。
  一哉も再び倶利伽羅甲から龍気を噴出させ、戦闘意欲は満々。
  互いの体力と精神力。
  そのタフネスは、どちらが上手か。
  戦いの帰趨の決め手は、そこにある。

〇荒野
橘一哉「行くぜ穂村さん!」
穂村瑠美「来なさい!!」
  今度は一哉が仕掛けた。
  槍すら届かない距離である。
  一哉は地を蹴って足を踏み出し、己の間合へと瑠美を入れなければならない。
  当然ながら、
穂村瑠美「せい!!」
  瑠美の構える斧槍が鋭く突き出される。
  直撃しては堪らない。
  一哉は左腕を上げて斧槍に接触し、穂先を流すが、
橘一哉(やっぱ熱ちい!!)
  心頭滅却しても熱いものは熱い。
  闇の龍気で熱を減衰させても、熱湯に触れているかのような熱さだ。
  長時間触れているわけにもいかないので、流した瞬間に接触をやめるが、
橘一哉(熱に、圧される・・・っ!!)
  膨大な熱量に、身体中が本能的に回避をしようとしてしまう。
  余談だが、一哉はサウナが苦手だ。
  あの高温・高湿度の空間には五分と入っていられない。
  一分すら保たない。
  そんなサウナのような空気を、今、一哉は感じていた。
橘一哉(開放空間がサウナ並みとかおかしいだろ!!)
  この結界は荒野である。
  サウナのような密閉空間ではない。
  なのに、この熱気は如何なる事か。
  色々と不満や苦痛を感じつつ、
橘一哉「せいっ!!」
  右の掌に黒い龍気を纏わせて繰り出す一哉。
穂村瑠美「たあっ!!」
  そこへ、熱気を纏った斧刃が横薙ぎに繰り出された。
  再び、無数の光の粒子が飛び散る。
  火天真言の熱気と黒龍の龍気が互いを中和したのだ。
  その中で間合を取り構え直す二人。
  今度は遠間ではない。
  瑠美が腕を突き出せば、その斧槍が一哉に届く距離だ。
  一哉にとっては間合の外だが、瑠美にとっては間合の内。
  だが、相手の反応次第で相手に接触できるという意味では、一哉の間合でもある。
穂村瑠美「もう一度、いくよ」
  瑠美の斧槍が炎を纏う。
  熱気のみに留めていた火天真言の力の出力を上げたのだ。
橘一哉「・・・来い」
  対する一哉も、四肢から黒い龍気を噴出させ纏わせた。

成分キーワード

ページTOPへ