ゾンビあふれるこの世界で、君との約束を果たす(脚本)
〇渋谷の雑踏
タクミ「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」
「うぅ・・・・・・あぁ・・・・・・」
タクミ「くそっ、どんだけいるんだよ!」
俺は持っていたバットを振りまわした。
タクミ「はぁっ・・・・・・はぁっ」
〇黒
こんな状況になったのは、つい1週間前のことだ。
『死体が蘇り、ゾンビとなる』
その不気味な現象が現れてから
世界はすぐにゾンビであふれかえった。
〇渋谷の雑踏
タクミ「こんなにゾンビが多いなんてな・・・・・・」
タクミ「でも、あと少しだ」
タクミ「あと少しでミナに会える・・・・・・!」
〇ハチ公前
ゾンビが出る少し前
ミナ「毎回ここで待ち合わせだよね」
タクミ「なにか不満か?」
ミナ「たーくん、方向音痴だから仕方ないか」
タクミ「ここなら有名だし、わかりやすいからいいだろ」
ミナ「んふふ、そうですか~」
タクミ「笑うなよ」
ミナ「えへへ」
〇渋谷の雑踏
あれから俺はミナと会ってない。
隣県に住む俺は
大量にゾンビのいる東京に
近寄ることができなかったからだ。
しかし
徒歩で1週間かけ
渋谷まで来ることができた。
タクミ「ミナは・・・・・・あそこで待ってるはずだ!」
〇カウンター席
あの時、俺達は約束したんだ。
ミナ「ねえねえ、スマホがもし使えなくなったらどうする?」
タクミ「困るな」
ミナ「私たちみたいに遠距離恋愛してるとさ」
ミナ「スマホって大事じゃん?」
ミナ「これが使えない世界が来たらって考えると怖くてさ」
タクミ「そんなことにはならないと思うよ」
ミナ「もー、マジメに考えてよ」
ミナ「結構不安なんだよ?」
タクミ「そう言われてもなあ・・・・・・」
ミナ「じゃあもし、スマホが使えなくなって連絡がとれなくなったら」
ミナ「いつもみたいに、ハチ公前で待ち合わせしよう」
ミナ「相手が来るまで、ずっと待ってる・・・・・・」
ミナ「どうかな?」
タクミ「それいいな、そうしよう」
〇黒
まさかそれが現実に起こるとは思わなかった。
〇渋谷の雑踏
タクミ「ミナ・・・・・・無事でいてくれよ」
〇黒
1週間前
〇一人部屋
俺はすぐにミナに電話をかけた。
ミナ「たーくん・・・・・・」
タクミ「ミナ、そっちは大丈夫か!?」
ミナ「うん、まだ大丈夫」
ミナ「だけど、外にかなりの数のゾンビがいるの」
ミナ「怖い・・・・・・」
タクミ「食料はあるのか?」
ミナ「うん、なんとかある」
タクミ「じゃあ、俺が助けに行く、そこで待ってろ」
ミナ「うん!」
〇黒
だけど
俺がミナの部屋に行った時には
〇血まみれの部屋
もぬけの殻だった。
タクミ「ミナ・・・・・・くそっ・・・・・・どこに行ったんだ・・・・・・」
〇黒
部屋に残っていたスマホには
『いつもの場所に来て』
という、未送信のメッセージが残されていた。
うっている最中に逃げたのか?
それとも、襲われて送信できなかったのか?
生きているのか?
それとも・・・・・・
嫌な想像が頭の中にこびりついて離れない。
だけど、俺達には約束がある。
〇カウンター席
ミナ「じゃあもし、スマホが使えなくなって連絡がとれなくなったら」
ミナ「いつもみたいに、ハチ公前で待ち合わせしよう」
ミナ「相手が来るまで、ずっと待ってる・・・・・・」
ミナ「どうかな?」
タクミ「それいいな!そうしよう!」
〇黒
この、約束が。
〇渋谷の雑踏
タクミ「うおおおおお!」
タクミ「どけええええええ!」
俺は広場にいるゾンビたちをバットで殴っていく。
手に残るのは、嫌な感触だけだ。
だけど、ミナと会うためならこんなことぐらい
どうってことない。
タクミ「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」
〇黒
そして俺は、ハチ公の前に着いた。
〇ハチ公前
ゾンビの群れの中に、見慣れた背中を見つけた。
それは、ハチ公の像にすがるように抱き着いている。
タクミ「ミナ!」
彼女は俺の声が聞こえていないようだった。
バットを振り回してゾンビを追い払いながら、彼女に近づく。
タクミ「ミナ!俺だ!タクミだ!」
〇黒
そっと振り向いた彼女は
もう
人間ではなかった。
〇ハチ公前
ミナ「あぁ・・・・・・うぅ・・・・・・」
タクミ「ミナ・・・・・・」
タクミ「なんで・・・・・・」
タクミ「なんでだよおおおおおおおお!」
タクミ「うわあああああああああ!」
俺がバットを振りかぶり、
ミナの頭に振り下ろそうと思ったその時。
ミナ「あぁ・・・・・・たー・・・・・・うぅ・・・・・・くん」
ミナの目から、涙がこぼれた。
タクミ「ちくしょおおおおおおおおおお!!!!!!」
〇カウンター席
ミナ「いつもみたいに、ハチ公前で待ち合わせしよう」
〇ハチ公前
タクミ「うわあああああああああ!」
〇カウンター席
ミナ「相手が来るまで、ずっと待ってる・・・・・・」
ミナ「どうかな?」
〇ハチ公前
タクミ「ミナ・・・・・・」
タクミ「俺は、ここまで来たぞ・・・・・・」
俺は、ミナを抱きしめた。
ミナ「あぁ・・・・・・うぅ・・・・・・」
ミナは俺を抱きしめ返してくる。
ミナ「たー・・・・・・くん・・・・・・」
タクミ「ミナ・・・・・・」
ミナ「ご・・・・・・めん・・・・・・ね・・・・・・」
彼女がそう言った瞬間
俺の首筋に激痛が走った。
〇黒
渋谷のハチ公前
〇ハチ公前
ゾンビの数は増え続けている。
その中に、ずっと一緒に行動しているゾンビがいる。
タクミ「あぁ・・・・・・うぅ・・・・・・ミナ・・・・・・」
ミナ「うぅ・・・・・・たー・・・・・・くん・・・・・・」
その顔は、どことなく幸せそうだった。
タクミ「ずっ・・・・・・と・・・・・・いっ・・・・・・しょ・・・・・・」
ミナ「ずっと・・・・・・ずっと・・・・・・」
ハチ公前で待ち合わせ。響きはいいですけど、こんなに切ない待ち合わせがあるとは……😢
ほろりときました😢😢
メリーバッドエンドのお話、大好きです!ただハチ公前で待っているのではなく、「縋るように抱きついていた」という描写が個人的にはグッときました。
自分の愛する人がゾンビになったらどうするでしょうか、例えば家族とかだと
迷いますよね。何だか切なくなるストーリーでした。が、楽しく読ませて頂きました。