微睡の情景

こじろう

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〇外国の駅のホーム

〇車内
  時刻は朝の8時前ゆうじは車のハンドルをコツコツとつついていた。
  30分でルート246を進んだ距離は100メートル程度。
  横を歩く人々をうらやましげなまなざしで、ゆうじはみつめていた。

〇車内
  このままでは客の住む三軒茶屋まで、どれだけ時間がかかるかわからない。
  遅刻は取引相手の時間を奪ってしまうということ。
  信用を失うというペナルティーだけではすまないと
  常々ゆうじは肝に命じていた。

〇渋谷のスクランブル交差点
  とは言え、このままではその相手の時間を
  奪ってしまうことになりかねない。
  ゆうじは冷静にどうすべきかを考えた。
  「よし」
  目の前にのぞく「パーキング」の文字をみると、ゆうじは
  目をかがやかせた。

〇渋谷のスクランブル交差点
  東急田園都市線に乗車して三軒茶屋駅で降りれば十分に間に合うだろう。
  ゆうじは足取り早く歩を進めた。

〇ハチ公前
  目の前には渋谷駅の姿。
  「なんだ?」
  日常、車を使っているゆうじでも気づくのに時間はかからなかった。
  「この光景」

〇ハチ公前
  それは間違いなく渋谷駅。
  でも違っていた。
  かまぼこ屋根
  今はもうないはずのかまぼこがある。
  ゆうじは目をこすった。

〇外国の駅のホーム
  「構内はどうだ?」
  そこもゆうじの知る駅だった。
  2013年3月16日まえの。
  タイムスリップというやつなのか?

〇外国の駅のホーム
  「す、すみません。いつもの駅と違いますよね」
  ゆうじはすれ違った老紳士にたずねた。
  「私にはわかりかねます」

〇外国の駅のホーム
  さらにすれ違おうとしている女性に声をかけた。
  「この駅おかしくないですか?」
  彼女は足早にゆうじから去っていった。

〇外国の駅のホーム
  ふと取引相手のことが頭をよぎった。
  「僕も急がないと」
  ゆうじはホームへと歩を進めた。
  地下に降りることもなく。

〇駅のホーム
  間もなく向こうからきたのは8500系の電車だった。
  「おもしろい」
  ゆうじはむしろその幻想のような情景を楽しんでいた。

〇車内
  けたたましい音でゆうじは目が覚めた。
  進まぬ車のなかで、うとうとしてしまった。車のクラクションが目覚ましになってくれた。

〇車内
  ゆうじは時計に目をやった。
  経過時間は3分あまり
  そのわずかな微睡のなかで随分と
  不思議な夢をみたものだ。
  たのしい夢を

〇車内
  もしかしたら胸のなかにずっと残っている
  あの日の渋谷駅が夢のなかに現れたのかもしれない。きっとそうだ、とゆうじは頷いた。

〇車内
  「よし」
  目の前のパーキングの文字をとらえると
  ゆうじは笑みをうかべた。
  目指すは渋谷駅である。

〇渋谷駅前
  ゆうじは目の前の駅を確かめた。
  間違いなく渋谷駅である。
  今の。

〇路面電車の車内
  ホームにすべりこんできたのは2020系。
  ゆうじはゆっくりと車内へと歩をすすめた。

コメント

  • 自分もたまにあります。寝た時間、夢を見ていた時間はほんのわずかなのに、意識に残る夢…。
    夢の世界ほど不思議で、且つ現実に影響するものも中々ないですよね。

  • 夢の中の時間って、長いようで起きてみるとほんの少しの時間だったとかありますよね。
    そんな夢って妙に印象深くて、起きても頭から離れない感じがして、その感じが上手く表現されてて素敵だな、と思いました。

  • 短時間でみる夢って目が覚めた後にすごく余韻が残ってしまうほど鮮明なものですよね。いざ現実に戻った時に心地の良いものだと余計にいいですね。たった10年足らずで色々な変化がありますね。

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