俺がネ申作者

武智城太郎

読切(脚本)

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〇田んぼ

〇スーパーマーケット

〇コンビニの雑誌コーナー
佐久間直樹「えーと、出てるかな・・・」
佐久間直樹「あった!」
佐久間直樹「今週も金曜日に『週刊少年ステップ』をフライングゲットだ!」

〇一戸建て

〇男の子の一人部屋
佐久間直樹「さて、読むか」
佐久間直樹「今週の『無尽のアルカディア』を・・・!」
佐久間直樹(なにせ前回は、御堂アスナのヤバいピンチの場面で終わったからな)
佐久間直樹(ガルル蟲の触手が、彼女の身体を・・・)
  直樹は震える手で、ページをめくっていく。
佐久間直樹「フーーッ・・・!」
佐久間直樹(無事危機を脱した! そうか、ここでアスナの能力が発動するのか!)
佐久間直樹「それにしても、今週も面白かったな」
佐久間直樹「あすかわらず作画は緻密だし、バトルシーンの迫力は漫画界一だ」
佐久間直樹「やっぱり首藤秀典先生は、神としか呼びようがないな」

〇雲の上

〇学生の一人部屋
佐久間直樹「よし、俺も頑張らないと!」
  直樹は机にむかい、漫画の作画の練習を始める。
佐久間直樹「ダメだ!! こんなヘタれた線じゃ!!」
佐久間直樹「建物のパーツも微妙に狂ってる!!」
佐久間直樹(首藤先生のアシスタントになって、『無尽のアルカディア』を手伝えたら・・・)
佐久間直樹(夢みたいな人生だ!!)
佐久間直樹「そのためにも、高校卒業までに即戦力レベルになっておかないと!!」

〇田舎の学校

〇男の子の一人部屋
佐久間直樹「そうですか。今のところ、アシスタントは募集してませんか・・・」
佐久間直樹「いえ、首藤先生以外のところは希望しません」
佐久間直樹「わかりました。ありがとうございます」
佐久間直樹「ダメかぁ~」
佐久間直樹「だけど俺は、こんなことくらいであきらめない!」

〇東京全景

〇トラックの荷台
佐久間直樹「ゼイゼイ!」
引っ越し社員「おい、もっとちゃっちゃっと動け!」
佐久間直樹「はい、すいません」

〇古いアパート
佐久間直樹「ふぅ~今日もバイトきつかったなぁ・・・」

〇学生の一人部屋
佐久間直樹「あ~腹へった」
佐久間直樹「と、その前に少年ステップの公式サイトをチェックと」
佐久間直樹「アシスタント募集一覧・・・」
佐久間直樹「首藤先生のところは・・・ないか」
佐久間直樹「しょうがない。飯にするか」
佐久間直樹「といっても、コンビニ弁当しかないけど」
佐久間直樹「いやいや、栄養補給はこれで十分だ!」
佐久間直樹「俺には大きな夢があるんだからな!」
佐久間直樹「ガツガツガツ──」
佐久間直樹「よし!! 今日も特訓だ!!」
  直樹は机にむかい、作画の稽古に励む。
佐久間直樹(最近はデジタルで作画する漫画家も多いけど、首藤先生はGペンにこだわってらっしゃるからな)
佐久間直樹(『無尽のアルカディア』はあいかわらず大人気だ。連載はこれからも続く)
佐久間直樹(まだまだ、アシスタントになれるチャンスはある・・・!!)
佐久間直樹「でも最近、どうも変なんだよな・・・」
  直樹は、少年ステップ最新号のページを開いて首をかしげる。
佐久間直樹「いつまでこんな鬱展開が続くんだろう」
佐久間直樹「方向性が違うというか、全然アルカディアらしくない・・・」
佐久間直樹「いやいや、大天才の首藤先生なんだから、すごい展開の布石に違いない!!」

〇古いアパート

〇学生の一人部屋
佐久間直樹「な、なんで・・・」
佐久間直樹「なんでアスナが死・・・」
  最新話にて、ヒロインの御堂アスナが無残な死を遂げてしまったのだ。
佐久間直樹「しかもガルル蟲の群れに喰われて・・・」
佐久間直樹「そんなバカな・・・」

〇トラックのシート
佐久間直樹「おかしいな・・・」
佐久間直樹「アスナを死なせたことを批判する投稿が全然ない」
佐久間直樹「ん? なんだこれ?」
佐久間直樹「『作者自らが語る〈無尽のアルカディア〉首藤秀典ロングインタビュー』だって?」
佐久間直樹「首藤先生が、アスナを死なせた理由が書いてるはずだ」
佐久間直樹「どこのサイトだ? ええと・・・」
引っ越し社員「おい、もう休憩終わりだぞ!  なにやって──」
佐久間直樹「うるさい!! 黙ってろ!!」
引っ越し社員「ヒイッ!!」

〇学生の一人部屋
佐久間直樹「ええと、これか」
佐久間直樹「『作者自らが語る〈無尽のアルカディア〉首藤秀典ロングインタビュー』」
佐久間直樹「なになに・・・」
  〝アスナをあのタイミングで殺したのは、我ながら上手いと思いますね〟
  〝殺し方もふくめて(笑)〟
  〝言われてるように、あれはガルル蟲による強姦殺人ですよね(笑)〟
佐久間直樹「・・・・・・・・・」
佐久間直樹「・・・・・・・・・」
佐久間直樹「フ、フフフ・・・」
佐久間直樹「アッハッハッハ!!」

〇宿舎
  地方裁判所──

〇法廷
検事「被告の佐久間直樹は、昨年の九月から十月にかけての約一カ月の間に──」
検事「漫画『無尽のアルカディア』の原作者である首藤秀典氏に、役500件の脅迫メールを匿名で送りました」
検事「ストーリー展開に納得がいかず、脅迫行為を執拗に繰り返したのです」
検事「「舐めたことぬかしたのを後悔させてやる」などの過激な文言とともに──」
検事「首や手足が切断されているように加工した首藤氏の写真を添付するなどしていました」
検事「また脅迫メールの多くは、身元隠蔽のため、海外のサーバーを経由するなどして送信されていました」
検事「あまりに手が込んでいて悪質。出来心にしても、度が過ぎている」
検事「厳重な処罰を要求します!」
弁護士「〝首藤は『無尽のアルカディア』のことがまるでわかってない。作品の敵だ〟」
弁護士「〝首藤のことは一生許せない〟って、調書にもあるけど、どうなのコレ?」
佐久間直樹「この発言は、被害者のことをまるで考えていませんでした。本当に申し訳なく思います・・・」
弁護士「持ってる単行本31冊はどうするの?」
佐久間直樹「処分します」
佐久間直樹「作品からは縁を切ろうと思ってます」
裁判官「被告には、懲役一年の実刑をいいわたす」

〇黒背景
  一年後──

〇タワーマンション
  高級タワーマンション──

〇玄関の外
  首藤プロダクション──

〇漫画家の仕事部屋
首藤秀典「ネームはみんな目を通したか。資料もそろってるし・・・」
チーフアシスタント「先生、アシ志望の子が面接に来てます」
首藤秀典「ああ、そうだっけ。行くよ」

〇応接室
首藤秀典「あ、首藤です」
赤城潤「初めまして、赤城潤です。よろしくお願いします」
首藤秀典「おや、オシャレだねえ。漫画家志望はみんな野暮ったいもんだけど」
首藤秀典「カット見せてもらったよ。背景もモブも上手いねえ」
赤城潤「ありがとうございます」
赤城潤「新人賞でも絵だけは褒められるんですが、一度も賞に引っかかったことがなくて」
赤城潤「自分もSFを描きますから、編集の人に首藤先生のところを薦められたんです」
首藤秀典「もう採用でいいけど。いつから入れる?」
赤城潤「はい。今日からでもOKです」

〇古いアパート

〇学生の一人部屋
赤城潤「うまく入り込めた。チョロいもんだ」
赤城潤「わざわざ身分証を偽造したけど、こいつは必要なかったな」
赤城潤「おっと、そうだ」
赤城潤「〝佐久間直樹〟だった頃のデータはすべて消去しとかないとな」
赤城潤「計画は慎重に進めないと」

〇黒背景
  半年後──

〇広いベランダ
チーフアシスタント「『無尽のアルカディア』40巻発売を祝して、カンパーイ!」
「カンパーイ!」
「カンパーイ」
首藤秀典「ウィ~~ク・・・! カンパイ」
チーフアシスタント「こんな、ちゃんとしたパーティーは久しぶりだよ」
アシスタント「いつもはバタバタしてますからね」
チーフアシスタント「余裕ができたのは、赤城君のおかげだよ」
チーフアシスタント「上手いし早いから、大助かりさ」
赤城潤「僕のほうこそ、勉強させてもらってますから」
首藤秀典「夜風が気持ちいいな~」
  首藤は、バルコニーの柵にグタッともたれかかっている。
チーフアシスタント「先生、気をつけてくださいよ」
チーフアシスタント「この前なんか、柵にもたれたまま眠り込んでたんだから」
赤城潤「・・・それは危ないですよね」
赤城潤「・・・・・・」

〇玄関の外
チーフアシスタント「え!? 先生が高熱で寝込んだ!?」

〇漫画家の仕事部屋
担当「今自宅に行って来たけど、とても動ける状態じゃないんだよ」
チーフアシスタント「まだ下書きの途中なのに・・・ これじゃあ、締め切りに間に合わない」
担当「アシの人たちだけで、なんとかならないかな。今回だけでも」
チーフアシスタント「無理です。首藤先生は、キャラはすべて御自分でペン入れされてますから」
チーフアシスタント「ぼくでは絵のタッチがちがいますし・・・」
担当「やっぱり、作者急病につき休載にするしかないのか・・・」
担当「少年ステップはアルカディア頼りなのに・・・」
赤城潤「僕にやらせてください」
チーフアシスタント「赤城君・・・」
赤城潤「僕なら、先生とそっくりの絵柄で描けますから」
担当「ほんとかい!? ぜひ頼むよ!!」

〇高層ビル

〇雑誌編集部
編集長「すごいな、首藤先生のところの若いアシスタント」
編集長「まるで先生本人がペン入れしたみたいだ」
担当「ちがいに気づいた読者は、ほとんどいませんからね」
担当「首藤先生もベタ褒めしてましたよ」
編集長「チーフの子は、そろそろ月刊誌連載の準備に入らないといけないんだろ」
担当「はい。でも赤城君がいるから大丈夫でしょう」
担当「プロアシとして、首藤先生のところでやっていきたいと言ってくれてますし」
編集長「そうか、なら『無尽のアルカディア』はこれからも安泰だな」

〇漫画家の仕事部屋
赤城潤「先生、最後のページ上がりました」
赤城潤「あれ? いない。外か・・・」

〇広いベランダ
赤城潤「先生・・・」
  首藤は、バルコニーの柵にもたれかかったまま眠っている。
赤城潤「・・・・・・」
赤城潤「ヒャッハッハ!!」

〇テレビスタジオ
ニュースキャスター「こんばんわ、ナイトニュースの時間です」
ニュースキャスター「今日未明、漫画家の首藤秀典さんが、自宅マンション前の路上でグッタリしているところを発見されました」
ニュースキャスター「急いで病院に運ばれましたが、すでに心肺停止状態で、まもなく死亡が確認されました」
ニュースキャスター「仕事場であるマンションのバルコニーから転落したと思われ、警察は──」
ニュースキャスター「状況から見て、事件性はないと発表しました」

〇応接室
担当「あ~なんてことだ!」
担当「こんな形で『無尽のアルカディア』が未完で終わるなんて!!」
担当「まだまだ人気があったのに・・・」
赤城潤「・・・首藤先生、担当さんには話してなかったみたいですね」
担当「え?」
赤城潤「先生は、『無尽のアルカディア』の最終回までの詳細なプロットを残してるんです」
担当「ほんとに!?」
赤城潤「はい。ぼくにだけ話してくれました。 自分に何かあったときは続きをと」
担当「ほんとうだ!!」
赤城潤「作画は、僕が先生の絵柄そっくりに描きますから」
赤城潤「ファンも納得してくれるでしょう」
担当「よし、連載続行だ!」
赤城潤(ククッ・・・ このバカ担当、完全に信じてやがる)

〇広いベランダ
赤城潤「ヒャッハッハ!!」
赤城潤「アスナを復活させた!!」
赤城潤「ストーリーも、以前に近い快活な展開に戻した」
赤城潤「人気に変化なしってのが、少し気に入らないけど──」
赤城潤「今のファンが、まだ新しい展開に慣れてないだけだろう。これからだ」
赤城潤「なにもかも計画通り・・・」

〇広いベランダ
赤城潤「しかも、印税までガッポガッポのおまけ付きだ」

〇漫画家の仕事部屋
アシスタント「よいしょっと!」
アシスタント「先生、ファンレターです」
アシスタント「あと、また例のファンが・・・」
赤城潤「またか。どれどれ」
赤城潤「フンッ、内容はいつもといっしょだな。ワンパターンでつまらん」
アシスタント「また展開が気に入らないってわめいてるんでしょ? 異常にしつこいですね」
アシスタント「どうします? 編集の人は警察に相談しようかって言ってますが・・・」
赤城潤「いらん。脅し文句もハッタリ丸出しだ」
赤城潤「どうせこういう病気みたいな奴は、引きこもりのニートだろ」
赤城潤「鬱陶しい・・・作者は俺だ」
赤城潤「俺がこの作品の神だぞ!」

〇雲の上

〇応接室
赤城潤「ふぅ~ひと段落着いたな」
アシスタント「先生宛に荷物が届いてます」
赤城潤「プレゼント? なんだっけ?」
赤城潤「ん? メモ?」
赤城潤「あの病気野郎か・・・」
赤城潤「なんだこりゃ?」

〇黒
  THE END

コメント

  • 可愛さ余って憎さ百倍という言葉の通り、熱烈なファンも裏切られたと感じれば一瞬で狂気に満ちたアンチに変貌するという人間の恐ろしさが凝縮された物語でした。そして、汚れた手で頂点を掴んでも最後には全てが「灰燼と化す」というオチも皮肉がきいてて👍です。 

  • 確かに自分が好きな作品だからこそこうであってほしい!という願望が生まれてしまうかもしれませんね。
    歴史は繰り返す、じゃないですが…。

  • 人や物への情熱が執念深くなると少し厄介を生みますね。主人公の作品への多大なる想いはさておき、なにか大切な事を忘れ去られてしまったことを、最後のシーンが上手く描写していると思いました。

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