時空タクシー運転手の臼井四郎と申します。

6Bえんぴつ

読切(脚本)

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〇タクシーの後部座席
タクシー運転手(臼井四郎)「はじめまして 私は、タクシー運転手の臼井四郎と申します」
タクシー運転手(臼井四郎)「只今、深夜の渋谷の裏路地を走っております」
タクシー運転手(臼井四郎)「今夜は満月 そろそろ、あの時間帯です」
タクシー運転手(臼井四郎)「さて、 本日のお客様はどんな方なのでしょうか? 楽しみですね」

〇街中の道路
  女性が、ガードレールから身を乗り出し、
  タクシーに向かって手を上げていた。
  女性の横にタクシーが止まと、ドアが開いた。
  すると女性は、ガードレールをまたぎ、タクシーに乗り込んだ。

〇タクシーの後部座席
タクシー運転手(臼井四郎)「どこまでですか?」
女性(リナ)「池袋駅まで、お願いします」
  いくぶんお酒も入っているようで、行き先を告げた女性の声は明るかった。
タクシー運転手(臼井四郎)「お客様は実に運がいい 今日は特別な日でね どなたか会いたい人、行きたい所は、 ありませんか?」
女性(リナ)「えっ?何ですか、それ?」
  女性は、窓の外を見ながら、しばらく考え込んだ。
  そして、少し寂しそうに、つぶやいた。
女性(リナ)「そうね 会いたい人ならいるわ」
女性(リナ)「私の双子の弟」
女性(リナ)「でも、もう会えないの。 だって弟は、たった6歳で天国に行ってしまったから・・・」
女性(リナ)「・・・私は、弟が一番苦しんでいる時に会いに行かなかった・・・」
  そう言うと、
  女性は、目を閉じて黙ってしまった
タクシー運転手(臼井四郎)「お客様、着きましたよ」
  タクシーが止まり、ドアが開いた。

〇総合病院
  女性が降りると、
  そこは弟が入院していた病院の前だった
タクシー運転手(臼井四郎)「お客様、一つ言い忘れました 運命を変えるような行動はお控えください」
  そう言うと、タクシーは行ってしまった。
  女性は急いで病室へ向った。

〇病室
  ゆっくりと病室の扉を開けると、
  ベッドに青白い顔の弟が静かに眠っていた。
  女性はベッド横の椅子に座ると、
  弟をじっと見つめた。
  ふと、弟は目を覚まし、か細い声で言った。
弟(理央)「お姉ちゃん だれ?」
  女性は首をかしげながら、微笑んだ。
  そして、ベッドに両手を置くとやさしい声で尋ねた。
女性(リナ)「ねぇ、痛くない?」
弟(理央)「うん、今は大丈夫だよ さっき注射したから」
女性(リナ)「痛いの我慢して偉いね」
  女性はやさしく弟の頭を撫でた。
女性(リナ)「寂しくない?」
弟(理央)「さびしくないよ 毎日だれか来てくれるから」
弟(理央)「でも、 リナちゃんはさびしくしてるかも」
女性(リナ)「どうして?」
弟(理央)「ぼくが、お母さんとお父さんを取っちゃったから・・・」
  弟が私の心配をしていたなんて、そう考えると急に胸が苦しくなって、女性は必死に涙をこらえた。
弟(理央)「お姉ちゃん泣いてるの?」
  弟は心配そうに女性を見つめた。
  ゆっくり布団から小さな手を出すと、なぐさめるように女性の手の上にのせた。
  その小さな手はとても温かかった。
女性(リナ)「泣いてないよ 目にゴミが入っちゃったみたい」
  女性はごまかすように手で目をこすった。
  そして、その手を小さな弟の手を包みこくように重ねた。
女性(リナ)「リナちゃんは、素直じゃないからつい反対のことをしちゃうの もし、理央くんにひどいことを言ってもそれは本当じゃないからね」
女性(リナ)「リナちゃんは、理央くんのことが、大好きだから」
女性(リナ)「リナちゃんは、生きてる限り、 ずっと、ずっと、 理央くんのことが、大好きだからね」
  その言葉を聞いた弟は、安心したように微笑んだ。そしてゆっくりと目を閉じ、また眠ってしまった。

〇タクシーの後部座席
タクシー運転手(臼井四郎)「お客さん着きましたよ」
女性(リナ)「はい? 私、寝てしまったんですね とても懐かしい夢を見ました」
  支払いを済ますと彼女はタクシーを降りた。
タクシー運転手(臼井四郎)「弟さんに会えて良かったですね またのご利用をお待ちしております」
  助手席の窓から運転手が女性に話しかけた。

〇池袋駅前
女性(リナ)「えっ? 夢じゃなかった?」
  彼女は、走り去るタクシーを見送りながら、弟の小さな手のぬくもりが自分の手の中にあるのを感じていた。

〇渋谷駅前
タクシー運転手(臼井四郎)「渋谷は不思議な所でしてね」
タクシー運転手(臼井四郎)「今日のような満月の夜に私のタクシーをご利用いただけましたら、」
タクシー運転手(臼井四郎)「時空を超えてあなたの行きたい所へお連れいたします」
タクシー運転手(臼井四郎)「それでは、失礼します」

コメント

  • 人間の愛情に対する信頼感や暖かな眼差しが読みやすいストーリーに織り込まれていて、読んでいて気持ちが良かったです。夜というのが雰囲気があっていいですね。夜中のラジオドラマみたいで素敵でした。

  • 素敵な時間旅行ですが、「運命を変えないでください」とのことで、過去への干渉はしてはいけないんですね。
    でも約束を破って干渉してしまった人もいるのでは?と思いました。
    それくらい魅惑的な時間旅行ですね。

  • 満月の渋谷、路地裏。揃ったら、時空タクシーに乗って。会ってみたかった人に会えるなら探してみたい。
    変えてはいけなくても、会うだけでよいから

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