渋谷へ。

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〇黒
  次は、渋谷です──

〇電車の座席
由香(・・・・・・)
由香(今日は楽しい日曜日。 家でまったりくつろいで、日々の仕事の疲れを癒す、素敵な日)
由香(・・・・・・)
由香「なのになぜ、あたしは今電車に乗っているんだろう」
由香(仕事以外で電車を利用するなんて、いつ以来だか全然分からないや)
「・・・・・・ねえねえ、この前行ったお店、雰囲気最高だったよね~!」
「うんうん! オシャレだし、すごくかわいかった!」
「あ、今日はわたし、あそこ行ってみたいな~。 この前、リニューアルしたばっかりのところ!」
「賛成~!!」
由香(・・・・・・)
由香(渋谷・・・・・・渋谷か)
由香(まさかこのあたしが、自分の足で渋谷に降りようと思う日が来るなんて、思ってもいなかったな・・・・・・)

〇黒
  ・・・・・・えぇっ!?
  先輩、渋谷行った事ないんですか!?

〇警察署の食堂
由香「大げさな。 そんな大声出すほどの事でもないでしょ?」
佳奈「先輩。 渋谷について、ホントに、なんにも知らないんですか?」
由香「何その顔。 駅前に、ハチ公の像があるんでしょ!」
由香「あたしだって、それくらいは知ってるから!」
佳奈「そんな、誰でも知ってるような知識をドヤ顔で披露しないでください」
由香「スクランブル交差点! 渋谷ヒカリエ!! 渋谷109!!!」
佳奈「はいはい」
佳奈「・・・・・・でも先輩、毎日電車で通勤してて、毎日渋谷の前を通過しているハズですよね」
佳奈「それなのに1度も降りた事がないなんて、ちょっと意外です」
佳奈「仕事が早く終わった日とか、「買い物して帰ろうかな?」って思った事とかなかったんですか?」
由香「いや、あたしの家の近く、スーパーもコンビニもあるから」
佳奈「そういう話ではないです」
由香「薬局もラーメン屋もあるんだが!?」
佳奈「分かりましたから! 怒らないでください!」
佳奈「・・・・・・はあ。先輩って、ホントにアレですよね。 いかにも、「仕事以外では外出なんてしない人」って感じがします」
佳奈「学生の頃からそうだったんですか?」
由香「まあ、時々友達と出かけたりはしていたけど、元々部屋でごろごろしてる方が好きな人間だったね」
由香「特に、最近はスケジュールもほとんど合わなくなっちゃったし、休みの日は大抵家で映画見たりしてるよ」
佳奈「あー、やっぱり。 そんな感じですもんね」
由香「どんな感じだよ」
佳奈「あはは」
佳奈「でも、特別外出が嫌い、ってわけでもないんですよね?」
佳奈「それなら、今度の日曜日に一緒に行ってみましょうよ。渋谷。 案内しますから」
佳奈「ふふ、こう見えてわたし、渋谷はけっこう詳しいんですよ」
由香「えっ? いや、あたしはいいよ。 人混みとか苦手だし」
由香「それに、なんというか・・・・・・。 ああいう明るい場所は、あたしにはハードルが高い気がするしさ」
佳奈「そんな事ないですって。 行ったら、絶対楽しいですよ?」
佳奈「新しい洋服を買ったり、おいしいものを食べたり・・・・・・」
佳奈「ん~。 想像しただけで、わくわくしてきちゃいました」
由香「いやいやっ、とにかくあたしは大丈夫だから!」
由香「あっ、ほら! そろそろ昼休み終わっちゃうよ! 急がないとっ!」
佳奈「・・・・・・あ~、逃げた・・・・・・」

〇電車の座席
由香(――という会話を、数日前にして)
由香(それ以来、あたしの頭の中でずっと『渋谷』って存在がちらついていて。 それで結局今日、ひとりで渋谷に行く決意をしたんだよね)
由香(――でもなあ。 やっぱり少し不安)
由香(渋谷は確かに、楽しそうな場所)
由香(渋谷って若い子で溢れているイメージだけれど。 調べてみたら、大人も楽しめるような施設とか、たくさんあるみたいだし)
由香(・・・・・・それは分かるけど。 でもやっぱり、似合う似合わないはあるよね)
由香(あたしなんかでも、楽しめる場所なのかな・・・・・・)
  間もなく、渋谷です──
由香(ええい、悩んでいても仕方ない)
由香(ここまで来ちゃったんだ。 とにかく降りるだけ降りてみよう)

〇駅のホーム

〇地下街

〇広い改札

〇渋谷駅前
由香「・・・・・・わあ・・・・・・」
由香(人は、思っていたよりずっと多くて。 建物は、思っていたよりずっと大きい)
由香「ここが、渋谷かあ・・・・・・。 にぎやかで、素敵な場所だな・・・・・・」

〇ハチ公前
由香「・・・・・・あっ、ハチ! すごい。ホントに、こんな駅前にいるんだ」
由香「へへ、かわいい。 記念に写真撮っとこ」
由香「・・・・・・」
由香「・・・・・・で、どうしよう。これから」
由香「その辺ぶらぶらするのもいいけど、どこに何があるのか、全然分からないや・・・・・・」
佳奈「――はい、もしもし?」
由香「あ、佳奈? あたし」
佳奈「えっ、先輩ですか!? 珍しいですね、日曜日に連絡してくるなんて」
佳奈「どうかしたんですか?」
由香「・・・・・・」
由香「・・・・・・その。実は今、ひとりで渋谷に遊びに来たんだけどさ。 どこ行けばいいのか、さっぱり分からなくて」
由香「どこか、ひとりでも楽しめる場所とかあれば教えて欲しいなー、と思ってさ」
佳奈「・・・・・・。ふふ」
佳奈「ひとりも、もちろんいいですけれど。 ふたりの方が、もっと楽しいですよ?」
由香「え?」
佳奈「へへへ。今日はスケジュール空いてるんで、今からそっち行きますよ。 ちょっとだけ待っててくださいね。すぐ着きますから~」
由香「えっ、あっ・・・・・・。 ちょっと・・・・・・」
由香「・・・・・・」
由香「・・・・・・」
由香「初めての、渋谷」
由香「・・・・・・へへ。楽しみ」

コメント

  • 読んでいて、由香の内なる高揚感が伝わってきました。何となく理由をつけて避けていたスポットって結構ありますよね。ちょっぴりの勇気で、大人のチャレンジを楽しむことができますよね。

  • 私もとある大きな街まで40分の場所に住んでいますが、彼女と似たような感じで、食料や日常に必要なものは近所で買えるので、ほとんど街には行ったことがないのです。新しい世界に興味をもち飛び出すことにした彼女を見て、私もよく知らない街散策にいってみようかなと思いました。

  • 通っていますがおりたことのない駅ってたしかにあるような気がします!
    最初は抵抗があったみたいですが、だんだん楽しくなってきてるみたいですね。
    二人でぶらつくのも楽しいと思います!
    読んでると楽しい気分になりました!

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