ハイドランジア

RH

ハイドランジア(脚本)

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〇テーブル席
一郎「はぁ~・・・」
  喫茶店のテーブルに突っ伏し、
  俺は大きな溜息を吐いた。
理香「どうしたのよ。体調でも悪いの?」
  読んでいる小説から目を離さず
  アイスコーヒーを飲む女、理香。
  こいつは俺の同い年の友人。
  いや、幼馴染と言っても差し支えないか。
  子供の頃からずっと同じ学校で、
  なんと大学まで。
一郎「全然。今週は退屈すぎてな」
  せっかくの夏休みだというのに、
  今週は全く予定が無い。
明美「大学の友達は?」
  コーヒーに砂糖を流し込みつつ
  問いかけてきたギャルJKは明美。
  こいつも俺の幼馴染。
  二人は姉妹で、性格は正反対。
一郎「今週はみんな予定いっぱいだってさ。 遊びなら俺も誘ってほしいぜ」
明美「それじゃ、アタシとデートしない?」
  楽しそうに腕を絡めてくる明美。
理香「あなたは勉強しなさい、受験生」
  鋭く睨みつけられ、
  明美は不満げに頬を膨らませた。
明美「別に良い大学行くわけじゃないもん」
明美「それにお姉ちゃんだって、 ホントはもっと上行けたのに、」
明美「一郎と同じところを 選んだのはどうしてかな~?」
  確かに理香は頭が良い。
  中途半端な大学に入る必要はないだろう。
理香「やりたいことがあるから選んだだけ。 偏差値や成績で決めるのは安直」
理香「頭の良さが全てじゃない。 そういう考え方こそ頭が悪いわ、明美」
  煽り返すように理香も鼻で笑う。
明美「カッチーン! ほんっと性格悪いよね~!」
  砂糖でカフェオレ並みに甘くなっただろう
  コーヒーを一気に飲む明美。
理香「先に仕掛けてきたのはそっちでしょう」
  二人の視線がぶつかり、
  バチバチと火花が上がる。
一郎「どうせ言い合いするなら 俺の暇潰しの案でも考えてくれ」
理香「ああ、そうだったわね。 なら・・・ここはどう?」
  理香が俺に見せてきたスマホの画面には
  森とコテージの写真。
明美「夏休み学割キャンペーン?」
  明美も横から覗き込んでくる。
  言葉通り、画面の下にはかなり小さく
  『夏休み学割キャンペーン!』の文字。
理香「たまには山奥で静かに自然の空気を 吸うというのも悪くないでしょ」
明美「ま、それは同意」
  理香の提案ではあるが、
  珍しく明美も乗り気だ。
一郎「どうせ暇だし、行ってみるか」
理香「私も気になっていたところよ。 一緒に行くわ」
明美「アタシも!」
  一瞬だけ理香がムッとする。
  しかし、断ろうとしても
  ごねられるのが見えているので諦め。
一郎「じゃ、三人ってことで」
理香「予約は私が入れておく。 いつでも空いてるんじゃないかしら」
一郎「空いてなかったら、また考え直しだな」
理香「どうせ人が来ないから割引なのよ」
  それは言ってやるなよ・・・。
明美「アタシはもう帰ろうっかな~。 友達と遊ぶ約束あるし」
  明美は席を立って会計に向かう。
理香「あの子、受験生なのに・・・」
  溜息を吐きながら、理香も続けて立つ。
  そのとき、何かが落ちるのが見えた。
一郎「ん? 何か落ちたぞ」
  立ち上がりかけていた俺は屈んで
  その『何か』に手を伸ばす。
  顔を近づけたことで、
  それは紫陽花が描かれた栞だとわかった。
理香「あっ・・・」
  ちょうど理香も自分で手を伸ばしており、
  互いの手が触れる。
一郎「あ、悪い」
  謝りながらも、
  理香より先に栞を拾いあげる。
理香「ありがとう、一郎」
  なんてことないやりとり。
  そのはずなのに、理香の表情は
  普段見ないほど柔らかいものだった。
一郎「お、おう・・・」
  少し動揺する俺をよそに、
  理香も会計に向かってしまう。
  何だ、今の・・・。

〇森の中
  数日後、俺達は例のコテージに来た。
  理香の言う通り、人が全くいない。
  俺達以外に客はいないんじゃないか?
一郎「真夏だってのに、思ったより涼しいな」
  コテージに荷物を置いて、
  今はそれぞれ休憩中。
  道中のバスが長かったせいで
  空気がより美味しく感じる。
  風はあるし、木陰も多い。
  コテージ自体は汚くなかったから、
  もうちょっと人が来てもよさそうだが。
「いやああああぁぁぁぁっ!!」
  突然、森の静寂を切り裂く悲鳴。
  今の声は明美だ。
一郎「何だ!?」
  コテージのほうから聞こえたか?
  急いで向かうと、
  入口のドアが開いていた。
  生唾を飲み、中へと足を踏み入れる。

〇ボロい山小屋
一郎「おい、どうした!」
  中には怯えた様子の明美と、
  気分が悪そうに目を背ける理香。
明美「誰が、こんなこと・・・」
  そう呟く明美の後ろには
  奥の小部屋に続くドアがある。
  それはわずかに開いており、
  隙間から人の体と血らしきものが見えた。
一郎「まさか、死体・・・!」
  喉の奥から何かがせり上がってくる。
  それが吐き気だと理解し、無理やり我慢。
理香「・・・・・・」
  普段は冷静な理香も、
  さすがに動揺を隠しきれていない。
  ドアからは目をそらして、
  口元を抑え続けている。
  しばらく沈黙が続いた後のこと。
理香「・・・状況を、整理しましょう」
明美「状況って、そんなの見たまんまでしょ!」
理香「言い方が悪かったわね」
  ふぅ、と理香は一息ついて。
理香「警察を呼ばなきゃいけないから、 そこで伝える内容をまとめておくのよ」
一郎「それは・・・確かに必要だな」
  こういうとき、理香の冷静さは助かる。
理香「まず、当然だけど事件が起きたのは 私たちがコテージに来てから」
明美「そりゃそうに決まってるじゃん・・・」
  まだ表情から恐怖はうかがえるものの、
  やや落ち着いて話せている明美。
理香「最初に奥の部屋を見たときは 何もなかったわ」
明美「・・・アタシは着いてすぐに 向こうの川に行ったから何も知らない」
一郎「奥の部屋に何もなかったのは俺も見たな」
  川・・・確かに遠くない場所にある。
  涼むなら最適かもしれない。
理香「でも、今日このあたりに 他の人は見当たらない」
一郎「言われてみれば、確かに 他のコテージに人は入ってなさそうだ」
  不気味すぎるほど静かなのも頷ける。
明美「何それ。まさか、犯人は――」
一郎「俺達の中の誰かって言いたいのか?」
理香「・・・そういうことになるわね」
明美「ふざけないで! アタシがこんなことするわけないでしょ!」
  落ち着き始めていた明美が
  再び取り乱してしまった。
一郎「落ち着け、明美」
明美「こんな酷いこと、アタシが・・・」
  言いながら、明美の表情は
  怒りと恐怖を往復する。
明美「そもそも、お姉ちゃんのほうが 怪しいんじゃないの?」
理香「私が?」
明美「アタシは最初にコテージを出た。 お姉ちゃんは後から出たじゃん」
一郎「それを言うなら、俺も怪しくなる」

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