狂騒曲(脚本)
〇綺麗なリビング
あなた「・・・・・・」
“眠気”「あら、こんばんは」
“眠気”「もう起きたの? まだ夜じゃない。 もう少し寝てなさいよ」
あなた「君は・・・・・・? ここはどこ・・・・・・?」
“眠気”「私は眠気の悪魔。あなたを堕落させ、 眠りの世界に誘う存在」
“眠気”「さあ、まだ仕事に行く時間じゃないわ。 眠りなさいな」
あなた「そっか・・・・・・ じゃあ、もうちょっと眠ろうかな」
あなた「二度寝ってとても 気持ち良いよね・・・・・・」
“眠気”「フッ・・・・・・」
“眠気”「フフ、フフフ・・・・・・」
“眠気”「アハ! そうよ! 眠ってしまいなさい。 あなたはただ惰眠を貪ればいいのよ!」
“眠気”「眠気は三大欲求のひとつ! 安らかな世界へGO TO SLEEP!(?)」
“眠気”「ハリー! ハリー! ハリー!」
あなた「・・・・・・・・・・・・」
あなた「声がデカくて寝られねえよ!」
あなた「もっと“ほどほど”の声で喋りやがれ このスカタンッ!」
“眠気”「えっ・・・・・・ えっ・・・・・・?」
あなた「しかもよお・・・・・・ こんな明るいのにまだ夜? フカしてんじゃねえぞコラッ!」
“眠気”「ぇ・・・・・・ なんでそんな怒って・・・・・・」
あなた「私は社会人だぞ! 出勤時間を厳守するのは 基本中の基本だろうが!」
あなた「それを邪魔するってんなら容赦しねえぞ!」
あなた「オラ、食らえ! 睡眠三時間、殺眠(さつみん)チョップ!」
“眠気”「ニョワ~ッッッッッッ!!!!!!!!!!」
“眠気”「ぐっ・・・・・・覚えておきなさい」
“眠気”「ここから先に待っている悪魔は、 私よりはるかに強敵なんだから~ッ!」
殴る素振りを見せたら、
眠気の悪魔はそそくさと部屋を退室した。
〇教室
あなた「・・・・・・・・・・・・」
“毒気”「うっす。先輩」
“毒気”「私は毒気の悪魔。先輩を堕落させ、 留まらせるためここにいるっス」
あなた「おう。今度の奴は正直じゃん。 だが私を止められるかな?」
あなた「さっきの奴は骨がなかったからなァ~!」
“毒気”「もー、いじわる言わないでくださいよ 先ぱーい」
“毒気”「もしかして、先輩の先輩から 同じように言われたんスか?」
あなた「なに・・・・・・?」
“毒気”「ほんとひどい先輩っスよね~」
“毒気”「忙しくなると機嫌悪いし、要領悪いし、 マジでやってらんないっスよ」
“毒気”「ムカつかないっすか」
“毒気”「先輩も、あいつと仕事させる マザァファッカな上司も、無茶な 案件ばっか扱う会社も」
“毒気”「全部全部全部ぜーんぶ、ムカつく」
“毒気”「でもやっぱり、 ベストオブムカつくで賞は~・・・・・・」
“毒気”「役立たずの、せ・ん・ぱ・い」
“毒気”「仕事の邪魔ばっかりするし、 おしゃべり多いし、マジで サイアクじゃない?」
“毒気”「そりゃ新人の頃に世話になったし、 飲み会でセクハラクソオヤジから 守ってくれるし」
“毒気”「悪い人じゃないとは思うっスよ?」
“毒気”「でもやっぱしあれはナシっスよね~」
“毒気”「なんてったって“デブ”だし!」
あなた「・・・・・・」
“毒気”「おっ、だんだん分かってきたみたいっスね」
“毒気”「自分がどれだけ理不尽な環境にいるのか、 どれだけその環境に腹を立てているのか」
“毒気”「もういいっしょ。ここはひとつ、仕事を Sabotage(流暢な英語)して~」
あなた「ふざけんな!」
あなた「先輩がムカつくのは事実だけど、それは 仕事をサボる理由にはならねえだろうが!」
“毒気”「あっ、えっ・・・・・・? だ、だって、 そんな職場で頑張る必要は・・・・・・」
あなた「甘ったれんなよミソカス、こっちは 行きたくて仕事行ってんだ!」
あなた「あと、先輩は“デブ”じゃなくて “ふくよか”だ、覚えとけスカタン!」
あなた「アリかナシかはこっちで決める。 クルミの脳みそしか持たない奴は すっこんでろ!」
あなた「オラ、アンガーマネジメント講習の成果、 MK5(マジで5秒後にキックする)!」
“毒気”「にょわ~っ!!!!!!!!」
“毒気”「ぐっ・・・・・・覚悟するといいっスよ」
“毒気”「最後の悪魔は、 私よりも強力なんスからね~ッッ!」
足を振り上げると、毒気の悪魔は
そそくさと教室を出て行った。
〇アパートのダイニング
あなた「・・・・・・・・・・・・」
“嫌気”「・・・・・・」
あなた「おう、最後はロリ?」
あなた「悪いけどガキだろうが容赦しねーからな、 私は労働しに行かなきゃいけねえんだ!」
“嫌気”「・・・・・・」
“嫌気”「やれば?」
“嫌気”「チョップなり、キックなり、 四の字固めなり、やればいいでしょ」
あなた「なんだと・・・・・・?」
“嫌気”「そうやって無理やり突き進んで、 それでどうなるの?」
あなた「どうって・・・・・・」
あなた「仕事に行く、仕事をやる、仕事を終える。 それだけ。意味なんてない」
“嫌気”「・・・・・・・・・・・・」
“嫌気”「意味なんてない。ただ仕事をするだけ。 そんな人生空しいと思わない?」
あなた「んだとぉ!」
“嫌気”「そうやって・・・・・・」
“嫌気”「いつも自分を黙らせてきたの?」
あなた「・・・・・・」
“嫌気”「毎朝、毎朝、 怠惰な自分を黙らせて仕事に行く」
“嫌気”「なぜならば、あんたは自分に 嫌気がさしているから」
“嫌気”「起きるたびに、眠気で仕事を サボりたくなる自分に嫌気がさす」
“嫌気”「家を出るたび、会社への不満を 内心毒づく自分に嫌気がさす」
“嫌気”「みんな社会で頑張っているのに、 自分はどうして挫けそうに なるんだろうって」
“嫌気”「「頑張る社会人」と定義しなければ、 あなたは自分を肯定できない」
“嫌気”「そんな生活・・・・・・」
“嫌気”「嫌気がささない?」
あなた「お前が最後の悪魔・・・・・・ 嫌気の悪魔か!」
“嫌気”「ご明察」
“嫌気”「よく当てられました」
“嫌気”「褒めてほしい? あんたは正しいって 頭を撫でて、歌を歌って祝ってあげる?」
“嫌気”「嫌だよ。絶対に嫌。そんな気付き、 凄くも何ともない」
“嫌気”「あんたは結局ただの人。功績も名声も 得られず、みんなから忘れられて 消えていく」
あなた「そんな・・・・・・ッ!」
あなた「そんなこと・・・・・・」
“嫌気”「平凡な自分に嫌気がさしたでしょ」
“嫌気”「平凡な自分なんて直視したくないでしょ」
“嫌気”「諦めちゃいなよ」
“嫌気”「誰もあんたのことなんて見てない」
“嫌気”「誰もあんたのことなんて求めてない」
“嫌気”「いてもいなくても変わらない それがあんた」
あなた「・・・・・・・・・・・・」
“嫌気”「あれ、どうしたの さっきみたいに「うるせぇ!」って 怒鳴ったら?」
“嫌気”「私をねじ伏せて、その乾ききった舌で ありもしない心を嘯けばいいでしょ」
“嫌気”「結局あんたは・・・・・・」
“嫌気”「・・・・・・」
“嫌気”「・・・・・・・・・・・・」
“嫌気”「・・・・・・これ以上はやめておく」
“嫌気”「・・・・・・」
“嫌気”「どうしてこうなったんだろうね」
“嫌気”「あんた、頑張ってただけじゃん」
“嫌気”「誰かに認められたいって、 自分を肯定したいって・・・・・・」
“嫌気”「それだけだったじゃん」
“嫌気”「だっていうのに・・・・・・」
“嫌気”「毎日神経をすり減らして 愛想笑いして、誰かの尻ぬぐいして」
“嫌気”「なのに誰からも感謝されなくって!」
“嫌気”「それどころか文句ばっかり!」
“嫌気”「・・・・・・」
“嫌気”「だからそんなふうにカリカリして、 “お前”なんて使うようになって」
“嫌気”「あんたは・・・・・・」
“嫌気”「・・・・・・・・・・・・」
“嫌気”「・・・・・・・・・・・・」
“嫌気”「・・・・・・」
“嫌気”「・・・・・・」
“嫌気”「もう、いいじゃん」
“嫌気”「無理しなくていい 頑張らなくていいよ」
“嫌気”「お昼ごろに起きて、 寝坊したなって笑いながら、 だらだらだと一日を過ごす」
“嫌気”「そんな日があったっていいじゃん」
“嫌気”「じゃないとあんた、壊れちゃうよ」
“嫌気”「・・・・・・」
あなた「・・・・・・」
あなた「なんでそっちが泣くんだよ・・・・・・」
“嫌気”「だって、嫌じゃん・・・・・・」
“眠気”「姉さん・・・・・・」
“毒気”「姉貴、泣くのは“ほどほど”にして この人を止めないと・・・・・・」
“毒気”「私たちも・・・・・・」
“嫌気”「いいの」
“嫌気”「見れば分かるでしょ この人はもう行かない」
“嫌気”「私も、もううんざり」
“嫌気”「誰かを嫌な気分にさせて、 楽しいことなんて一つもないよ」
“嫌気”「“眠気”、あんただって ただ眠っていたいだけでしょ」
“嫌気”「本当なら、話しかけるのだって めんどくさかったんじゃない?」
“眠気”「・・・・・・」
“嫌気”「“毒気”、あんたの悪口は 気持ちよさが持続するものじゃない」
“嫌気”「人を痛めつけるのが目的に なっちゃったら、終わりだからね」
“毒気”「・・・・・・」
“嫌気”「こういうのはほどほどにして・・・・・・」
あなた「待って」
“嫌気”「・・・・・・あのさ、まとまる感じの 空気だったじゃん」
“眠気”「そ、そうよ 今さら何を言っても・・・・・・」
あなた「あんたたちの言う通りだよ」
あなた「仕事はつらいし、行きたくない」
あなた「大人は頑張るのが当たり前 誰も褒めてくれない そういうもんだよ」
“嫌気”「なら・・・・・・」
あなた「それでも、私は仕事に行く」
“毒気”「お・ま・え・なあ! 姉貴がどんな気持ちで・・・・・・!」
“嫌気”「待って、“毒気”」
“毒気”「姉貴ぃ~・・・・・・」
“嫌気”「・・・・・・」
“嫌気”「あんた、そこまでして 仕事に行くわけ?」
あなた「行くよ」
“嫌気”「どうして」
あなた「私が仕事すりゃあ、誰かの仕事が 軽くなるからだよ」
あなた「それでその人の一日が一秒でも 伸びるんなら、いいじゃん」
あなた「働いて、金貰って、それで誰かの 一秒を救うんだよ」
“嫌気”「意味ないよ どうせあんたは失敗する」
“嫌気”「それで嫌気がさして 今日みたいなことを 絶対に繰り返す!」
あなた「絶対に繰り返さない」
“嫌気”「意味もなく断言しないでよ!」
あなた「根拠はある」
あなた「だって、もう無理しないから」
“嫌気”「・・・・・・・・・・・・」
“嫌気”「今、なんて?」
あなた「私、もっと自分を大切にするよ」
あなた「そんなふうに泣かれたら 気持ちもよくないし」
あなた「何事も“ほどほど”にする」
“嫌気”「・・・・・・」
“嫌気”「ふぐっ・・・・・・ぅ・・・・・・」
あなた「“眠気”、あんたを受け入れるよ 人間には睡眠が必要だ」
“眠気”「・・・・・・そう」
あなた「“毒気”、あんたを受け入れるよ 心に毒でも、発散は必要だ」
“毒気”「ふんっ、今さらなんスか」
あなた「“嫌気”、あんたを受け入れるよ あんたのおかげで踏みとどまれた」
“嫌気”「ほどほどなんて、 あんたにやれるの?」
あなた「やれるよ 私を信じなって」
“嫌気”「・・・・・・」
“嫌気”「わかった」
“毒気”「姉貴ぃ!?」
“嫌気”「いいの 私はこの人を信じる」
“眠気”「・・・・・・姉さんの判断を尊重するわ」
“毒気”「“眠気”まで・・・・・・」
“毒気”「絶対、また私たちはこの人の 前に現れるっスよ」
あなた「その時は、また止めてよ」
“毒気”「・・・・・・うっざ」
その時、どこからか
目覚ましの音が聞こえた
あなたは、悪魔たちと別れの時が
来ていると察する
あなた「そろそろお別れだ」
“嫌気”「・・・・・・ねえ、私には何もないの?」
あなた「・・・・・・しゃーないなあ」
あなた「オラ、食らえ! やる気スイッチパンチ!」
“嫌気”「・・・・・・にょわぁ~」
〇アパートのダイニング
あなた「・・・・・・」
あなた「フーッ・・・・・・」
あなた「よし」
あなたは私服からスーツへ着替える
毎週そうしているように
毎日そうしているように
けれど・・・・・・
あなた「準備かんりょーっと・・・・・・」
時間を見る
起床がいつもより遅く、会社への
到着はギリギリになりそうだ
私用のPCを見る
見るたび会社を思い出していたが
今日は何も感じなかった
あなた「じゃあ・・・・・・」
あなた「行ってきます」
上司からの連絡があった
いつもは5分以内に折り返したが
今日は後でにしよう
あなたが出勤するのは
人生をほどほどに頑張るため
なのだから
玄関を開けて、あなたは
自宅を出て行った


