おいかける(脚本)
〇黒背景
「はやく、はやくおいかけて、つかまえて!」
だれ? だれがしゃべってるの?
???「はやく! はやく! あの ”黒うさぎ” をつかまえて!」
ぼく「きみはだれ? 黒うさぎって?」
???「わたしはアリス。 ホントはわたしがうさぎをつかまえたいんだけど、そこへは行けないの。 だから、かわりに・・・」
〇渋谷駅前
ぼく「代わりにぼくがつかまえるの? ・・・ってここは、渋谷!?」
アリス「そう、渋谷よ。あなたがよく知っている渋谷。黒うさぎをつかまえないと、わたしは元の世界に戻れないわ」
たしかに、ぼくは渋谷をよく知っている。
なんでかって・・・なんでだっけ。
思い出せないけど。
・・・あっ!!
アリス「いま、見えたわね? あれが黒うさぎよ。さあ、追いかけて!」
〇モヤイ像
確かに全身が黒で、四本の足の先だけが白いうさぎが、目の前を跳ねていった。
とりあえず、ぼくはそれを追いかけて、モヤイ像の前へ出る。
ぼく「(え、これはどうやってつかまえるの?)」
アリス「そんなに声をひそめなくても大丈夫よ。 あなたが心の中で思ってくれれば聞こえるわ」
アリス「わたしもうさぎをつかまえたことはないけど、両手で包み込むようにすればいいんじゃないかしら」
ぼく「つつみこむ・・・」
ぼくは、花壇の葉っぱを食べるのに夢中になっているうさぎに近づくと、そうっと手を伸ばした。
ぼく「あ、まって!!」
案の定、うさぎは手が届く寸前にするりと逃げると、またハチ公のほうへ跳ねていってしまった。
アリス「お願い! 追いかけて!」
〇ハチ公前
ハチ公のほうへ行くと、うさぎはまた花壇の草をむしって食べていた。
ぼく「おなかが減ってるのかなぁ。 なにか、エサでおびき寄せられないのかな」
アリス「いいアイデア! うさぎが好きなものって、なに?」
ぼく「・・・ふつう、うさぎのエサだと、にんじんとかキャベツだよね・・・」
ぼくは学校で飼っていたうさぎのことを思い出す。
あのうさぎはその後どうなったんだっけ?
脱走していなくなった?
アリス「たしかに! うさぎといえばにんじんね。 いま、用意する!」
ぼく「え? うっわ!? にんじんが降ってきた!?」
アリス「ごめんなさい、調節がうまくいかなくて。ぶつからなかった? ──あ、逃げちゃう!!」
〇SHIBUYA109
ぼく「うさぎさん、にんじんだよ。 おなか減ってるんでしょ??」
そのまま、道玄坂のほうへ逃げるうさぎを追いかけて、ぼくも坂を駆け上がる。
ぼく「うさぎさぁん! ちょっと待ってよー」
うさぎは109の前でキョロキョロしていた。
ぼく「・・・なんてきれいなうさぎだろう」
アリス「でも、すばしこくてつかまらないのよ。 ねえ、あなたにはこのうさぎ、どんなふうに見えるの?」
ぼく「アリスには見えないの?」
ぼく「真っ黒な毛並みが、カラスの濡羽みたいに虹色に光ってて──」
ぼく「足先の真っ白な毛がその虹を反射してキラキラ光ってる」
ぼく「あ、こっちを見た。 ──真っ黒な瞳は何でも見透かすような、黒い水晶玉みたいな眼だ」
〇電脳空間
「おい、どういうことだ? バグじゃないのか?」
「ただのバグのはずなんだけどな。 でも、俺らで消せなかったってことは、「ただの」ってことじゃないってことか」
「なんにせよ、ずいぶん好意的にとらえてるぞ」
「好意的を通り越して、魅力的に映るみたいだな」
「もうちょっと、様子を見るか・・・」
〇スペイン坂
ぼく「ねえ、にんじん、見向きもしてくれないよ。 ほかになにか方法はないの?」
アリス「んー ほかに・・・? 罠とか?」
ぼく「どんな? 傷つけるのはダメだよ!」
アリス「・・・あなたはうさぎを傷つけたくないのね? でも、どうにかして捕まえないと、わたしは元の世界に戻れない──」
ぼく「ねえ、それってどういうこと? アリスは一体どこにいるの?」
アリス「わたしにもわからないわ。 どうしてあなたに話しかけられるのかも。わかっているのは──」
ぼく「黒うさぎをつかまえれば元に戻れるってことだけなんだね」
〇東急ハンズ渋谷店
それから、中二階で迷子になった記憶のあるハンズや、
〇東急百貨店
三時間くらい時間を潰してしまったビルの中の本屋さん、
〇Bunkamura
現代芸術とわ? と、真剣に首を捻った展示会場から、
〇渋谷ヒカリエ
おいしい食事をした記憶のある、ヒカリエまで戻った。
〇SHIBUYA SKY
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最初はアリスの物語を読んでいるようでしたが、段々とSF要素がでてきて、楽しく読めました。黒うさぎは一体何を企んでいるのでしょう。AIが発達してくると、世界が一変しそうですね。
黒ウサギをステキな表現で表す素晴らしい感性の持ち主である少年の心優しい性格が気持ち良い。追いかけっこのスリル的ストーリーに感銘を受けました。
アリス的なストーリーの導入と展開から、渋谷を舞台にしたファンタジーと思いきや、、ですね。物語の奥行きと壮大な背景に感服です!