屋上の風と君の横顔

マツミネ

屋上の風と君の横顔(脚本)

屋上の風と君の横顔

マツミネ

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〇学校の屋上
  再会
赤坂ミサキ「や~......やっぱ屋上は落ち着くな。風が気持ちいい」
有馬晴紀「ミサキ、また女子に告られたんだって?」
赤坂ミサキ「ん、お、情報早えな、誰か聞いた?」
有馬晴紀「誰かって、お前さ......」
赤坂ミサキ「それはどうでもいい」
赤坂ミサキ「晴紀が知ってんだろう、俺好きな人がいってさ」
有馬晴紀「はいはい、またこれ。今まで誰かって言ってないのに」
赤坂ミサキ「機嫌直せよ。今日の弁当は?」
有馬晴紀「またこれです誤魔化すって」
  パッカ。弁当開く
赤坂ミサキ「お〜来た来た来た、晴紀特製唐揚げ。一口貰う」
有馬晴紀「おい!また勝手に僕の箸を使って!」
赤坂ミサキ「えっ、そっち?別にいいじゃん」
  晴紀がミサキから箸を取り戻して、弁当を食べる始まった
有馬晴紀「これでどう使えばいいの」
赤坂ミサキ「ん、どうした、食べさせたい?」
有馬晴紀「はっ!違う」
赤坂ミサキ「ははは!大袈裟だな、晴紀は」
赤坂ミサキ「ていうかさ、転校生が来るらしい、明日」
有馬晴紀「こんな時期?もう10月だよ」
赤坂ミサキ「そうそう、しかも女子から聞いたんだけど。俺程のイケメンらしい」
有馬晴紀「は......ミサキ程ね」
  晴紀頭から足まで見た。
赤坂ミサキ「何々、見ほれた?」
有馬晴紀「違えよ!誰がお前に.....」
赤坂ミサキ「照れてる照れてる。お前はもっと表情に出していいんだよ」
有馬晴紀「もういい!帰る!」
赤坂ミサキ「待って待って。冗談でば」
  ・・・
  ・・・・・・

〇教室の教壇
  翌日
  予備例♪♪♪
先生「はい。席について」
先生「まぁ、皆知っているとおり、今日は転校生が来ます」
「転校生?」
「今?」
先生「はいはい、静かに。入ってくれ」
  教室のドアを開けると、クラスの人達がしーんとした。
山崎雅人「山崎雅人です。家庭事情で、またこの町に戻りました。よろしくお願いします」
「きゃ~!顔めっちゃいい!」
「このクラスで良かった!」
赤坂ミサキ「すげー盛り上がったな。な、晴紀」
有馬晴紀「マーくん......」
赤坂ミサキ「お~い、晴紀、どうした」
有馬晴紀「いや......何でも」
先生「はいはい、静かに。じゃ、山崎はミサキの後ろの席で」
山崎雅人「はい」
山崎雅人「久しぶり、ハル」
有馬晴紀「あっ、久しぶり、マッ、雅人くん」
赤坂ミサキ「なんだ、知り合いか。水臭いな」
赤坂ミサキ「俺、赤坂ミサキ。よろしく」
山崎雅人「よろしく、赤坂くん」
先生「はい。授業始まる、早く教科書出して。有馬、山崎と一緒に教科書見せて」
有馬晴紀「はい!」
山崎雅人「嬉しいな、ハル」
有馬晴紀「...あはは...」
  ・・・
  ・・・・・・

〇学校の屋上
  放課後
  晴紀が一人で風に当たっていると、ゆっくり扉が開く。
山崎雅人「・・・・・・ここ、まだ好きなんだね」
有馬晴紀「・・・・・・雅人くん」
  雅人は近づき、晴紀の肩に触れそうな距離まで寄る。
山崎雅人「変わってないよ、ハル。声も・・・・・・笑い方も」
有馬晴紀「・・・・・・もう、やめてくれ」
山崎雅人「いや、俺は忘れてない。ハルの全部」
有馬晴紀「・・・・・・やめてよ」
山崎雅人「また・・・・・・戻れるよ、昔みたいに」
有馬晴紀「雅人くん・・・・・・っ!離せ......」
赤坂ミサキ「——晴紀!」
  風が止まったかのように緊張が走る。
  ミサキは二人を見て、一歩も動かずに言った。
赤坂ミサキ「何してんだ、お前!手を離せ!」
山崎雅人「赤坂くんには、関係ない話だよ」
赤坂ミサキ「あるだろ。——晴紀は、俺の“好きな人”なんだから」
有馬晴紀「っ・・・・・・ミ、ミサキ!?」
  雅人の微笑が、ゆっくり冷たく変わった。
山崎雅人「・・・・・・へぇ」
  三人の視線が、屋上の風の中でぶつかった。
  「過去」と「現在」——
  揺れていた晴紀の心に、痛いほどの風が吹き抜けた。
  続く・・・

〇学校の屋上
  放課後の続き
赤坂ミサキ「晴紀は・・・・・・俺の“好きな人”だ」
  その言葉が、屋上の空気を一気に変えた。
有馬晴紀「ミ、ミサキ・・・・・・何言って・・・・・・」
  雅人は深くため息をつき、わざと静かな声で言った。
山崎雅人「告白のつもり? それとも宣戦布告?」
赤坂ミサキ「どっちでも。晴紀に手を出す気なら、俺は容赦しない」
山崎雅人「・・・・・・“手出す”って。笑えるね。昔は俺の隣にいたのに」
有馬晴紀「雅人くん! もうやめ——」
  ミサキが晴紀の腕をぐっと引き寄せた。
赤坂ミサキ「ハル、無理にそっちに行くことない」
有馬晴紀「ミサキ・・・・・・っ」
  雅人は一瞬だけ笑みを浮かべたが、その奥で何かが静かに燃えていた。
山崎雅人「・・・・・・ふーん」
  そのまま踵を返し、屋上を出て行く。
  扉が閉まる。
  ミサキはまだ晴紀の腕を離さない。
有馬晴紀「・・・・・・ミサキ、さっきの・・・・・・どういう意味?」
赤坂ミサキ「そのまんまの意味だよ」
有馬晴紀「・・・・・・」
赤坂ミサキ「俺は、晴紀が好きだから。前から」
有馬晴紀「・・・・・・っ」
有馬晴紀「心臓が痛いほど跳ねた」
有馬晴紀「言われたかった言葉・・・・・・でも、怖さも刺す」
赤坂ミサキ「戻ろう」
有馬晴紀「あ......」
赤坂ミサキ「・・・・・・」
  そう言い残し、ミサキも扉の向こうへ去っていった。
  ひとり残された晴紀は、
  胸を押さえたまま、動けなかった。
  ・・・
  ・・・・・・

〇教室の教壇
  ミサキが教室に入ってくると、
  周囲の空気が少しざわついた。
女子A「あれ? 昨日ミサキくん、珍しく機嫌悪かったよね・・・・・・?」
女子B「転校生の山崎くんと何かあったっぽいよ」
赤坂ミサキ「・・・・・・よ、晴紀」
有馬晴紀「あ・・・・・・おはよ」
  ミサキはいつも通りの笑顔。
  だがその目の奥に“警戒”が混ざっているのに晴紀は気付く。
  そのとき——
山崎雅人「おはよう、ハル」
  すぐ後ろから、雅人が穏やかな声で挨拶した。
  しかしその表情は、晴紀だけに向けた特別なもの。
有馬晴紀「あ・・・・・・うん、おはよう」
赤坂ミサキ「・・・・・・」
山崎雅人「昨日は・・・・・・驚かせたね。でも、ちゃんと話したいことがある」
有馬晴紀「・・・・・・話?」
山崎雅人「うん。昼休み、屋上で」
  ミサキが即座に割って入った。
赤坂ミサキ「昼休みは俺と弁当食う約束してんだよ」
山崎雅人「へぇ。ハルが言ったの?」
有馬晴紀「えっ・・・・・・い、いや・・・・・・その・・・・・・!」
赤坂ミサキ「“俺と食うよな?”って今言うところだった」
有馬晴紀「言ってない!」
山崎雅人「・・・・・・ふふ。変わってないね、ハルを困らせるところ」
  その瞬間、ミサキの眉がぴくりと動いた。
赤坂ミサキ「困っているのは、お前の言い方のせいだろ」
山崎雅人「邪魔しないでよ。“元恋人”なんだから」
有馬晴紀「——!」
  クラスがざわつく。
女子B「えっ!なになに!」
女子A「元って」
  ・・・
有馬晴紀「ま、雅人くんっ!? ここで言うなよ!」
山崎雅人「事実でしょ? 隠す必要ないよ」
  ミサキはぎりっと奥歯を噛みしめた。
赤坂ミサキ「・・・・・・お前、本気でやってんのか?」
山崎雅人「もちろん」
  ・・・
  ・・・・・・

〇学校の屋上
  晴紀は呼吸を整えながら階段を駆け上がる。
  ミサキを止めるため——
  雅人を止めるため——
  どちらに向かっているのか、自分でも分からない
有馬晴紀「どうしよう・・・・・・どっちと話すべき・・・・・・?」
  そのとき——
  後ろから腕を掴まれた。
山崎雅人「ハル、こっち」
  階段の踊り場に引き寄せられ、
  雅人は背中で壁を塞いだ。
有馬晴紀「雅人、くん? なに・・・・・・」
山崎雅人「聞かせて。昨日の返事」
有馬晴紀「返事って・・・・・・」
山崎雅人「“また昔みたいに戻れるか”って」
有馬晴紀「・・・・・・雅人くん、僕たちは——」
  雅人が晴紀の頬に手を添えた。
山崎雅人「俺はまだ、ハルのことが好きだよ」
有馬晴紀「・・・・・・っ」
  その瞬間、
  階段の上から足音が響く。
赤坂ミサキ「——晴紀?」
山崎雅人「・・・・・・お邪魔?」
  ミサキの瞳が一瞬にして険しくなる。
赤坂ミサキ「雅人。そこから離れろ」
山崎雅人「やだよ」
有馬晴紀「ミサキ、違うんだ! これは——」
赤坂ミサキ「・・・・・・晴紀。『どっちに来たいか』って言ってほしい」
有馬晴紀「え・・・・・・」
山崎雅人「ハルの気持ち、聞かせて」
  狭い階段の踊り場に、
  三人の視線が絡み合う。
  晴紀の心臓が激しく脈打つ。
  逃げたらいけない。
  でも選べない。
有馬晴紀「っ・・・・・・僕は・・・・・・」
  しかしその瞬間——
  えー・・・・・・二年B組、有馬晴紀くん。至急職員室まで来てください。
赤坂ミサキ「・・・・・・タイミングが」
山崎雅人「・・・・・・」
赤坂ミサキ「早く行けよ」
有馬晴紀「あ......ごめん......」
  晴紀は二人を残して走り去った。
  三人の間に残ったのは、
  吊り橋の綱みたいに細い均衡だけだった。
  ・・・
  ・・・・・・

〇散らかった職員室
  息を切らしながら職員室に着くと、
  廊下には誰もいない。
有馬晴紀「・・・・・・先生、誰もいない・・・・・・?」
先生「あ、有馬。来たのか」
有馬晴紀「な、何かありましたか?」
  先生は机から書類を持ち上げた。
先生「これ。昨日の小テスト、名前欄が空白だったぞ」
有馬晴紀「え・・・・・・あ、すみません・・・・・・気づかなかった・・・・・・」
先生「しっかりしな。 最近ぼーっとしてるぞ。何かあったら相談しろよ」
有馬晴紀「はい.......」
先生「あ、有馬。後ろ、気をつけろよ!」
有馬晴紀「え?」
  振り向いた瞬間——
  ガシャンッ!
  雅人とミサキが喧嘩しながら、
  晴紀にぶつけた。
有馬晴紀「・・・・・・っ!?」
先生「おい、大丈夫か!?」
有馬晴紀「だ、大丈夫です・・・・・・!」
赤坂ミサキ「大丈夫か?」
山崎雅人「大丈夫?」
有馬晴紀「あ.......うん」
山崎雅人「はい、ハル、手を」
赤坂ミサキ「は?なんでお前が!」
山崎雅人「・・・・・・邪魔しないでよ。ハルはおれの」
赤坂ミサキ「うるせ!お前のもうじゃねぞ、賞味期限が切れてるのが!」
先生「なんだお前ら、仲がいいな」
赤坂ミサキ「どこが!」
山崎雅人「どこが!」
先生「ハモってるな」
先生「はいはい、帰った帰った」
先生「と、有馬。今回は見逃します。次はないように」
有馬晴紀「はい」
山崎雅人「・・・・・・大丈夫?」
有馬晴紀「うん。平気」
山崎雅人「ねぇ、ハル、先の話」
有馬晴紀「っ!」
赤坂ミサキ「晴紀」
山崎雅人「また邪魔するつもり?」
赤坂ミサキ「お前こそ、なんで追いかけてんだよ」
山崎雅人「好きな人を追いかける理由は必要?」
  二人の視線が鋭く絡み合う。
有馬晴紀「ちょ、ちょっと待って! ここ廊下だぞ」
  雅人とミサキは同時に晴紀を見た。
山崎雅人「・・・・・・ハルを選べばいいんだよ」
赤坂ミサキ「そうだな。晴紀、お前は——」
有馬晴紀「やめてよ!二人とも!」
山崎雅人「・・・・・・ごめん。でもおれは諦めない」
山崎雅人「ハルが困った顔するのも、泣きそうになるのも、全部、おれが守りたい」
赤坂ミサキ「それ、俺も同じだ」
山崎雅人「じゃあ・・・・・・勝負だね」
有馬晴紀「勝負?」
赤坂ミサキ「上等だ!」
有馬晴紀「待って、勝手に......」
山崎雅人「・・・・・・今日の放課後。ハル、話したいことがある」
山崎雅人「屋上で待ってる」
  そう言い残し、教室に戻った。
有馬晴紀「雅人くん・・・・・・」
  ミサキは晴紀の肩にそっと手を置いた。
赤坂ミサキ「晴紀。俺も・・・・・・放課後、話したい」
有馬晴紀「ミサキまで・・・・・・」
赤坂ミサキ「違うんだ。ただ・・・・・・昨日、お前にちゃんと伝えられなかったことがあるから」
有馬晴紀「・・・・・・伝えられなかったこと?」
赤坂ミサキ「放課後。屋上で待ってる」
有馬晴紀「え・・・・・・二人とも・・・・・・屋上・・・・・・?」
赤坂ミサキ「・・・・・・晴紀。逃げんなよ」
有馬晴紀「・・・・・・」
  ミサキも雅人とは別の方向へ去っていく。
  残された晴紀は、階廊下の真ん中で立ち尽くした。
  胸の奥で渦巻く不安。
  怖さと期待が入り混じったような感情。
  ——放課後、二人が待つ場所は同じ「屋上」。
  その事実が、
  まるで嵐の前触れのように胸を締めつけた。
  ・・・
  ・・・・・・

〇学校の屋上
  チャイムが鳴り、教室がざわつく。
  晴紀は鞄を持ったまま、席に座り続けていた。
  心臓の音だけが、やけに大きく聞こえる。
  ——でも今日は違う。
  晴紀は立ち上がり、階段へ向かった。
  ・・・
  ・・・・・・
  空はオレンジ色に染まり、
  風が少し強くなっている。
  屋上には、すでに二人がいた。
  フェンスの近くに立つ 雅人。
  出入口付近で腕を組む ミサキ。
  互いに視線を合わせないが、
  存在だけで空気が張り詰めていた。
有馬晴紀「・・・・・・二人とも」
赤坂ミサキ「お......」
山崎雅人「・・・・・・ハル」
  三人が揃った瞬間、
  逃げ場はなくなった。
山崎雅人「先に、俺から話す」
赤坂ミサキ「・・・・・・」
有馬晴紀「うん」
  雅人はフェンス越しに空を見た。
山崎雅人「中学のとき・・・・・・ハルと別れたの、覚えてるよね」
有馬晴紀「・・・・・・」
山崎雅人「俺、転校が決まったとき、  “遠距離は無理だ”って言った」
山崎雅人「でも本当は・・・・・・」
  雅人は拳を強く握る。
山崎雅人「怖かったんだ。ハルが、俺より大切な誰かを見つけるのが」
有馬晴紀「・・・・・・雅人くん・・・・・・」
山崎雅人「だから先に突き放した。最低だよね」
  ミサキが低く息を吐く。
赤坂ミサキ「・・・・・・自覚はあるんだな」
山崎雅人「あるよ。それでも——」
山崎雅人「今度こそ、手放したくない」
  その視線は切実で、
  執着と後悔が入り混じっていた。
  次に、ミサキが一歩踏み出す。
赤坂ミサキ「じゃあ、俺も言う」
有馬晴紀「ミサキ」
赤坂ミサキ「晴紀」
赤坂ミサキ「俺が最初にお前を好きだって気づいたの、いつだと思う?」
有馬晴紀「え?」
赤坂ミサキ「中学の頃だよ」
  雅人が一瞬、目を見開く。
赤坂ミサキ「でもさ、お前は雅人と一緒にいて、」
赤坂ミサキ「俺は“親友ポジション”でいいって思った」
赤坂ミサキ「・・・・・・それが、一番近くにいられたから」
赤坂ミサキ「でも転校して、お前が泣いた顔して戻ってきて」
赤坂ミサキ「その時、思ったんだ。“今度は俺が守る”って」
有馬晴紀「ミサキ・・・・・・」
赤坂ミサキ「優しくするのも、冗談言うのも、全部・・・・・・お前が笑うのが好きだったからだ」
赤坂ミサキ「奪うつもりはなかった。でも今は——」
赤坂ミサキ「譲る気がない」
  風が強く吹き抜ける。
山崎雅人「・・・・・・ハル。選べないって言ってたよね」
赤坂ミサキ「無理に今すぐとは言わねぇ」
山崎雅人「でも、逃げないで」
赤坂ミサキ「ちゃんと・・・・・・自分の気持ちを見ろ」
有馬晴紀「・・・・・・」
有馬晴紀「(僕は・・・・・・)」
有馬晴紀「(——誰かに選ばれることばかり、考えてきた。)」
有馬晴紀「(でも本当は。)」
有馬晴紀「・・・・・・二人とも」
有馬晴紀「僕は・・・・・・まだ、答えを出せない」
赤坂ミサキ「・・・・・・」
山崎雅人「・・・・・・うん」
有馬晴紀「でも・・・・・・」
有馬晴紀「逃げるのは、しない」
有馬晴紀「雅人くん。君との過去は、大事だった」
山崎雅人「・・・」
有馬晴紀「でも・・・・・・そのまま戻れるほど、僕は昔のままじゃない」
  雅人の表情が、少しだけ崩れる。
有馬晴紀「ミサキ。君の隣は・・・・・・安心する」
赤坂ミサキ「・・・・・・」
有馬晴紀「だから・・・・・・」
有馬晴紀「僕がちゃんと考える時間を、ください」
  三人も深い沈黙。
  やがて、ミサキが口を開いた。
赤坂ミサキ「・・・・・・ずるいな、それ」
有馬晴紀「ごめん」
赤坂ミサキ「でも・・・・・・嫌いじゃない」
山崎雅人「ハル」
  三人は並んで、夕焼けを見る。
  まだ答えは出ていない。
  でも——確かに、何かが動き出していた。
  過去と現在が、真正面から向き合い、
  晴紀は初めて「自分の意思」で立っていた。
  ・・・
  ・・・・・・

〇学校の屋上
  あの日から、少しずつ日常が変わった。
  ミサキは以前ほど距離を詰めてこない。
  冗談は言うけれど、触れない。
  晴紀が嫌がりそうな一線を、ちゃんと守っていた。
  雅人は逆に、静かに距離を縮めてきた。
  視線、声、言葉。
  どれも穏やかで、しかし“逃がさない”強さを帯びていた。
  ——それが、晴紀には少し怖かった。
  晴紀は一人で弁当を広げていた。
  風が吹く。
  屋上は、やっぱり落ち着く。
赤坂ミサキ「・・・・・・珍しいな。一人で」
有馬晴紀「ミサキ・・・・・・」
  ミサキは少し距離を取って座る
赤坂ミサキ「隣、いい?」
有馬晴紀「・・・・・・うん」
  二人の間に、沈黙。
赤坂ミサキ「・・・・・・最近、無理してないか?」
有馬晴紀「え?」
赤坂ミサキ「元気ないな」
有馬晴紀「・・・・・・そんなこと・・・・・・」
赤坂ミサキ「あるだろ」
  ミサキは晴紀の弁当を見て、少し笑う。
赤坂ミサキ「唐揚げ。相変わらず美味そうだな」
赤坂ミサキ「唐揚げだな。相変わらず美味そうだな」
有馬晴紀「・・・・・・食べる?」
赤坂ミサキ「いいのか?」
有馬晴紀「・・・・・・今日は、自分の箸で」
赤坂ミサキ「はは、了解」
  その距離感が、なぜか胸に沁みた。
  ・・・
  ・・・・・・

〇教室の外
  放課後 ― 校舎裏
  晴紀は、雅人に呼び止められる。
山崎雅人「ハル。少し話せる?」
有馬晴紀「・・・・・・うん」
山崎雅人「俺、待てるよ。ハルがどんな答えを出しても」
有馬晴紀「・・・・・・」
山崎雅人「でも・・・・・・覚えててほしい。俺は、ハルを一番よく知ってる」
有馬晴紀「・・・・・・雅人くん」
山崎雅人「なに?」
有馬晴紀「“知ってる”ことと、“寄り添う”ことは・・・・・・違う」
山崎雅人「・・・・・・」
有馬晴紀「ごめん」
山崎雅人「・・・・・・そうだね。それが、答えか」
有馬晴紀「・・・・・・うん」
山崎雅人「・・・・・・ありがとう。ちゃんと向き合ってくれて」
  そう言って、背を向けて去っていった。
  晴紀は、胸の奥が少し痛んだが——
  後悔はなかった。

〇学校の屋上
  ミサキはフェンスにもたれて、空を見ていた。
赤坂ミサキ「・・・・・・来ると思ってた」
有馬晴紀「・・・・・・ミサキ」
  晴紀は一歩、近づく。
有馬晴紀「僕・・・・・・答え、出た」
  ミサキは振り返らない。
赤坂ミサキ「・・・・・・聞くの、ちょっと怖いな」
有馬晴紀「はは」
赤坂ミサキ「・・・・・・」
  ミサキが、ゆっくりこちらを見る。
有馬晴紀「ミサキといると・・・・・・心地がいい」
有馬晴紀「笑うときも、黙るときも、そのままでいられる」
赤坂ミサキ「・・・・・・」
有馬晴紀「それって・・・・・・すごく、好きってことだと思う」
  風が強く吹く。
赤坂ミサキ「・・・・・・ずるい言い方だな」
有馬晴紀「ごめん」
赤坂ミサキ「でも・・・・・・嬉しい」
  ミサキは一歩近づき、晴紀の前に立つ。
赤坂ミサキ「晴紀」
赤坂ミサキ「俺は、お前を守りたいとか、奪いたいとか・・・・・・正直、全部思ってた」
赤坂ミサキ「でも今は——」
赤坂ミサキ「傍にいるなら、それでいい」
有馬晴紀「うん」
  晴紀は、そっとミサキの手を取った。
赤坂ミサキ「・・・・・・!」
有馬晴紀「一緒にいよう。ちゃんと、向き合って」
  ミサキは一瞬言葉を失い、
  それから、照れたように笑った。
赤坂ミサキ「・・・・・・責任、重いぞ」
有馬晴紀「うん。でも・・・・・・逃げない」
赤坂ミサキ「・・・・・・なら、離さない」
  二人の指が絡む。
  夕焼けの中、
  二人は並んでフェンスにもたれる。
赤坂ミサキ「なぁ晴紀」
有馬晴紀「なに?」
赤坂ミサキ「屋上の風、前より気持ちよくない?」
有馬晴紀「・・・・・・うん」
  晴紀は、ミサキの横顔を見る。
  ——この風景を、守りたいと思った。
  過去の傷は、消えない。
  でも、隣にいる温もりがあれば、前を向ける。
  本当に大切なのは、
  誰の手を取るか。
  晴紀は、その答えを選んだ。
  完

コメント

  • とても良質なBLでした。BL好きにはたまらない作品だと思います。2人の男子の間で揺れ動く主人公の心情がよく描けています。お弁当が、最初は出来が悪く、次はキレイになっているのが面白かったです。どちらも選べないという主人公の答えは、誠実なものだと感じました。最終的に誰を選ぶのか? 今後の展開が少し気になりました。とてもさわやかないBLです! まさにBLの入門種ですね!

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