身代わり人形

333×

6 知る由(よし)(脚本)

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〇市場
  犬のアデルを撫でるキュラ
  撫でる手が、アデルの頭の上で止まった。
アデル「アウッ」
  アデルは、鼻先でキュラの手をつついた。
  しかし、撫でる手は止まったままだ。
???「先程は大変な騒ぎでしたね」
ペイルトン「犯人は憲兵が引き取っていきましたよ」
キュラ「・・・・・・」
ペイルトン「・・・悩みごとですか?」
  空色の髪の青年は、空の椅子を引いて腰を下ろした。
  モコモコのぬいぐるみを抱きしめて、うつむくキュラ。
キュラ「その・・・」
キュラ「ペイルトンさんは・・・『銃』をご存知?」
ペイルトン「ぬいぐるみ君に入っている?」
キュラ「見えていたの?私が撃ったって」
ペイルトン「他の人は、気付いていないですよ」
ペイルトン「私はキュラさんが『銃』を持っていると 知っていましたから」
ペイルトン「状況から、当たりをつけただけです」
キュラ「ご存知なのね『銃』と言うものを」
ペイルトン「はい。それがなにを示すのかも」
ペイルトン「大領主家の跡取りたる・・・ キュラ・ラピス嬢」
キュラ「いつから銃を持っていると?」
  ペイルトンは、湯気の立つお茶を、キュラの前に置いた。
  そして指を組むと、肘をついて額に当てた。
ペイルトン「いつから、と答える前に」
ペイルトン「貴女に謝らなくてはなりません」
ペイルトン「首都駅で、モコを落としたでしょう?」
キュラ「ペイルトンさんが見つけて下さったのよね」
ペイルトン「あの時、そのぬいぐるみを」
ペイルトン「持ってきてしまったのですよ、アデルが。貴女から」

〇西洋風の駅前広場
ペイルトン「どうした?アデル」
ペイルトン「どこから持ってきたんだい?これ」
  アデルは尻尾を振って、座った。
ペイルトン「・・・火薬の匂いがするのかい?」
ペイルトン「ぬいぐるみに何か入ってる?」
ペイルトン「ん?これは・・・」
ペイルトン「・・・持ち主が困っているだろう」
ペイルトン「マリーベルさん」
ペイルトン「このぬいぐるみ、落ちてたみたいです」
  元通り銃をしまったモコを、マリーベルに差し出した。
マリーベル「”みたい”か」
マリーベル「それは・・・いい、預かろう」
マリーベル「持ち主の心当たりがある」

〇市場
ペイルトン「申し訳ない」
キュラ「最初から、私がラピスの娘だと分かってらしたのね」
キュラ「・・・あの、ペイルトンさん」
  キュラはペイルトンの手を取った。
キュラ「以前のように、接してくださいますか」
ペイルトン「えっ」
キュラ「私は『銃』を持っています。ラピスの娘として、権威の象徴を」
キュラ「そして引き金を引きました。人に」
キュラ「権威を振りかざすようなことをしました。たとえ、ルーベルを助けるためでも」
キュラ「けれど誓って、人を暴力でねじ伏せてもいいとは思っていません」
キュラ「貴方に向けることも。だからお願い」
  キュラは震える唇で言葉を紡いだ。
キュラ「お・・・お友達で・・・いてくださらない?」
  ペイルトンは手を握り返し、ニッコリと微笑んだ。
ペイルトン「ええ、もちろん!」
  言ってから、ペイルトンはスッと真顔になった。
ペイルトン「──というような人間には、お気をつけください」
キュラ「貴方はそんな人では──」
ペイルトン「分かりませんよ?」
ペイルトン「地位に権力、お金、そしてあなた自身まで、求める者の欲は計り知れない」
ペイルトン「貴女にはさまざまな価値があるのですよ。キュラ・ラピス嬢」
  二つにくくった髪を垂らして、キュラは面を伏せた。
ペイルトン「私も含め、人を安易に信じないこと」
ペイルトン「もしお約束くださるなら」
ペイルトン「前の通りに接しましょう」
ペイルトン「どうしますか?」
キュラ「気を付けるわ、約束する」
ペイルトン「分かりました。キュラ”さん”」
  キュラは、ペイルトンの手を強く握りしめた。
  お茶を飲みながら、他愛もない話をした
  キュラとペイルトン。
  そしてアデル。
ペイルトン「さて・・・」
ペイルトン「私はルーベルを探してきます」
  キュラの脳裏に、鮮やかな赤い髪の駅員が浮かぶ。
キュラ「そういえば・・・どこ行ったのかしら? ルーベルったら」
ペイルトン「私はその辺を見てきますね」
ペイルトン「時間までに駅で集合しましょう」
キュラ「私も、この辺を探してみるわ」
  ペイルトンはアデルに目配せすると、キュラに微笑んだ。
ペイルトン「一つお願いが」
キュラ「はい?」
ペイルトン「アデルを預かっていてほしいのです」
キュラ「アデルを?どうして?」
ペイルトン「どうやら、キュラさんと離れたくないようでして」
アデル「ピー」
  うろうろとキュラの周りを行き来するアデル。
ペイルトン「私に叱られて、しょげていると思われていますね、キュラさん」
キュラ「ええ?違うわ、アデル」
キュラ「私は元気よ?よしよし」
キュラ「おまえは優しい子ね」
  穏やかな語り口でアデルの耳を撫でるキュラ。
  二人を眺めて、ペイルトンは静かに席を立った。
ペイルトン「さてはて」

〇城の回廊
  はじめの駅ハルー
  マリーベルは、早馬の鞍からひらりと地面に降り立った。
マリーベル「ルーベル」
ルーベル「はぁーい」
  煤と煙の残り香をふわりと揺らして、ルーベルの赤い髪が、かしげた頬に流れた。
マリーベル「『火薬』を使ったのか」
  ルーベルは、軽く手を振って見せた。
ルーベル「ああ、もう聞き付けたの?耳が早いね」
ルーベル「相手が言ったんだよ? 自分は人形だって」
ルーベル「だから”人形として”相手をしてやった」
ルーベル「それだけだよ」
  人形は人間より頑丈である。
  『炎で炙る』
  本物の人形である証として、人形商が用いることもある。
ルーベル「相手も本望だろう?」
マリーベル「相手は人形を騙(かた)る”人間”だったそうだな」
マリーベル「命はあるようだが・・・今のところは」
ルーベル「人間だったら、それはそれで適度な処置でしょ?」
  『人形を騙(かた)る』行為は、処刑も辞されない大罪である。
マリーベル「私刑は違法だ」
ルーベル「相手は人形だと言って襲ってきた。 正当防衛さ」
マリーベル「証人がいない。証拠がないだろう」
ルーベル「僕が証人であり、根拠だ」
  マリーベルは一つため息をついて、ルーベルと向き合った。
マリーベル「──ルーベル」
マリーベル「今は、密造火薬が出回っている」
マリーベル「北部出身──火薬の産地というだけで、 犯人扱いだ」
マリーベル「分からないお前じゃないだろう」
  マリーベルは、凛とした声音をわずかに落とした。
マリーベル「何があった?」
  ルーベルは、ただ笑顔を作っただけだった。
マリーベル「らしくないな」
ルーベル「マリーもね」
ルーベル「怒ってる?」
マリーベル「ああ」
マリーベル「無闇に他人を傷つけるんじゃない」
マリーベル「痛みに鈍くなるな」
マリーベル「”ベル・ラペリ”」
  ルーベルは一瞬目を見張り──
  それから、開きかけた口を、きゅっと結んだ。
ルーベル「・・・こんな名前、いらないっ」
マリーベル「フルネームで呼んでやろうか?」
ルーベル「意地悪だ、マリー」
マリーベル「『ルーベル』 要らなくても、お前の名前だ」
ルーベル「分かってる」
  マリーベルは軽く辺りを見渡した。
マリーベル「お嬢さん(キュラ)は?」
ルーベル「向こうの駅舎」
マリーベル「ルーベル」
ルーベル「分かってるってば!」
ルーベル「・身代わり人形に近づけるな ・身を守れ ・必要とあれば『消せ』」
ルーベル「安心して任せてよ」
ルーベル「”マリリシス・ベル”」
  マリーベルのつれてきた馬にまたがり、駅舎に駆けていくルーベル。
マリーベル「ほう」
マリーベル「言うようになったじゃないか」
マリーベル「坊っちゃん」

〇美しい草原
  幼き日の断片。
ルーベル「あなたがマリー?」
マリーベル「私?」
マリーベル「そうだよ。マリーだ」
マリーベル「今日から君に、私の知識を叩き込む」
マリーベル「『出来ない』は許されない」
ルーベル「わかった」
  成長して、問いかけた。
ルーベル「ねえ、マリー?」
ルーベル「僕が”期待どおり”だったから」
ルーベル「マリーの居場所がなくなったの?」
マリーベル「ふははっ」
  マリーはどうして笑ったんだっけ?
  なんて、言ったんだっけ。
マリーベル「はははっ」
マリーベル「”期待以上”だよ」

〇市場
  馬を止め、ズルリと鞍から降りたルーベル。
ルーベル(”期待以上”か・・・)
  手綱を手近な柵に結び、自身も柵にもたれ掛かって息を吐いた。
ルーベル(そんなもの──)
  やがて視界がゆがみ、ルーベルは足元が崩れるような感覚を覚えた。
ルーベル「うーん?」
ルーベル「あれ?」
  気が付くと路地に横たわっていたルーベル。
ルーベル(調子に乗って煙を吸いすぎたな・・・ くそっ)
  気だるく指を動かす。動きに支障はない。
  ふと、目の端に淡い空色が映った。
  ルーベルは腕で顔を覆うと、ため息で言葉を押し出した。
ルーベル「・・・何が、聞きたい?」
  傍(かたわ)らの人物はにっこり微笑んだ。
ペイルトン「『いろいろ』と」

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