ホセちゃん(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
わたし「ふぅ。これでよし、と・・・」
ホセちゃんは我が家の観葉植物。週に一度水やりをすればツヤツヤした葉っぱをピンと張らせているので世話をするのが楽です。
本当は私やお姉ちゃんが水やりをしなくても「庶民」がやってくれるのですが
私はホセちゃんに水をあげて霧吹きをして拭いてあげるのが好きなので、これは私のお仕事です。
庶民「少し葉っぱの剪定をした方が良いかもしれないですね。そろそろ花が咲きそうです」
わたし「はーい」
〇渋谷の雑踏
「庶民」は、元々は大勢の人間で、その一人一人に私と同じ様に独立した身体があったそうです。
彼らは欲深く愚かで、食べ物や水や、恋人や宝石、綺麗な景色やのんびりと音楽を聴く時間を、互いに奪い合って争っていました。
あまりにも人は多すぎ、欲しいものも尽きない。しまいには人は武器を手にして争いました。
〇黒
そこで、お父さんとお父さんのお友達で話し合って、争っていた人たちには「先に解放されてもらった」ということでした。
その後でお父さんのお友達も「解放される」ことを選びました。
まだ「縛られている」のは、お父さんとお母さんとお姉ちゃんと私、しかいないのだそうです。
お父さんは、私たちが「最後の家族」なのだから仲良くしないといけないと言って聞かせました。
〇おしゃれなリビングダイニング
私とお姉ちゃんは「庶民」からお勉強を教わります。
庶民「さて、今日はフェルマーの最終定理について勉強しましょう」
わたし「はーい」
お姉ちゃん「難しそうね・・・」
「庶民」には学者だった人もいるので、人類が解けなかった問題、宇宙の始まりについて分かったことなどを教えてもらいます。
〇おしゃれな玄関
お父さんとお母さんはお仕事をします。
どこか宇宙の遠くから私たちの様な存在が来た時に、私たちの全てを伝えられる様に準備しておくのだそうです。
私たちの歴史、文化、科学、芸術・・・私たちが創り出した、素晴らしいもの全て。
お父さん「とはいえ、私たちの短い歴史でやっと分かったことなんて、彼らは当たり前の様に知っているかもしれないけどね」
そう、お父さんは自嘲気味に笑って言いました。
〇おしゃれなリビングダイニング
夜は4人でテーブルを囲んでお食事をして、スクリーンに映画を写して観ました。
お父さんが子供の頃に観て好きな映画だそうで、かつての恋人が植物と融合して巨大な怪物となり、街を襲うというSF映画です。
スクリーンの上をうごめくアリの様な人たちが怪物に潰されていきます。
お父さん「「庶民」が「解放される」時も、似たような混乱があったんだ」
「解放される」ことを望まなかった人たちもいるそうですが、私には理解できません。
「縛られた」存在であることは不自由なことですから、早く「解放されたい」と考えるのが自然ではないでしょうか。
私たちが「解放された」あとは私たちも「庶民」になり、今日と同じ様にホセちゃんのお世話をします。
「庶民」とははかつて人々を二分していた制度における片方を呼ぶ名だそうですが、そのもう片方を呼ぶ言葉を私は知りません。
お母さん「あなた、そろそろ・・・」
お父さん「ああ、そうだな。もう遅いから、2人とも寝なさい」
お姉ちゃん「おやすみなさい」
おやすみなさい、みんな。
〇黒背景
そして、その時が来ました。
〇電車の中
お父さん「おお、やっと目が覚めたかい」
お母さん「良かった、またみんな一緒になれたわね」
お姉ちゃん「ここは・・・?」
お父さん「ここは、皆の記憶を集めて作られた「庶民」の心の中だよ。私たちは「解放された」んだ」
電車、という乗り物。本で読んだことがあります。
「えー次は、渋谷ー渋谷ー。電車とホームの間に広く空いているところがありますので、足元にご注意ください。」
〇渋谷の雑踏
そこで私は見ました。映画の中でしか見たことが無かった、多くの人。人が歩いているところを。
お父さん「懐かしいなぁ、スクランブル交差点だよ」
お母さん「昔よくTSUTAYAでデートしたわねぇ」
階段を下りて、私たちは人々の中に紛れていきます。誰かであって誰でもない、庶民の中の1人に。
〇おしゃれなリビングダイニング
庶民「・・・」
庶民「やっぱり、誰もいないと静かですね」
庶民「さて、ホセちゃんに水をやらなくては」
不思議なお話だと思いました。
人は自由を求めるわりに、何かに縛られてないと不安になる習性があるんですよね。
「解放」されることがよかったことなのか…少し考えてしまいました。
「庶民」というのは私たちが進化した形なのか、それとも開放という名のもとに進化をやめた形なのか。どちらにしても全員がおなじ「庶民」となることで平等で争いのない穏やかな世界が出来上がるのでしょうね。
何かに縛られると生きづらい人、縛られていた方が生きやすい人、様々な人がいるとは思います。
が、大半は自由に生きたいと思いますよね。
人間の真理が描かれているいい作品だと思いました!