プロローグ(脚本)
〇時計
バベルの黒猫。人間に化けて社会に溶け込み、面白おかしく暮らす化け猫5人組。
〇西洋の街並み
かつて ”バベル”という町で生まれ、兄弟のように育てられた5匹は、町を守る門番として人間に大切にされていた。
しかしある日
〇荒廃した街
人間は高くそびえ立つ塔を創り神の怒りをかい、言葉を奪われた。
意思の疎通が出来なくなった人間たちは争いを始め、互いを傷付け合った。
〇荒野
争いに疲れた人間たちは散り散りになった。
残された黒猫たち。
5匹はバベルを守るため必死で生きた。
何十年という月日が経ち、食べる物もいよいよ無くなり、意識が朦朧とする中、一人の人間が現れる。
人間は、容赦なく家々を焼き払った。
このままではバベルの町が消えてしまう!
そう思った黒猫たちは最期の力を振り絞り、その人間に襲いかかったのだった。
〇裁きの門
猫衣「私たち・・・バベルを守るためと思って、あの人をボコボコにしちゃったけれど・・・」
ケイコ「まさかあの人間が、バベル再建のために政府が派遣した役所の人間だったなんてな」
ガリ「いやあ、気持ちのいいぐらいボッコボコのギッタギタだったニャ」
瞬「不可抗力なのです。政府の人間っぽい格好をして来なかったアイツが全面的に悪いのです」
ヤン「まあやってしまったものは仕方ない。ところでここはどこだろうね?」
神様「ここは地獄の入り口よ?」
猫衣「わー、綺麗なお姉さん!え、地獄?」
ケイコ「あ~、人を傷付けたからうちら地獄に落ちる感じ?」
ガリ「り、理不尽ニャ~」
神様「そうよ?あなたたちは、何の罪も無い人間を傷付けた。そりゃもうさっくり地獄行きよ」
ヤン「あ~、僕たち心底反省してるんでー、地獄行きはなんとか見逃してくれません?僕たち結構苦労して生きてきたんですよー」
ヤン「死んだ後ぐらいはー、5匹でのんびりー、暮らしたいんですよね」
神様「それは無理ね~」
瞬「そこをなんとか!あの、天国の端っこでもいいのです!なんでもするのです!」
神様「なんでも?言ったわね~」
猫衣「ちょっと瞬ちゃん。なんでもとか気軽に言っちゃダメだよ。えらい目にあうよ?」
神様「あなたたちを、地獄行きから救ってあげても良いわよ?ただし条件がある」
ケイコ「ん~・・・こういう条件って、大体ロクなものがないんだよね~」
ガリ「うん、絶対にいいこと無いパターンだから聞いちゃだめニャ」
瞬「気になるけど、皆と一緒なら地獄でも何だかんだで楽しく生きていけそうなのです」
ヤン「それはそう。じゃあまあ地獄でいっか」
ヤン「お姉さん、ありがとうございました!」
神様「いやいやいや待ちなさいよ!」
神様「てゆうかお姉さんとか気軽に呼ばないで?私は神よ?とっても偉くて美しい神様なのよ!言うことを聞かないとバチが当たるわよ!」
ケイコ「なんとなくそんな気はしてたけど、やっぱり神様なんだ!すごい!初めて見た!」
猫衣「えー!私も~!いやあ、今時の神様ってこんなに綺麗なんだねえ」
瞬「今時って。逆に一昔前の神様とか知らないのです」
ヤン「神様もこう言ってるし、とりあえず話だけ聞いてみればいいのでは?」
ガリ「そうだニャ。じゃあ条件を教えてもらっていいですかニャ?」
神様「コホン。言うわよ?一度しか言わないからよーく聞きなさいよ?」
猫衣「なんで偉い人って、大事なことを1回しか言ってくれないんだろうね?大事なことなのに」
ケイコ「こら、静かに」
神様「あなたたちに、人間に化ける力を与えてあげる。人間になって、人間を救いなさい」
猫衣「・・・えっと?要するに?」
猫衣「なんか人間ってワードが多すぎてよく分かんなかった」
ガリ「んもう!あちきたちが人間になれるってことニャ!それめっちゃ嬉しいかも!」
瞬「ガリさんが人間になったら、めっちゃファビュラスになりそうなのです~!」
ヤン「僕人間になってやってみたいことが山ほどあったんだよね~!」
ケイコ「人間を救うって、それって要するにヒーローになって世界を救う!みたいな感じ?」
猫衣「えー!かっこいい!やりたいやりたい!」
神様「いや、世界を救うなんて無理でしょ!ただの猫なんだから」
ガリ「じゃあ~あちきたちは一体ニャにを?」
神様「ちっちゃいことでいいのよ。人間になって、困っている人間を助けるの」
瞬「地味なのです」
神様「貴方たちが人間のために尽くし傷付いた人間を癒し、多くの人間を幸せにすることが出来れば、そのうちバベルに帰してあげるわよ」
ヤン「あ~出た。そのうちってところがミソだよね。これきっと死ぬまでこき使われるやつ」
ケイコ「幸せにするってのもなーんか指示が曖昧で怪しいよな。幸せなんて人それぞれ違うし。分からん!」
ガリ「確かに!じゃあ、やめとくかニャ」
神様「ええええ!やめるとかいう選択肢ってある!?こんなに美味しい話なのに!」
瞬「美味しい話には裏があるのです。多分うちら騙されてるのです」
神様「騙してないって!」
神様「ちょっと~助けなさいよー!強欲な人間共は願いが尽きなくて年中人手不足なのよ!」
神様「あいつらちょっと目を離したらすぐ不幸な道に進もうとするんだから!」
ケイコ「そんな奴ら、放っておけばいいじゃん」
神様「そういうわけにもいかないの」
神様「人間は、未来が見えないとヤケになる。自分が満ち足りていないとすぐに他者を傷つける」
神様「バベルの町もそうでしょう?」
神様「言葉が通じなくなって不安になった人間たちが、バベルを滅ぼした。私が助けてあげないと、あいつらはコロッと全滅するのよ」
瞬「別に全滅すれば良いのでは。あいつら猫に餌を与える以外、役に立つのですか?」
神様「あんなやつらでも、いなくなると世界が滅びるのよ」
ヤン「でも、人間を幸せにしたらバベルに帰してくれるっていうのも考えものかもね」
ヤン「あそこに帰っても、もう何も残ってない。僕たちの帰りを待つ者は、もう誰もいない」
猫衣「・・・でも私、何もなくても帰りたいなあ」
猫衣「皆と一緒に、バベルに帰りたいよ」
ケイコ「ふむ。じゃあ、決まりかな」
ケイコ「おい神様、うちらは人間のために働くよ」
ケイコ「人間が少しでも幸せな道を選んで、生きる喜びを見出して世界を継続できるように力を尽くす。だから・・・」
ガリ「いつかあちきたちの罪がつぐニャえたら、バベルに帰してくれますかニャ?」
神様「ええ、約束しましょう。人を幸せにするために生きなさい。それが、貴方たちの使命よ」