「新しいお葬式」

霜月りつ

新しいお葬式 完結しました(脚本)

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〇葬儀場
  近松セレモニー会館業務日誌、5月2日、山田吾一様ご葬儀 開始13時、終了 14時予定・・・
山田「本日は大変お忙しいところをご焼香を賜りまして誠にありがとうございました。父、茂は生前中は何かとお世話に・・・・・・」
遠山「やっぱりお葬式は年寄りに限るなあ、近田くん」
近田「そうですね、館長」
遠山「みんななごやかだしさ。悲しんでないっていうか」
近田「そうですね」
遠山「若い人や子供の葬式だとほんっと、辛いもんな。俺も年取って大往生で逝きたいよ」
近田「じゃあ館長の葬式の時は私が責任もって執り行いますよ」
遠山「頼んだぞ、近田くん。お、そろそろ喪主の挨拶が終わるな」
山田「・・・・・・今日は本当にありがとうございました。故人も喜んでいることでしょう・・・・・・」
遠山「うわー、ほとけさまがー!」
近田「や、山田さまがっ、い、生き返った!」
山田父「おお・・・・・・せがれ。めしはまだか・・・・・・?」
山田「おやじ! な、なんで生き返って・・・・・・しかも若返ってるんだよー!」

〇テレビスタジオ
アナウンサー「こんばんわ、ニュース シックスの時間です。最初の話題は最近頻発している甦りのニュースです」
アナウンサー「驚くべきことに全世界規模で次々と亡くなった方が甦っております」
アナウンサー「近松セレモニーの遠山館長と、甦られた山田吾一さんに話をお伺いしました」
遠山「はい、うちは葬儀専門のセレモニー会館なんですが、仏様が棺桶から起き上がったときには驚きましたねー」
山田父「いやあ、目が覚めたら俺の葬式やってたからびっくりしたねえ」
アナウンサー「厚労省の調べでは、甦りは病死の高齢者のみ。若者や、事故死や自殺などは甦えらず、ということだそうです」
アナウンサー「これに対して調査した研究機関では」
科学者1「甦られたお年寄りは痴呆が治り、衰えていた筋肉や骨も復活しているんです」
科学者2「体組織は20代の若者と同様です」

〇葬儀場
  近松セレモニー会館業務日誌、5月12日、本日葬儀予定無し・・・

〇テレビスタジオ
アナウンサー「甦りが恒例となり、政府も新しい対策が必要なようです」

〇大会議室
記者「政府は年金対策をどうされるつもりですか!」
政府関係者「政府としては事態を正確に把握するまではなんとも返答はできません」
記者「よみがえった人々に支給はあり得ますか」
政府関係者「政府としては事態を正確に把握するまではなんとも返答はできません」

〇葬儀場
  近松セレモニー会館業務日誌、5月20日、本日葬儀予定無し・・・

〇テレビスタジオ
アナウンサー「死んだ親が自分より若い姿でよみがえることに対応しきれない子供たちのカウンセリングも必要です」
アナウンサー「佐伯さんが町の言葉を聞いてきました」

〇渋谷駅前
山田父「え? 俺? そう、こないだ死んだの。でも生き返っちゃったー」
山田父「これからもう一度青春謳歌よ、サイコーだね!」
少女「マジ、じいちゃん、ちょーかっけーよ!」
山田父「おう、もう一軒いくかー」

〇小さい会議室
近田「館長!」
遠山「ああ、君か・・・」
近田「館長、お話が」
遠山「君も辞めるのか? まあ仕方ないよね、葬式が激減しちゃったんだから。この会館も、もうだめだ」
近田「諦めないで下さいよ、館長」
遠山「しょうがないだろ、最近じゃ葬式の数はめっきり減っているんだから」
遠山「ああ、年寄りが死なないと、葬式業はだめだ」
近田「それを逆手に取るんですよ、館長」
遠山「逆手? どういうことだ?」
近田「新しい葬式の形を考えたんです!」

〇おしゃれな食堂
遠山「はい、みなさまご歓談のところ失礼いたします。そろそろお時間となりましたので、柩の前にお集まりください」
遠山「どれではカウントダウンでございます。 5、4、3、2、1!」
遠山「おめでとうございます、見事山本陽子さま甦りいただきましたー!」
遠山「いやあ、君の狙い、当たったねえ!」
近田「はい、死後かっきり12時間で甦ることがわかってますからね、それを人生の再出発、再誕生としてお祝いする・・・」
近田「お祝いごとの好きな日本人にはたまりません」
遠山「年寄りが若者の分まで元気に働いてくれて・・・最近、景気もいいそうじゃないか」
近田「出生率の低下が気になりますが」
遠山「近田君、ぼくはねえ、こう思うんだ。人間は今、一段階、上にあがったんじゃないかって」
遠山「死んで甦ってまた新しく始める。そのあとどうなるかはまだわかんないけどね、これもまた新しい世界だよ」
近田「そうですね」
遠山「なんにせよ、葬式はなくならない。ぼくたちの業界は安泰だ」
遠山「ああ、やっぱり葬式は年寄りに限るなあ」
  おしまい

コメント

  • 危機から葬儀屋さんの新たな商法に感服致しました。悲しい葬式より華やいだ葬式が良いです。やっぱり葬儀はお年寄りに限りますね。

  • 冒頭の『やっぱりお葬式が年寄りがいい』という言葉が、まわりまわって最終的に結びの言葉になったところに文章の構成力の高さを感じました。内容も、まさに新しい世界を想像させてくれる楽しいお話でした。

  • 面白い発想で、楽しく読めました。
    こんなことが本当に起こったら世界はどうなっちゃうんでしょうね!その後の世界も見てみたいです。

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