佐藤の日 2022年

B作

読切(脚本)

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〇ダイニング(食事なし)
  2022年3月10日
  私は、何度もスマホを出したり
  引っ込めたりしていた。
佐藤「・・・・」
  今夜、中学のクラス会が開催される。
  そのクラス会に行くのをやめようかと
  悩んでいた。
  なぜなら・・・
  私には中学時代、いつもつるんでいた友達が居た。
  私も佐藤、彼も佐藤だったので、
  クラスの連中にはダブル佐藤と
  言われていた。
  今なら問題になるのだろうが、
  担任が彼を佐藤A私を佐藤Bと言ったので、お互いをAちゃんBちゃんと
  呼びあっていた。
  そんな仲良しだったAちゃんとも、
  別々の高校に行ったので
  卒業後は音信不通になっていた。
  6年前に開催されたクラス会で
  何十年かぶりに再会し、
  それから連絡を取るようになった。
  とは言っても、お互いそれなりに忙しく
  会うのは年一回開催されるクラス会だけだった。
  そんな彼とある約束をした。

〇居酒屋の座敷席
  2年前
佐藤A「Bちゃんって、中学の時ピアノやってなかった?」
佐藤「親にピアノ教室は通わされてただけだよ」
佐藤A「でも、弾けるんだろ?」
佐藤「どうだろう? 中学で辞めたから、何十年も弾いて無いからな・・・」
佐藤A「俺、最近ギターを始めたんだ」
佐藤「ヘェ・・・凄いな!」
佐藤A「五十の手習いだよ。 特に趣味とか無いから、定年後の事考えて 趣味を持とうと思って始めたんだ」
佐藤A「そうだ! Bちゃんも、もう一度ピアノ始めなよ。 そんで、二人でセッションしようよ!」
佐藤「無理だよ・・・もう歳だし」
佐藤A「何言ってんの。 俺が出来るんだから、Bちゃんだって出来るよ!」
友人A「なになに・・・」
佐藤A「ダブル佐藤で、ギターとピアノの セッションやろう!って話してた」
友人A「いいじゃん!いいじゃん! そしたら、来年のクラス会で披露しようぜ!」
佐藤「ちょっと待ってよ! 私はやるとは言って無いから・・・」
友人A「お~い!みんなぁ! 来年のクラス会では、ダブル佐藤が 演奏するってよ!」
友人B「そいつは凄いや!」
友人C「それは楽しみね! 来年も絶対に参加するわ」
友人D「AちゃんもBちゃんも頑張ってね!」
  私の意見は聞き入れてもらえず、
  来年のクラス会で、セッションやる事が
  決定してしまった。
  Aちゃんは困っている私を笑顔で
  見ていた。
佐藤(やるしかないか・・・)
  私は覚悟を決めた。

〇黒
  しかし、翌年のクラス会には参加しなかった。
  仕事が立て込んでしまい、直前で欠席する事になった。
  もちろん、Aちゃんに連絡を取って謝った。
  来年のクラス会では、必ずセッションするって約束した。
  Aちゃんは気にするなと言ってくれて、
  来年は必ずな!と言って電話を切った。
  しかし、その約束を果たす事は出来なかった。

〇ダイニング(食事なし)
  クラス会の1ヶ月前、
  突然クラスメイトから連絡が来た。
佐藤「もしもし。どうした?」
友人A「Aちゃんが亡くなった」
佐藤「え?? 嘘だろ?」
友人A「誰にも言って無かったらしいんだけど ずっと具合が悪かったんだって」
佐藤「去年のクラス会の時はどうだったの?」
友人A「今思えば、調子悪かったじゃないかな・・ 俺達はBちゃんが来ないから元気無いのかと思ってたんだけど・・・」
佐藤「葬儀とかは?」
友人A「身内だけで済ましたらしい。 たまたまAちゃんと近所だから分かったんだよ」
友人A「今度、線香あげに行こうな」
佐藤「わかった。 行く時は連絡くれな!」
  そう言って電話を切った。
  電話を切ってから、私は後悔していた。
  去年のクラス会に、なぜ行かなかったのか?
  仕事は忙しかったが、絶対に行けない
  って訳でも無かった。
  また、来年に会えると思ってたから、
  まぁいいやって何処かで思っていたんだと
  思う。
  自分にはクラス会に行く資格が無いと思った。
  約束を守らなかった自分が許せなかった。
  それ以上に約束を守らなかった私の事を
  Aちゃんは、きっと怒っているんだろう
  って思った。

〇ダイニング(食事なし)
  結局、私は幹事に欠席の連絡を入れた。
  すると、すぐにAちゃんの近所の
  クラスメイトから連絡が来た。
友人A「もしもし・・・ クラス会欠席するんだって?」
佐藤「ちょっと体調が悪くて・・・」
  私は嘘をついた。
友人A「いいから来い! 来ないと絶対に後悔するからな。 それにAちゃんも悲しむからな」
佐藤「どういう事?」
友人A「セッションの準備をして、とりあえず来い!」
  そう言って、奴は電話を切った。
  どうしよう・・・
  行くしかないか。

〇おしゃれなレストラン
  会場に着くと、クラスメイト達は
  何やら話し合っていた。
  私の姿を見つけると、それぞれが自分の席に
  戻っていった。
友人A「よしよし、来たな! ちゃんと準備してきたか?」
佐藤「一応、キーボードピアノは 持ってきたけど・・ 何をする気なんだ?」
  私の質問には答えず、勝手にクラス会を始めた。
友人A「それじゃ、去年出来なかったダブル佐藤の セッションをおこないます」
  何を言ってるんだ?
  訳が分からなかった。
友人A「それじゃ、Aちゃん宜しく」
  そう言うと会場が暗くなり、スクリーンか
  降りてきた。

〇病室のベッド
  スクリーンに映し出されたのは、
  病室のベッドに腰かけているAちゃんだった。
佐藤A「Bちゃん、ゴメンな」
佐藤A「今年はセッション出来ると思ったんだけど どうやら無理そうだ」
佐藤A「こんな形になったけど、約束だから セッションやってくれるか?」
佐藤A「この約束だけは、どうしても果たしたかったんだ」
佐藤A「それじゃBちゃん、やるよ!」
佐藤A「皆さん!お待たせしました。 本日、3月10日の佐藤の日におこなわれる タブル佐藤の奇跡のセッション。 楽しんで下さい!」
  そこで、ビデオは停止した。

〇おしゃれなレストラン
佐藤「これはいったい・・・」
友人A「Aちゃんの最後の願いを叶えて欲しい って家族に頼まれたんだよ」
佐藤「Aちゃん・・・」
  私は、涙が止まらなかった。
  Aちゃんの願い、叶えてやらないと・・・
友人A「Bちゃん、準備が良ければ再生するよ」
  私は、涙を拭ってキーボードを準備した。
佐藤「それじゃ、頼む」

〇病室のベッド
佐藤A「それでは、聞いて下さい。 中島みゆきさんの「糸」です」

〇おしゃれなレストラン
  Aちゃんのギターに合わせて、
  私はキーボードを弾いた。
  すると、クラスメイト達は合唱し始めた。
  それぞれが歌詞カードを持っていた。
  気のせいだろうけど、Aちゃんが隣で
  演奏してるような気がした。
佐藤(ゴメンな・・・ 元気な時に出来なくて)
  そう言う私をAちゃんは笑顔で見ていた。
  ダブル佐藤のセッションは、最後まで
  演奏することが出来た。

〇病室のベッド
佐藤A「Bちゃん・・・ありがとうね」
  そう言うと、ビデオが終わった。

〇おしゃれなレストラン
佐藤(私こそ、ありがとう)
  ダブル佐藤の奇跡のセッション、
  最高だったよ。
  私も、もう少し練習して上手くなるから。
  そっちに行った時、更に最高のセッションを
  やろうね!!
  そんな事を心の中で呟いた。
  おわり

コメント

  • みんなの気持ちがひとつになって、起こった奇跡ですね。
    こんなることがわかっていて、映像を残しておいた彼の気持ちも、それをセッティングした周りの気持ちも、全てが合わさって起きた奇跡。
    素敵なお話でした。

  • 体験談のようなリアルさがあり何度も涙ぐんでしまいました。胸に迫ったところを200文字以内で書ききることはできませんが、冒頭からずっと昔の呼び方で呼び合い続ける2人の姿、そしてクラスメイトの姿が一番私を作品世界にスムーズに招き入れてくれました。そういえば奇跡が起きる日というテーマでしたね。後書きを拝見するまで忘れていました。作者さんの掌の上でしたね〜。ありがとうと言っておく、信頼の重みが美しいです。

  • 単なる奇跡、というよりは、歳をとっても皆が皆を大事にしてきた友情という名の奇跡ですね!
    歳をとってもこんな仲間がいたら…逆に死んでも死にきれないかもしれません…涙

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