どこにでもある、どこにも無いもの。

大森りん

読切(脚本)

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〇男の子の一人部屋
母「カズマー!今日面接じゃなかったのー?」
カズマ「やっべ! もうこんな時間!!」
  (飛び起きる)
母「そんなことばっかやってるから、いつまでもニートなのよ!」
カズマ「今度こそ、ガチで就活してるって!」
母「どうせまた簡単に挫折して、3か月くらいダラダラするんでしょ~?」
母「1件面接して、3か月休んで・・・そのペースじゃ就職なんてできないわよ!」
婆ちゃん「まあまあ、むつみ、そんなに焦らせなくても」
婆ちゃん「あなたもどうにかなったんだから、カズマも大丈夫よ」
母「ちょっとお母さん!甘やかさないで!」
カズマ「ばあちゃんだけは俺の味方だよ!」
カズマ「母ちゃんはいいよなあ、家で自由にできる仕事で」
カズマ「イラストレーターか~。俺も、何か楽な才能があったらラッキーだったのにな~」
母「馬鹿な事言ってないで、早く支度しなさい!」
「身支度の早さだけは得意なんだから!任せてくれ・・・」
  (バキッ!)
カズマ「痛っ!」
カズマ「(や、やばい、母ちゃんが大事にしてたブレスレット・・・踏んで壊れちまった!)」
  (気まずい雰囲気)
カズマ「(ここは逃げるが勝ちだ!)」
カズマ「い、いってきまーす!」
  とっさに、ブレスレットを回収して家を飛び出す
母「・・・・・・」

〇渋谷駅前
カズマ「そう。何故かはわからないけれど、母さんがあのブレスレットを大事にしているのは知ってる」
カズマ「何故かは、わからないけれど」
カズマ「ただでさえ、帰ったら気まずいことが決定している以上、今日こそ就職決めないとな」
カズマ「それとも、似たようなブレスレットを探しに行って、買って帰るか?」
カズマ「いや、そんなの一時的な機嫌取りにしかならないだろう」
カズマ「どうするべきか?ああ、考えただけでめまいがする」
カズマ「そう、めまいが・・・」
  (バタッ)

〇SHIBUYA109
  ・・・もしもし!もしもし!ねーねー、お兄さん、大丈夫?
カズマ「・・・・・・」
カズマ「!?」
なっちん「生きてんじゃん!笑」
なっちん「さっきそこで、倒れてたから」
まあこ「ウチらのギャルサーの近くで倒れるとか、ウケんね(笑)」
カズマ「(人がめまい起こして倒れてるのに、ウケるってなんだよ!)」
カズマ「(・・・にしてもここは・・・渋谷?なのか・・・? 確か俺は、就活で・・・・・・)」
カズマ「すみません、ここって・・・」
なっちん「なに?渋谷がどうかした?ヤバ! あんた、頭も打ってんじゃない?」
カズマ「良かった、僕、渋谷で就職の面接があって・・・急がなきゃ・・・!?」
カズマ「(ん?ルーズソックス、ガングロ、で、この人たちの踊り・・・パラパラ?)」
カズマ「(テレビでちょっと見たことあるぞ。もしかして・・・!?)」
カズマ「あれっ?今、何時・・・っていうか、何年ですか!?」
なっちん「はァ!?1997年だよ!さすがにギャルでも、それくらいわかるって!バカにすんなし!」
カズマ「(え・・・どういうことだ!?)」
  ?「まあこー!なっちんー!そろそろ練習再開するよー!」
なっちん「じゃ、お兄さん、またパラパラの練習終わったら喋ろーねー☆」
まあこ「もうすぐ、むーちゃすの卒業が控えてっからさ」
カズマ「“むーちゃす”・・・?」
なっちん「そう、休憩も取らずに練習してるあの子。むーちゃす」
なっちん「内定蹴ったとか言って、ウチらとここで踊ってたんだけどさ」
なっちん「やっぱ絵を描く夢、もう一回挑戦したいんだって」
まあこ「だから、ウチらもその夢、応援したいじゃん?」
まあこ「で、明日、卒業式しようって。このギャルサーのね」
なっちん「最後に完璧なパラパラ、踊ってやんのよ!」
  (2人も合流して踊り出す)
カズマ「(パラパラ・・・よくわかんないけど、3人ともすごく楽しそうだ。)」
カズマ「(自分たちのやりたいことをやって、自分たちのやりたい格好で・・・)」
カズマ「(時に、自分たちが休みたいと思ったタイミングで、休んだっていい。)」
カズマ「(今の僕には、ギャル3人が輝いて見えた。)」
カズマ「(あの“むーちゃす”って言う子の、手首に光るもの、何か見覚えが・・・)」
カズマ「(ん!?俺の母ちゃんのブレスレットと一緒だ!?)」
カズマ「(えっ!?・・・まさか・・・!?)」

〇渋谷駅前
  ・・・もしもし!もしもし!お兄さん、大丈夫ですか!?
カズマ「あのっ!!むーちゃすさん! そのブレスレットは・・・!?」
駅員「ムーチャス・・・?」
カズマ「あっ!?」
駅員「貧血ですか? そこで倒れていたと連絡がきたので」
駅員「すぐに意識が戻ったようで、なによりです」
カズマ「あ、そうだ、僕、この後就職活動の面接がありまして・・・」
駅員「緊張しすぎて貧血でも起こしたのかもしれないですね」
「最近、そういう学生さん多いんですよ。 お気をつけて」
カズマ「・・・・・・」
カズマ「(何が起きていたのだろう?よくわからない。)」

〇空
カズマ「(だが俺は、なんだか自信に満ち溢れていた。)」
カズマ「(そうだ、とっさにポケットに入れた母ちゃんのブレスレット。)」
カズマ「(音がしたから割れたかと思ったけれど、よく見ると、元に戻せる範囲でねじれただけだな。)」
カズマ「(良かった。少し磨いて返そう。)」
カズマ「(でも、朝見た時よりも輝いて見える。こんなに光を放っていたんだっけ。)」
  そんなことを考えながら、俺は渋谷駅から歩き出した。

コメント

  • お母さんの若かりし頃?なのでしょうか。
    大切にしている理由は…その頃の大切な思い出だからかな?
    でもこの一件を経て、息子が就職してくれるならよしかもしれません笑

  • 若い時は若い時でそれぞれ何がしたいのか、何をしたらいいのか思い悩みながら生きているものですね。彼のお母さんはやりたかった仕事を手に入れたんだとわかりました。彼もまた輝ける天職をみつけることを応援したいです。

  • この作品を読んで,自分自身が就活している時と照らし合わせてしまいました( ^)o(^ )カズマくんの未来永劫を祈っています☆彡

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