ハロウィンには百鬼夜行を

藤堂らでん

読切(脚本)

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〇渋谷のスクランブル交差点
猛「来るんじゃなかったな・・・」
  猛はため息を吐いた。
  ハロウィンの渋谷は、奇抜な服装の人々で溢れかえっている。
若者1「そいつさ、チョーバカなの!!!」
若者2「ギャハハ!!!!」
  猛は、あまりに騒々しい雰囲気に乗り切れなかった。
猛「もう帰ろう・・・」
  猛は立ち上がった。
  その拍子に、仮装のつもりで買ったプラスチック製のジャコランタンが、こん、と鈍い音を立てた。
  同時に、突然あたりが静寂に包まれた。

〇繁華街の大通り
猛「あれ?」
  周囲にいたはずの人たちが誰もいない。
  もぬけの殻となった道路に、信号が冷たく反射している。
猛「何なんだ?」

〇繁華街の大通り
  ふと耳を澄ますと、遠くから音楽のようなものが漂ってくる。
「こっちの耳にゃ、から傘小僧、あっちの耳にゃ、ぬっぺっぽう〜♪」
  目を凝らすと、道玄坂の向こうから提灯を持った行列が歩いてくる。
  気味の悪い光が、ビルのガラスにぬらりと反射する。

〇繁華街の大通り
  それは妖怪たちの大行進だった。
  先頭は、服を着た骸骨とカッパ、その後ろにもあずき研ぎなど大勢の物怪が歩いてくる。
猛「夢なのか?」
  猛の近くまでくると、行進が止まった。
骸骨「おい小僧、おめえ、見ねえ顔だな」
  妖怪たちが猛を取り囲んで、じろじろと見つめている。
あずきとぎ「おかしな出立ちだねぇ」
かっぱ「こいつ、とって食ってやろうか?」
  化物たちは、行列を止められたことにかなり苛立っているようだ。
  猛は恐怖で縮み上がった。
カラス天狗「待て待てい!」
  闇空から降り立ったのは、炎に包まれたカラス天狗だった。
カラス天狗「貴様、何を持っておる?」
  一斉に猛の持っているランタンに目線が注がれた。
骸骨「なんだ、その変な提灯?」
猛「これは・・・」
  猛は勇気を振り絞って叫んだ。
猛「ジャック・オ・ランタンだ!!」
骸骨「じゃっく・・・?」
あずきとぎ「邪鬼のことかの?」
かっぱ「さては鬼の仲間か?」
  皆口々におかしな推測を始めた。
カラス天狗「今、オランダと言わなかったか?」
  どうやら、“オ・ランタン”が“オランダ”に聞こえたようだ。
カラス天狗「ということは、南蛮の妖怪ではないか!!」
骸骨「南蛮の妖怪〜!!??」
  途端に大騒ぎになった。
カラス天狗「おい、貴様!」
  カラス天狗が手を差し出している。
  恐る恐る猛がその手を握ると、カラス天狗は天高く舞い上がった。

〇渋谷の雑踏
カラス天狗「聞け!今宵、南蛮の邪鬼が参られた!」
カラス天狗「歓迎されよ!!」
骸骨「たまげた!」
あずきとぎ「よく来たものよ!」
かっぱ「宴じゃ宴じゃ♪」
  空中から見ると、妖怪たちはスクランブル交差点やハチ公前広場を埋め尽くしている。
  地面に降りながら、カラス天狗が説明し始めた。

〇SHIBUYA109
カラス天狗「ここは武蔵国と呼ばれる国」
カラス天狗「普段は神々が治めておるゆえ、ワシら妖怪は窮屈な思いをしている」
猛(武蔵?)
カラス天狗「だが神無月と呼ばれるこの時期、八百万の神が出雲に集まり、神が不在となる」
猛(神無月?)
カラス天狗「よって毎年、神無月の七日に武蔵国の魑魅魍魎が一堂に会し、」
カラス天狗「百鬼夜行を執り行っているのだ!!!」
猛「百鬼夜行?!」
骸骨「おい、南蛮の妖にはどんなのがいるんだ?」
あずきとぎ「まあ、酒でも飲めや!」
かっぱ「はい、おちょこ」
  色とりどりの妖が猛の周りに集まって南蛮の話をせっついてくる。
  こうなったら無理やりでも話すしかない・・・!
猛「ドラキュラ伝説というのがあってね・・・」
猛「ドラゴンという翼を持った竜がいて・・・」
  妖怪たちは、目を輝かせて猛の話に聞き入っている。
  途中で注いでくれる彼らの酒は、不思議な風味がありとても美味しかった。
カラス天狗「皆のもの、踊るぞ!」
  カラス天狗の掛け声で、妖たちが踊り出した。
  思わず猛が立ち上がると、骸骨や、あずきとぎやカッパが一緒に舞ってくれた。
猛「人生で一番楽しい夜かもしれない・・・!」

〇渋谷のスクランブル交差点
  夜明けが近づくと、皆、片付けを始めた。
  道路にこぼれた酒を、一反もめんなどの布の妖怪が拭いて回っている。
猛「しっかり片付けをするんですね」
カラス天狗「当たり前じゃ!」
カラス天狗「もし散らかしているところが神様に見つかったらどうなる?」
カラス天狗「妖気を取り上げられてしまうぞ!」
  猛も掃除を手伝っていると・・・
カラス天狗「なぁ南蛮の邪鬼殿」
  カラス天狗が徳利を差し出している。
カラス天狗「これを貴様に差し上げよう」
骸骨「そいつぁいいな!」
あずきとぎ「武蔵の酒の旨さを、伝えておいてくれよ!」
かっぱ「あと、わしらの恐ろしさもな!」
猛「本当にありがとう!」
カラス天狗「礼には及ばん!では皆の者行くぞ!」
  掛け声とともに、妖怪たちが道路から一遍に飛び上がった。

〇渋谷のスクランブル交差点
「あっちの耳にゃ、から傘小僧、こっちの耳にゃ...」
  彼らの姿が意識から遠ざかっていく...。

〇モヤイ像
  目を開けると、猛はモヤイ像の前に寝そべっていた。
猛「あれ?」
  朝の光が、大通りのアスファルトを照らしている。
猛「なーんだ、夢か・・・」

〇ハチ公前
  ハチ公前に行くと、まだ酔っ払いがたむろしていた。
酔っ払い「気持ち悪りぃ・・・」
酔っ払い2「オェー」
  若者は、猛の目の前で吐くと、そのまま帰っていった。
猛(夢の中の妖怪たちの方が、友達になりやすかったような・・・)
  足元には酒瓶やお菓子の袋が散乱している。
「“もし散らかしているところが神様に見つかったらどうなる?”」
  カラス天狗の声が聞こえた気がした。
猛「あ!ジャコランタン!モヤイ像の前に置いてきちゃった」

〇モヤイ像
  取りに戻ると、ランタンは確かにモヤイの顔の前に落ちていた。
  手に取ると、カタン、と音がする。
  中を見ると、小さな徳利が入っていた。
  猛は心に決めた。
  来年もまた、ジャック・オ・ランタンを持って、渋谷に来よう。
  そして、東京、いや武蔵で一番盛り上がる夜を楽しむのだ。

コメント

  • 百鬼夜行、妖の人達皆さんいい人(?)ですね。
    遊んだあとはちゃんと片付けて帰るとか、すごくマナーを守ってていいと思います。
    読んでて楽しかったです!

  • ピーク時のハロウィンの雑多な人達の流れは、あたかも百鬼夜行の様ですよね。あちらの妖怪たちのように、こちらの世界でも清掃を徹底してくれることを願いたいですね。

  • 人間たちより礼儀正しい妖怪たちで,怖い見た目に反して中身はとっても可愛いなと思いました。渋谷のハロウィン行列に妖怪たちも楽しく参加してそうだなと思いました!

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