追放された令嬢、リディア・ヴァレンタイン(脚本)
〇華やかな裏庭
エドワルド「...やはり、君との結婚は取りやめにしたい」
その言葉が耳に届いたとき、私は紅茶を置く手を止めた。
リディア「理由を伺っても?」
エドワルド「可愛げが無い。ずっと思っていた。君は冷たくて、笑顔もなくて...愛される努力をまるでしていないじゃないか」
リディア「...努力、ですか」
言葉を重ねるのも馬鹿らしかった。
私たちは政略で結ばれた関係。互いに感情を求めていたわけでもない。
それでも私は、婚約者としての務めは果たしてきたつもりだった。
私は、膝の上に置いた手を見下ろす。
そこにあるのは、淡い水色のワンピース。
華やかな令嬢たちが纏う、宝石や刺繍に彩られたドレスとはほど遠い、質素で古びた布。
リディア「他に、誰か心に決めた方でも?」
エドワルド「まあな。彼女は、僕に笑いかけてくれるんだ。君と違って」
どこか誇らしげに微笑む王太子――エドワルド殿下を見て、私はもう一度だけ問いかけた。
リディア「では、この場で婚約破棄を?」
エドワルド「そうだ。君とは、もう終わりにしよう」
リディア「...承知しました」
私は椅子から静かに立ち上がり、背筋を伸ばして一礼した。
リディア「短い間でしたが、お世話になりました。エドワルド殿下」
彼は一瞬だけ目を見開き、何かを言いかけて、結局口を閉じた。
〇西洋の城
帰宅すると、屋敷の門は閉ざされていた。
私の名を告げても、門番は眉ひとつ動かさない。
門番「お嬢様は...すでに当家の人間ではないと、旦那様から」
リディア「...そう、ですか」
〇西洋の街並み
その夜、私は王都の隅にある集落で夜を過ごした。
家族から届いたのは、小さな木箱と一通の手紙。
“お前はもう必要ない。どこへなりと行け”
それだけだった。
中を覗くと、見慣れたあの水色の服が丁寧に畳まれて入っていた。
一着しか与えられなかった、質素なワンピース。
ネクタイピンだけが、わずかに貴族の名残を示している。
華やかなドレスを与えられることも、髪を飾るリボンを選ぶ自由も、私は持たされていなかった。
リディア「...ああ、私、本当に捨てられたのね」
口に出したら、少しだけ涙がこぼれた。
でも、それはほんの一瞬の事。すぐに私は立ち上がり、いつもの無表情を作った。
リディア「――さて、これから、どうしようかしら」
このまま王都に留まっても、居場所などない。
ならば、行くべきは──
リディア「隣国、かしら」
かすかに口元を上げて、私は静かに夜の帳を抜けた。
ここから始まる。
私、リディア・ヴァレンタインの、追放された令嬢としての第二の人生が。