エピソード1、異世界転生って、もっと選ばれてから来るもんじゃないの!?(脚本)
〇一戸建て
朝。空は快晴。絶好の登校日和。
なのに、俺――、斎藤悠真(さいとう ゆうま)35歳、サラリーマン(疲れ気味)は、今、娘のランドセルを背負わされていた。
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「ちょ、待って? なぜに俺がランドセル背負ってんの?」
斎藤 柚月(さいとう ゆずき)「だってパパ、今日いっしょに行くって言ったじゃん。荷物持ちって、基本でしょ?」
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「お父さんはポーターじゃないですぅぅぅ!!」
斎藤柚月(さいとうゆずき)10歳、しっかり者。たまに大人を超える圧でツッコんでくる。
でも可愛いから許す。うん、親バカである。
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「つーかさ、なんで今日に限って『いっしょに行こう♡』って言ったの?」
斎藤 柚月(さいとう ゆずき)「なんとなく? 朝からパパの顔がやたら“不幸フラグ”って感じだったし?」
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「どんな顔だよ!? 俺の顔にバッドエンド書いてあんの!?」
斎藤 柚月(さいとう ゆずき)「いや、まじで今日、異世界転生あるんじゃね?って顔してた」
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「やめろ、怖いこと言うな...」
――それは、冗談だったはずだった。
......いや、まさかフラグって回収されるんですか!?
〇市街地の交差点
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「柚月、下がれっ!!!」
横断歩道。信号は青。
それなのに、突っ込んでくるトラック。
運転手、スマホ見てたな?
娘をとっさに突き飛ばす。俺の体が代わりに跳ねられる。
世界が、反転する――。
斎藤 柚月(さいとう ゆずき)「パパ!ちょっとパパ!起きてよ?!冗談でしょ?!」
〇幻想空間
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「...え、えーっと、俺、死んだ?」
次に目を開けたとき、宙に浮いていた。
「ようこそ、選ばれし者よ...」
光の中から、ふわっと現れる謎の声。姿は見えない。でも声だけはめっちゃナレーション。
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「うおっ、出た! これ、よくあるやつ! 転生担当の人でしょ!?」
「あなたは娘を守って命を落とし──」
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「説明長い!!もうわかってるから早くして!!」
「新たな世界で第二の人生を──」
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「娘は!?」
「あ、娘さんも一緒ですぅ」
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「それ最初に言ってぇぇぇぇぇ?!」
〇森の中
そして次の瞬間、地面にゴンッと叩きつけられた。
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「いってえぇ...って、え、草? 森? 空がファンタジー?!」
斎藤 柚月(さいとう ゆずき)「...パパ? なんでわたし、パジャマで草の上...って、ここどこぉぉぉ!?」
娘、覚醒。第一声は鋭いツッコミだった。
斎藤 柚月(さいとう ゆずき)「なんか変な声がしてさ! 気づいたら光に包まれててさ! ていうかさ!!」
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「え、なになに!?」
斎藤 柚月(さいとう ゆずき)「なんで異世界なの!? しかもパジャマで転生!? 親子で!? しかも...」
柚月、ぐるりと周囲を見渡す。
そして言った。
斎藤 柚月(さいとう ゆずき)「...コンビニ、ないじゃん」
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「そこかーーーー!!!!!」
こうして俺たちは、異世界に親子で転生しました。
頼れるのは、父の人生経験(ただし会社員)と、娘の鋭いツッコミ(精度は高い)。
なんだこの世界、チュートリアルなし!? 魔王いるの!? 学校は!? Wi-Fiは!?
斎藤 柚月(さいとう ゆずき)「うーん...とりあえずさ、パパ」
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「ん?」
斎藤 柚月(さいとう ゆずき)「ごはん、ある?」
斉藤 悠真(さいとう ゆうま)「知らんがな!!」