10%の力

浅葱

非日常に日常を(脚本)

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〇病院の廊下
  ノストラダムスの大予言を数年過ぎたにも関わらず、人々は未曾有の災厄に見舞われた。
同僚看護師「ごめん! 人足りなくて・・・。 もうすぐ次が来ると思うんだけど、あと少しだから、そこにいてくれない?」
同僚看護師「立ってるだけでいいから!!」
看護師「・・・分かった。大丈夫だから、行ってきて。ほら、救急車来たよ」
同僚看護師「お願い!」
看護師(もう、退勤時間過ぎてどれくらい経ったかな)
  手持ち無沙汰で院内を見回すと、片隅にオーナメントで飾り付けられたクリスマスツリーが輝いていた。
看護師「あれ、今、8月じゃなかった?」
  窓の外はクリスマス一色。外を歩く人々は、皆マフラーに厚手のコートで身を震わせていた。

〇マンション群
  何よりも先にダメージを受けたのは、そして受け続けているのは、間違いなく医療従事者だった。

〇渋谷のスクランブル交差点
看護師(・・・疲れた。 これ、いつまで続くかな?)

〇渋谷のスクランブル交差点
看護師「うわ!? 雨降ってきた! えー、家までまだ、とお、い、のに・・・」

〇シックな玄関
看護師「── コロナで職場が大変らしいから、そっちに回ることになったの。パパ、しばらくリモートなんだし悠のこと、お願いね」
夫「は!? 何言ってんだよ? 子ども小さいのに・・・、それにお前も罹るかも・・・」
看護師「今頑張らなくていつ頑張るのよ? パパがダメなら私の親に頼んであるから大丈夫。私も、職業柄体は強いし」
夫「大丈夫ってことはないだろ!!」
悠「ふぁー、んぅ・・・ママ? どこかいくの?」
看護師「悠! ごめん、起こしたね。 パパと悠に万が一があったらいけないから、当分家には帰れないの」
看護師「パパ、悠のこと、頼むね! ごめん。行ってきます! ──」

〇渋谷のスクランブル交差点
看護師(・・・そうだ、家、帰れないんだ。 夕飯、というか深夜食はコンビニのおにぎり。うーん、食べれる気がしないなぁ)
看護師「かといって、作る体力も無い。 悠の顔見たいなー。夜、ちょっと行って窓から覗いて・・・いやいや、そんな事したら戻れなくなる」
看護師「あー、つら。 ストレスで食べる物は味しなくなるし、 疲労と精神の摩耗で、不調がフルラインナップだし」
看護師「人間、食事を楽しく感じなくなったら終わりらしいけど・・・」
看護師「これは結構・・・」
看護師「しんどい」

〇渋谷のスクランブル交差点
看護師(目が霞む。お腹は空いているのに食べ物を口にできる気がしない。吐き気もする。頭痛は一向に治らない)

〇渋谷のスクランブル交差点
看護師(ちょっと、不味い。 あーーーーーーー)
看護師「”限界”だ」

〇渋谷のスクランブル交差点
  ー 轟々(ごうごう)と音を立てて打ちつける雨の中、スマホのコール音が一際高く鳴った。

〇渋谷のスクランブル交差点
看護師「もしかして・・・、パパと悠かな?」
  鬱々とした気持ちが一気に晴れ、期待で胸が躍る。
  ドラマでよく見る展開だ。落ち込んでいるところに丁度よく電話がかかってきて、慰めてくれる。そんな展開 ──

〇渋谷のスクランブル交差点
看護師「はい!」

〇渋谷のスクランブル交差点
「ごめん、人が足りないの! 少し早いけど、戻ってくれない?」

〇渋谷のスクランブル交差点
  ── そんな都合の良い展開は、現実にあるはずがない。
看護師「・・・分かりました」
看護師「自分で死ぬ時間もない、か」
看護師「頑張ろ」

〇渋谷のスクランブル交差点
  ──新たに1万1220人の新型コロナウイルス陽性者が...──
  昼間に電光掲示板で見た、気が滅入るような数字を思い出す。
看護師「はぁー」
  また、スマホが鳴る。
看護師「あぁ、もう! こんな忙しい時に誰よ⁈」
  ヤケになりながら受話器マークを押す。
「ママ? いま、いそがしくない?」
看護師「悠⁈」
悠「もしもーし?」
夫「ごめん、今、大丈夫? もらったシフト表では空いたたけど、もしかして立て込んでる?」
看護師「少しなら、大丈夫。 何かあったの?」
悠「んーとね、 ママ、おたんじょう日おめでとう!」
看護師(そうだった。 今日、私の誕生日だ)
  嬉しいのに小っ恥ずかしい、羽でくすぐられたような感覚。
  重だるい体がすっと軽くなる。
看護師「あ、ありがとう」
夫「何欲しいか分からなかったから、とりあえず悠と一緒に作ったおかずぽいもの送ったよ。保存は効くから」
悠「ママ、ねなきゃだめだよ! ごはんも!」
看護師「うん! ありがとう」
  後ろ髪を引かれながらも、スマホをきる。
  目の前は職場だ。
看護師「・・・あと少し、うん、頑張れる!」

コメント

  • 家族の思いやりが、何よりも元気をくれますよね。
    医療従事者の方々は本当に大変だと思います。
    早く収束するといいなぁって思いますが、まだまだの気配です。

  • 忙しかったり辛いときこそ、身近な人の温かい言葉や思いやりに助けられるんですよね。人は究極的には孤独だけど、それでもやはり他人の温かさが必要な生き物です。

  • 新型コロナウィルス感染防止の為に医療従事者が日夜仕事に励んでいます。彼女らのお陰で人命が繋がっています。これからも頑張ってください。

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