感謝を伝えたくて

桜庭望矩琉

余命宣告(脚本)

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桜庭望矩琉

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〇病院の診察室
実樹(みつき)「覚悟は大丈夫ですか?」
萌夏(もか)「はい、大丈夫です」
実樹(みつき)「阪本萌夏さん、検査の結果・・・ステージ4、末期の乳がんです」
萌夏(もか)「えっ!?」
実樹(みつき)「がん細胞が、骨とリンパに転移しています」
萌夏(もか)「そんな・・・」
実樹(みつき)「余命はもって半年でしょう」
  私は、25歳で普通に仕事をしている。そして今、私は余命を宣告された。
  なんで私が、なんで私が死ななくちゃいけないの?まだやりたいこと、たくさんあるのに・・・
  したかったことがどんどん溢れてくる。
実樹(みつき)「阪本さん、今すぐにでも治療を開始したいので、入院していただきます」
萌夏(もか)「あ、あの!1日だけ待って貰ってもいいですか?」
萌夏(もか)「家族に病気のこと伝えたいので」
実樹(みつき)「分かりました。では明日またここに来てください。痛み止め出しておきますね」
萌夏(もか)「すみません」

〇開けた交差点
萌夏(もか)(なんで私なんだろう・・・)
萌夏(もか)(私死ぬんだ・・・でも死にたくない)
萌夏(もか)(でも、最後は、母さんの手料理が食べたいな)
萌夏(もか)「母に会いに行こう」

〇古風な和室(小物無し)
  私の実家は、今私が住んでいるところから、2、3駅離れたのどかな田舎だ。
  そこで、母は旅館の女将をしている
萌夏(もか)「たっだいま〜帰ってきたよ」
華緒里「・・・・・・」
萌夏(もか)「えっ!?何母さん、娘が帰ってきたのに無言な訳」
華緒里「ごめんね、急に来たからびっくりしちゃって、あなた?萌夏が帰って来たわよ!」
京士朗「おぉー萌夏じゃないか。久しぶりだな。どうだ仕事は順調か?」
萌夏(もか)「うん順調だよ。今日もお客さんにメイクしてあげたんだ」
華緒里「嘘ね。何かあったんでしょ?」
萌夏(もか)「えっ?嘘じゃないよ。本当のことだよ」
華緒里「あんたって嘘をつく時に耳を触る癖があるでしょ」
華緒里「何年あんたの母親やってると思ってるの。何かあったなら話して」
萌夏(もか)「・・・・・・」
萌夏(もか)「ねぇ母さん、お腹すいちゃった。今日の晩ご飯何?」
京士朗「お?萌夏もいるし、久しぶりの家族団らんだな」
華緒里「作り置きが余ってるからそれを食べましょう」
萌夏(もか)「わーい!久しぶりの母さんの手料理だ!」
萌夏(もか)「あ、あのさお兄ってまだ部屋にいるの?」
京士朗「まだ出て来ておらん。あんなやつもう知らん」
京士朗「だいたい、受験に失敗したくらいで、へこたれおって」
京士朗「根性が足りんのだ。根性が」
華緒里「ちょとあなた、そこまで言わないでちょうだい」
華緒里「亜蘭には立ち直るまでに時間が必要なのよ」
萌夏(もか)「私ちょっとお兄の部屋行ってくるね」
  母と父の、言い合いをよそに、私は兄の部屋へ向かった

〇部屋の扉
萌夏(もか)「お兄いる?」

〇汚い一人部屋
亜蘭「萌夏か?」
亜蘭「何しに来た」

〇部屋の扉
萌夏(もか)「お兄に会いたくて、出て来てくれない?」

〇汚い一人部屋
亜蘭「それは無理だな。俺は落ちこぼれだ。お前とは違う」
亜蘭「だから二度と話しかけるな」

〇部屋の扉
  私はドアの横に腰を下ろしてお兄との話し続ける
萌夏(もか)「お兄、覚えてる?私がまだ小さかった頃、みんなからいじめられて」
萌夏(もか)「そんな時、お兄が助けてくれたよね」

〇田舎の公園
少年A「やーい、弱虫」
少年B「チビ!悔しかったらかかってこいよ」
もか(幼少期)「かえ・・・して・・・ひっ・・・うぁ・・・」
少年A「うわっ、こいつ、きっも!!」
少年B「ほんとだ!うじむしみたい。きもちわる〜」
あらん(幼少期)「妹を、いじめるな!!!」
少年A「げっ!大将だ」
少年A「ぐっ・・・」
あらん(幼少期)「もか、大丈夫か?エピペン打ったからすぐ楽になるからな」
あらん(幼少期)「それに、救急車も呼んだから、すぐに来てくれる」
もか(幼少期)「はぁ・・・はぁ・・・」
もか(幼少期)「あり、がとう・・・お兄ちゃん」
あらん(幼少期)「君たち、もしかしてクッキーを食べさせた?」
少年A「だから何?別に食べさせたところで問題ないでしょ?」
少年B「そうそう、僕たちが好き嫌いは良くないって教えてあげてたんだ」
あらん(幼少期)「もかは!牛乳アレルギーなんだ」
あらん(幼少期)「好き嫌いじゃない!下手したら死ぬんだ。 それぐらいアレルギーは怖いんだってお母さんが言ってた」
少年A「それは・・・僕たちアレルギーなんて嘘だと思って」
あらん(幼少期)「それに、これは、悪いことだ!悪いことをしたらお巡りさんに捕まってずっと牢屋に入れられるんだって、それでもいいの?」
少年A「・・・うっ、それは・・・」
少年B「・・・ごめん」
あらん(幼少期)「謝るのならモカに謝ってよ。僕じゃなくて、 モカが、回復したら学校に行くから」
あらん(幼少期)「それにもう、モカをいじめないであげて。アレルギー以外は、普通の女の子だから」
少年B「分かった。約束する」

〇部屋の扉
萌夏(もか)「あの時、お兄が助けてくれて、すごく嬉しかった」
萌夏(もか)「私にとっての、ヒーローだなって思ったんだ」

〇汚い一人部屋
亜蘭「いきなり、なんの話してんだよ。そんな昔のこと・・・俺は落ちこぼれだ」

〇部屋の扉
萌夏(もか)「違うよ、お兄!お兄は落ちこぼれなんかじゃない」

〇汚い一人部屋
亜蘭「何が違うってんだよ!落ちこぼれだって言ったんだろ!」
亜蘭「もういい!お前と話すことはもうない。ここから離れろ!」
亜蘭「お前まで落ちこぼれになるぞ」

〇部屋の扉
萌夏(もか)「じゃあ、これだけ伝えさせて、お兄ちゃんに会いたい。お兄ちゃんの顔を”最後”に見ておきたいの」
萌夏(もか)「私の最後のわがまま聞いて、お兄ちゃん」

〇汚い一人部屋
亜蘭「はぁっ!最後ってどういうことだよ。意味わかんねぇ」

〇部屋の扉
萌夏(もか)「なん、で、こんな、ことに、なっちゃったのかな・・・うぅ」
萌夏(もか)「お兄ちゃん、私ね、もうすぐ死ぬんだ」
萌夏(もか)「余命っていうのかな、あと半年なんだって」
萌夏(もか)「ステージ4の乳がんだって。なんで、私なのかな。やりたいこと、まだいっぱいあるのに」

〇部屋の扉
亜蘭「死ぬってどういうこと?」
萌夏(もか)「お兄ちゃん・・・」
萌夏(もか)「うぅ・・・」
  私は久しぶりにお兄ちゃんの腕の中で、思いっきり泣いた。まだ小さく幼かったあの頃のように
  お兄ちゃんは、昔のように優しく髪を撫でてくれた。
  大人へと成長したその手は、辛かったことを全部包み込んでくれる・・・そんな感じがしてすごく安心する

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