SAKURAと天使(脚本)
〇カフェのレジ
「ホットココアのトールを、熱めで」
〇カウンター席
スターバックスSHIBUYA TSUTAYA店
2階カウンター席
まだ静かなスクランブル交差点を
見下ろしながら、もったりと絡みつく
ココアの違和感に季節の変化を感じる
「あの時はフラペチーノだったな」
ビルの隙間から差し込む金色の光の束に
思わず目を閉じる
〇古い洋館
2002年、夏
私の住む長崎では現存教会修復の為に
8月の間イタリア建築家の先生が滞在した
私は夏休みの間、先生の息子と共に
建築を学び、その世界に魅せられ、
今年晴れて都内の建築学科へ進学した
〇カフェのレジ
今日は土曜日、
殺風景なワンルームを彩る本を探しに
SHIBUYA TSUTAYAに足を運んでいた
私のすきな無名の建築デザイナー
「angelo」のデザイン画集を見つけ
ほくほくした気持ちで足を運んだ
2階のスターバックスに
金色の髪のくしゃっとした笑顔で
レジに立つ天使がいた
彼「こんにちは、ご注文お伺いします」
私「天使、、あっ、甘いやつ、、えっと、、」
あまりの綺麗さに一気に顔の体温が上がり
言葉が詰まる
彼「ではこちらのフラペチーノはどうですか? 期間限定桜色の甘いドリンクです」
私「じゃあそれで、、」
〇カウンター席
恥ずかしさで逃げるようにドリンクを決め
席に座る
本の内容が一区切りする頃、
ようやく心臓は正常な速さに戻っていた
ふと気の抜けた生クリームに目をやると
「GOOOD DAY」の文字と
ちっさな天使の絵
「ふふっ」
『天使って聞こえたので描いてみました』
思わず笑みがこぼれる私の背後から
聞こえる声に思わず振り向く
私「あ、さっきはすみませんでした!!」
自身のレジでの無愛想な態度に
思わず謝罪が飛び出す
彼「いえいえ、それより」
私「えっ?」
視線の先にはangeloの画集
〇カウンター席
気がつくと蛍の光が流れるまで
私たちは建築デザインに関する談義に
花を咲かせていた
曰く彼はフリーランスの建築デザイナーでここの書籍コーナーのデザインに惹かれ
バイトもしているそう
〇カウンター席
この日以降大学の講義がない時はSHIBUYA TSUTAYAに足を運び、
建築デザインの本を読みながら、
時間が合えば彼と建築デザインについて
語る日々を送った
好きな建築物から建築を志すきっかけまで話す内容は尽きなかった
しかし徐々にホットココアが
美味しくなってきた季節、
彼はパタリと顔を見せなくなった
辞めたのかな、、と思いつつ、
いつもの席で画集を読み耽っていると
仲の良い店員さんから預かりのメモを
受け取った
『いちばん初めの天使』
「彼の字だ」
〇書斎
ピンときた私は急いで居心地の良い
ワンルームに帰り、
4月に買ったangeloの画集を開く
ページを捲ったいちばん最後、
そこにはちっさな天使の絵と
茶色の質素な木造の教会
見た瞬間私は家を飛び出し
空港へ向かった
このデザインに使われている色ガラス窓、
コーモリ天井を私は知っている
〇古い洋館
着いた先は私の地元長崎、
目の前には茶色の質素な木造の教会
忘れもしない、私が建築に魅入られた夏、
先生が命を吹き込んた教会
〇教会内
息を整えて扉を開けると
色ガラス窓を抜けた眩い光が目を覆う
一瞬細めた目を開けると、
マリア像の前にはくしゃっと笑う
おっきな天使が立っていた
〇黒
おまたせ
〇カウンター席
目を開けるとすっかりのぼった太陽に
人通りの多くなったスクランブル交差点
隣には少し冷めたココアと
桜色のフラペチーノを交換する彼
私「これ、、ちょうど夢に見てたの あの夏のこと、ここでの再会のこと」
彼「僕も見つけて思わず買ったよ まさに運命のドリンクだね 今日は忙しいよ! 空港に向かおう」
〇渋谷駅前
手を惹かれ私と彼はスクランブル交差点を
通り渋谷を後にする
交差点の電光掲示板では
イタリア人実力建築デザイナーangelo、
一般女性と結婚のNEWSが
大々的に報じられている
angeloは有名建築家のお父様発案で、
イタリア語で「天使」というそうです
コメンテータの解説は
行き交う人々の声に乗り
桜舞う空へと消えていった
風景というより、私は色を凄く感じました。
特に人間は人にはよりますが色彩イメージは強く根付いて残るものだと思っています。
思い出も、恋も。
冒頭のカフェのシーンが心地よく、自然と物語の中に入り込めました。ANGELOという建築家が二人を引き合わせてくれたような、同じ情熱を持って惹かれ合う二人の関係がとても繊細に描かれていると思いました。イタリア在住なので、教会建築の素晴らしさとても共感いたします。
桜に関係したこの物語の中で、爽やかで甘い香りのする恋物語がとてもマッチしていました。彼女と彼との運命は何処かで繋がっていたんだと思いました。