泣かない蝉

真庭

エピソード7(脚本)

泣かない蝉

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〇田舎の病院の病室
ショウ「・・・此処、は・・・」
  見慣れた病室
  ──否、そのベッドに横たわるのは
  僕の患者じゃない
  僕らの恩師だ
ショウ「・・・ヒナタさん」
ヒナタ「~♪」
  お腹を撫でながら穏やかに歌う姿は、
  妊婦にしてはお腹が目立たないとしても、
  確かに『母親』だった
ショウ「・・・」
  ──僕は、この姿を見守るしかなかった
  研修医どころか、まだ医大生だったのだ
ショウ(その時には既に、手遅れなところまで来ていた)
ショウ(・・・なんて、言い訳だ)
ヒナタ「~♪」
ヒナタ「・・・」
  ヒナタさんが徐に、窓を見る
  降り注ぐ雨、重たい雲、

〇雲の上
  ──その向こうにある”青”に
  見惚れたみたいに

〇田舎の病院の病室
ヒナタ「・・・」
ヒナタ「アカリや、ヒカリも素敵だけど・・・」
ヒナタ「──うん、やっぱり『ソラ』にしましょう」
ヒナタ「ソラ」
ヒナタ「あなたはソラ」
ヒナタ「太陽も月も、 どんなに遠い星だって『そら』の中に在るもの」
ヒナタ「繋がりの色彩(いろ)」
ヒナタ「どこにだって行けるし」
ヒナタ「どんなものにだって出逢える」
ヒナタ「誰の傍にだって寄り添える」

〇雲の上
  その青(そら)の涯で──
  私たちもきっと、あなたと一緒に在るわ

〇田舎の病院の病室
ショウ「・・・ヒナタさん・・・」
ヒナタ「・・・なんて」
ヒナタ「祈りなんかじゃ・・・あなたのさみしさも くるしさも、なくならないわよね」

〇屋上の入口
  場面が、変わる
  テラスへ続く扉を背にして、
「──ねえ、先生」
ソラ?「一瞬にいたいって言ったら、 先生はいてくれる?」
  わたしを、おいていかないでくれる?
  細く、白く、小さな手が差し出される
ショウ「・・・」
  ただ、反射的にそれへと腕を伸ばして──

「先生は約束したから、駄目だよ」

〇シックなリビング
ショウ「──っ」
  急に身体を動かしたせいで、
  脳が揺れる
  視界が回る
ショウ「・・・」
  深呼吸を繰り返してそっと瞼を上げれば、
  向かいのソファで、リュウが足を組んで
  舟を漕いでいるのが見えた
  この家ではよく見る姿だ
  ・・・いつものことだが、
  背中とか痛めるだろうに
ショウ(・・・でも、)
ショウ(いや、”だからこそ”)

〇田舎の病院の病室

〇屋上の入口

〇シックなリビング
  あれが、夢だと判った
  僕は・・・ヒナタさんから直接、
  ソラの由来を聞いてはいないから
ショウ「・・・」
  最後──目を覚ます直前に聞こえた声は
  誰だったのだろうか
  患者の子たちにしては落ち着いた、
  しかし病院の職員たちより幼げな──
ショウ(ヒナタさんに、似ていた気がする)
ショウ(というより・・・ソラがもう少し 大人になったような)
  自然と、視線が写真に向かった
ショウ「・・・あれ?」
  写真立てに添えられたグラス──
  それはリュウの日課だ、今更気にしない
  問題は──写真立てに寄り添うように
  置いていたもの

〇中庭
ソラ「これ、みんなと作ったの!」
ソラ「先生にもあげる!」
ソラ「・・・心が晴れる、おまじない」

〇シックなリビング
  布とリボンだけで作った、
  満面の笑みがペンで描かれたてるてる坊主
  ──リボンが千切れたのか、
  てるてる坊主は崩れてしまっていた
ショウ(まあ、布とリボンとはいえ端切れだし・・・)
ショウ(ずっと掛けずに置いていたとはいえ数年もったなら、むしろすごいことだ)
ショウ「・・・ソラには言えないけどね」
  ──お守りなどが千切れる、壊れるのは
  災難の身代わりになったからだと言うが
  ”おまじない”でも、それは同じなのだろうか
ショウ「不吉の予兆とかじゃないと良いんだけど」

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